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サスティナブルなものづくり「アップサイクル」がゴミの概念をなくす?

ものを捨てない取り組みとして、リユース・リデュース・リサイクルという言葉はよく耳にしますよね。最近、ここに「アップサイクル」が加わったのはご存知でしたか?

今回は、よりサスティナブルなものの在り方を実現する「アップサイクル」についてです。

アップサイクルとは?

アップサイクルの定義
アップサイクルとは、廃棄物や不良品の素材を活かしつつ、より良い別の製品につくり変えること。つまり、捨てられるはずだったものに新しい価値を持たせることで、再び命を吹き込むことを言います。サスティナブルなものづくりの考え方で、最近はファッション分野で注目されています。

アップサイクルの、リサイクルやリユースとの違い
リサイクルでは、廃棄物を再び製品とするまでに、「原料に戻す」過程を踏んでいました。一方、アップサイクルは「素材をそのまま活かす」という考えに基づいています。そのため、「原料に戻す」過程で必要だったエネルギーを抑え、環境負荷を軽減できます。

また、繰り返し同じものを使うリユースとは違い、アップサイクルでは別の製品につくり変えるので、その素材をより長く使いつづけられることが期待されます。

ファッション分野でアップサイクルが注目される理由

85%の生地が余り、廃棄される現状
衣服のために大量の生地がつくられますが、「色・質感に相違があった」「余分につくりすぎた」などのミスで、多くの生地が余ります。それらは倉庫に保管された後、未使用であるのに廃棄されてしまうのです。

生産された生地のうち衣服となるのは15%で、残り85%の余った生地は焼却・埋め立て処分されているのが現状です。本来、利用可能なものがゴミとして扱われることで、環境や労働にも多大な負荷がかかっています。

(Ethical Fashion Japan「アップサイクルについて」より)

国連のアップサイクルへの取り組み「ファッションチャレンジ」
2019年8月、国連は個人による気候変動対策をグローバルに呼びかける#ActNowキャンペーンの一環として、「ファッションチャレンジ」を立ち上げました。ファッションチャレンジとは、アップサイクルなどを通じて持続可能なファッションを推進する取り組みです。

具体的には、衣料回収プロジェクト「BRING」参加企業の店舗で、衣料品回収をおこないました。また、持続可能なファッションへの取り組みを、「#ファッションチャレンジ」を添えてSNSに投稿するのを呼びかけました。

このように、世界的にもファッション分野のアップサイクルに注目が集まっています。

(国連連合広報センター「国連 『ファッションチャレンジ』キャンペーン: アップサイクリングをライフスタイルに」

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アップサイクル国内事例

BEAMS手がけるアップサイクルブランド「BEAMS COUTURE」
日本を代表するセレクトショップBEAMS(ビームス)は、新規ブランド「BEAMS COUTURE(ビームス クチュール)」を立ち上げました。同社が倉庫に抱えていたデッドストック品を、さまざまなクリエイターやブランドと共同して「一点モノ」として蘇らせます。今後はファッション以外の不良在庫の活用も検討しているそうです。

日本の伝統品「着物」をハンドメイド素材に
株式会社リクラは、着古された着物を「キモノヤーン」というハンドメイド用の素材にアップサイクルするプロジェクトを進めています。着物の回収はリクラのWebサイトを通じて無料でおこない、生産は外部の工場に委託。裁断作業後の繋ぎ合わせてヤーンにする工程は、すべて手作業です。キモノヤーンはハンドメイド通販サイト「ミンネ(minne)」で販売していますが、今後はさまざまな販路を開拓していくようです。

“黒染め”で倉庫の服に新しい価値をつける「FROMSTOCK」
グローバルワークやニコアンドなど、数々のブランドを手がける株式会社アダストリアが、新ブランド「FROMSTOCK(フロムストック)」を2020年2月にリリースしました。倉庫に眠る服を“黒染め”することで、キズや汚れも独特の風合いとして表すなど、新しい価値を持った服に生まれ変わらせます。また、“黒染め”はシンプルで新たな廃棄物が出ない、環境に優しい手法でもあります。

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(株式会社アダストリアのプレスリリースより)

破棄されたタイヤチューブでバッグや靴を生み出す「SEAL」
「SEAL(シール)」は、破棄されたタイヤチューブの素材を最大限活かし、バッグや靴などに生まれ変わらせるアップサイクルブランドです。素材が特殊なため、日本の熟練した職人が一つ一つ丁寧に手作業で縫製しています。「一点モノ」と「メイドインジャパン」を魅力として、愛着あるものを長く使いつづけたいという人から支持を得ています。

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(「SEAL」を手がける株式会社モンドデザインのプレスリリースより)

アップサイクル海外事例

NYファッション生産者の廃棄に着目した「Fabscrap」
「Fabscrap(ファブスクラップ)」は、2016年にニューヨークで立ち上げられた非営利団体です。ファッションデザイナーやブランドから布の切れ端や不要な布を回収し、新しい生地を製造、もしくはそのまま施設へ再販するという活動をおこなっています。ニューヨークのファッションの生産時に捨てられる布地の量は、消費者が捨てる量の約40倍にもおよびます。この課題解決を目的に誕生したファブスクラップは、創設1年でクライアント数50以上になるほど、勢いを増しています。

ブラジルで開設された「布の銀行」
2015年に開設された「Banco de Tecido(バンコ・デ・テシード)」では、使用されなくなった布地を査定し、査定額を貯蓄していく仕組みをつくっています。貯蓄した金額で布地を購入でき、集まった布地はアップサイクルやオンラインなどで販売されます。また、不定形な端切れは、貧困エリアでのサポート活動に利用してもらうために、NGOに寄付されます。

ブランドひしめくイタリアで生まれた「Progetto QUID」
イタリア北部ベローナに拠点を置くアップサイクルブランド「Progetto QUID」。高級ブランドで使用される良質な生地でつくった服を、高級ブランドよりもお手頃な価格で提供しています。“手元にある生地でデザインをつくる”コンセプトで、商品には生地の特徴が存分に活かされています。また、移民や職を失った人など社会的に厳しい立場に置かれる人を雇用するなど、持続可能な社会を目指すための取り組みにも積極的です。

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(「Fabscrap」公式HPのスクリーンショットより)

アップサイクルでゴミという概念がなくなる

リユースやリサイクルは環境負荷の軽減には寄与するものの、「ゴミを減らす」考えに基づいたものでした。アップサイクルでは、ゴミとなるはずだったものに価値をつけて、まったく新しいものに生まれ変わらせることができます。つまり、「ゴミ」という概念自体をなくせる可能性を秘めているのです。誰かにつくられたものに、最後の最後まで価値を与えて使いつづけていく。そんな未来が、アップサイクルで実現できるかもしれません。

▼Renameのアップサイクルプロジェクト「Rename X(リネーム クロス)」
Renameでもアップサイクルを始めました。デザイン性のみでなく、環境・社会に配慮した服に対する価値観と、快適な服を提供します。


執筆=中原 愛海