タイムスリップ
タイムスリップした。
午後いちの生徒さんが帰った後、集中して作品を書いた。
今日はもう誰も来ないので気にせずに書ける。
作品を書くにはやっぱり「気になるものがない」という状況は重要である。
「陽光温熱歳月静好」
タッチにあう紙もようやく見つけた。墨もたっぷりある。
ここからは一心不乱である。
どれくらい書いたろう。
ふと壁の時計を見ると6時を回ってる。
夏時間だから午後6時なんかまだ陽が高い。
6時半からボディコンバット。
硯にカバーを置いて、運動着に着替える。
そしてパソコンにメールが来ていないかをちらっとみる。1件ある。
返信してもまだ間に合うと判断し、キーボードを叩き始める。
送信完了。早く行かなきゃ。荷物を持って教室をでる。施錠する。リフトで下りる。徒歩でFitnessfirstへ。
荷物をロッカーに入れて、コンバットのROOM1へ。
と、部屋は真っ暗、誰もいない。
なんで?
スケジュールが書いてあるモニターを見る。
ボディコンバットは6時半からと書いてある。
なんで?
キョロキョロする。コンバット仲間を探す。
誰もいない。みんなこの状況知ってたの?何何何???
奥の壁の黒地に赤文字のデジタル時計に数字が羅列してある。
一番左に16と表示されているではないか。
なんだ?ちゃんと動いてないのか?
それにしてもおかしい。
でも誰も取り乱してない。挙動不審は俺だけだ。
Room1の奥の時計が目に入る。これも文字の羅列が間違ってる。
なんだ、全く管理がなってない。
一番左16って何だよ。18だろ。
え、あっちも、そっちも、16? え、何、4時だって言いたいわけ?
ってか、この世界はまだ4時半ってこと?
じゃあさっきまで俺がいた世界はどうなったわけ?
こっちの世界に強制的に移行させられたってこと?
誰に? どうして?
それまで居た世界はどこいっちゃったの? パラレルワールド?
ということは今こっちの世界にいる人って、
さっきまでの世界とは、同じ姿をしてても違う人たちってことだろ?
宇宙的なにか?俺なんかそういうことに巻き込まれてんの?
じゃあ、これを読んでる人も、さっきまでの俺の世界とは違う人たち、
パラレルワールドの人たちってことだよな。
この世界の人は、さっきまで俺がいた世界のことは知らないわけだから、
俺のこと気が変になったと思うと思うけど、それは違うぞ。
まさか俺がタイムスリップを経験するとは。。。
頭の中にいくつもの???を抱きながら一旦ジムを出て教室に戻る。その道すがらにすれ違う人々も走っている車も、全く違和感はないのにもかかわらず、さっきまでいた世界のものとは違うということなのだろうか。
母は?と母親のことが脳裏をよぎる。
母はどうしたのだろう。早く電話をかけなくては…。でもその向こうの彼女もさっきまで俺がいた元の世界の彼女とは違うのかもしれない。それを確かめる術はない。
今が現実に変わったのだとすると、俺を産んでくれた本当の母とはもう会うことはできないのか?
急ぎ足だったのに、俺のその歩はだんだんと遅くなり、そのまま路上で止まってしまった。
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