髭男爵 山田ルイ53世

髭男爵 山田ルイ53世

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週一県民⑤

世のお子様たちと同様、今年3歳になる筆者の次女も、『アンパンマン』に夢中だ。 一番のお気に入りは、ドキンちゃん。 言わずと知れた、バイキンマンの相方である。 DCコミックスならジョーカーの恋人ハーレー・クイーン、『ルパン三世』なら峰不二子のポジション。 俗に言う、小悪魔属性のキャラクターに惹かれるとは、親として少々気掛かりだが、筆者が買ってやった人形やぬいぐるみを手にハシャぐ姿は実に微笑ましい。 まだ舌っ足らずな娘は、どうしても、 「ジョキンちゃーん!」 としか発音

    • 「覚えてる?」

       新幹線姫路駅の改札を出て、迎えのワンボックスカーに乗り込む。 筆者の故郷、兵庫県三木市にもほど近い、加西市へと向かったのは、2022年の夏だった。  この日の仕事は、講演会。 「一発屋ごときが何を語るんだ!?」 とお叱りを受けそうだが、“中2の夏から不登校、そのまま6年間ひきこもり”という過去を基に色々喋って欲しいとのオファーをいただいたものだからご容赦願いたい。  道中、ハンドルを握るのは、今回のイベントの主催者である市の職員の男性。 気を遣っているのか、 「いや~

      • 一発屋芸人の不本意な日常(少しご紹介③)

        かつて、「最高月収を発表する」という企画がバラエティー界を席巻した時代があった。 文字通り、一発屋と呼ばれるジャンルの芸人が、最も売れていた頃のギャラを公開するというもので、 「最高月収は……○○万円です!!」 と過去の栄光、懐事情を自ら暴露するという、なんとも下衆な場面が数多くのテレビで繰り広げられたのである。 当時、筆者が釈然としなかったのは、一発屋ではない出演者、即ち、番組のレギュラー陣が、 「え―――――――――!!!」 と驚愕の声をあげること。 いや、

        • 一発屋芸人の不本意な日常(少しご紹介②)

          筆者の職業は漫才師。 コンビ名を髭男爵という。 20年ほどの芸歴の真ん中あたり、2008年に一度そこそこ“売れた”ものの現状は芳しくなく、世間様からは「一発屋」などと呼ばれて久しい。 一発屋のレッテルを貼られた芸人には、それ相応の仕事しか舞い込んでこない。 それは、求人情報誌のページを何枚捲っても見当たらないカテゴリーのオファー。 もはや、「一発屋仕事」とでも命名するしかない案件である。 テレビ番組の旬な食材を紹介する企画では、「旬じゃない人達」という名目の下集められ

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          一発屋芸人の不本意な日常(少しご紹介①)

          数年前のこと。 下北沢のおでん屋で、知人と酒を酌み交わしていると、店員に案内されて1組のカップルが隣のテーブルに座った。 2人とも20代半ばといったところか。 聞こえてくる会話は、他愛のないくだらぬ内容ばかりだったが、大いに盛り上がっており微笑ましい。 何かよほどいいことでもあったのだろう。 男の方が上機嫌で、運ばれてきたビールのジョッキを高く掲げると恋人に向かって、 「ルネッサーンス!!」 と我々「髭男爵」の往年のフレーズを叫んだ。 いや、別段コチラに気づい

          一発屋芸人の不本意な日常(少しご紹介①)

          週一県民③

          世間的には既に忘れ去られているかもしれぬが、筆者にとって金曜日はいまだプレミアム。 名前を付けるなら、“やまなし・フライデー”だろうか。 といっても、 「おーい!パパ特製のほうとうが出来たぞー!?温かいうちに食べなさーい!」 と妻子に故郷の味を振る舞い、信玄公を称える日……ではない。 当方、生まれは兵庫。 山梨は地元でもないし、ついでに白状するとほうとうは苦手だ。 “やまなし・フライデー”とは文字通り、「金曜は終日山梨で仕事」というスケジュール上の話である。 県出身者でも

          一発屋芸人列伝〜おわりに〜(無料公開)

          筆者には娘が一人いる。 この原稿を書いている時点で5歳……幼稚園の年長さんである。 先日。 彼女と一緒にテレビを眺めていた。 とあるアニメ映画のDVDだが、親子共々、幾度となく鑑賞済みの作品である。 にも拘らず、 「キャハハ!」 「あー、あぶなーい!」 「パパー、このひとわるいよー!?」 製作者の指揮棒通り、要所要所で新鮮なリアクションを引き出される娘。 ディズニーの世界観、作品の魅力たるや畏るべしである。 一方、筆者はと言えば、勿論映画を楽しんではいるものの、そこは四

          一発屋芸人列伝〜おわりに〜(無料公開)

          「週一県民」②

          生放送を10分後に控え、筆者がスタジオへ姿を見せると、  「だんしゃく、入られまーす!!」 と若いディレクターの声が響き渡った。 その節回しが‶ドンペリ、入りまーす!!〟みたいだな、などとボンヤリ考えていたら、総勢20名ほどのホスト、もとい、スタッフから盛大な拍手が……とここでムニャムニャと目が覚めた、というオチではない。 これは夢でも、何かのパラレルワールドでもなく、紛れもない現実。 舞台は、この春から筆者がMCを仰せつかっている、『やまなし調ベラーズ ててて!TV』(Y

          『パパが貴族』~グリコと都市問題~(無料公開)

          長女が小1の頃、「グリコ」を初めてやったときの話。 まず、ジャンケンをする。 グーで勝てば「グリコ」、チョキなら「チョコレート」、パーは「パイナップル」だ。 それぞれ、3歩、6歩、6歩と文字の数だけ進んで行く遊び、あれである。 本当は長めの階段なんかでやった方が面白いのだが、近所には見当たらぬし、あったとしても、昼日中、髭面の中年男が「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル!」などとはしゃぐ光景を、いかに子連れとはいえ、微笑ましく見守ってくれるような寛容さは都会にはない。 結局、家の前

          『パパが貴族』~グリコと都市問題~(無料公開)

          『パパが貴族』~金のかかる女 ぽーちゃん~(無料公開)

          四十を過ぎたいい大人がいつまでも何をぐちぐちと……とお叱りを受けそうだが、あえて書く。 子供の頃おもちゃを買って貰えなかった。 ラジコン、ファミコン、プラモデル、キン肉マン消しゴムにビックリマンシールと、同世代の友達が夢中になっていたありとあらゆる娯楽と無縁だった筆者。 大袈裟でなく、刑務所のような少年時代である。 父は税関勤めの小役人で高卒の叩き上げ。 いや、大して出世もしなかったようなので、叩き上がってもいない。 “高卒のタタキ”くらいだが、特別我が家が貧乏だと

          『パパが貴族』~金のかかる女 ぽーちゃん~(無料公開)

          『パパが貴族』~怖い絵~(無料公開)

          「だって、いつもは3つあるのに、パパがおしごとにいくと2つだもん!」。 これまで、長女(小1)には自分の職業を頑なに伏せてきた筆者。 何度も説明した通り、一発屋という苦い言葉から幼い娘を遠ざけておきたい、その一心である。 とは言え、子供の成長は早い。 幼稚園に入ると、 「パパひげだんしゃくっていうんでしょー?」 などと迫られる場面が増え、最近では客観的証拠を突き付けられる事態に。 冒頭の台詞がそれである。 彼女の言う2つとか3つとは、筆者の書斎に置いてあるシルクハットの数

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          『パパが貴族』~はじめに~ (無料公開)

          筆者の職業は漫才師。 コンビ名を「髭男爵」という。 その名の通り、髭を蓄えシルクハットを被り、手にしたワイングラスで「○○やないか―い!」とツッコむ乾杯漫才、あるいは、「ルネッサーンス!」の人。 ……まあ、何でもいいが、“あれ”である。 今より10年と少し前、1度だけ売れっ子と呼ばれた時期もあったが、現状はサッパリ。 俗に言う、一発屋……それが筆者だ。 45年の人生を振り返れば、失敗に塗れている。 先程の「(芸人として)一発当てた」とか、ずいぶん昔の話まで持ち出せば

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          『ヒキコモリ漂流記』あとがき

          拙著、『ヒキコモリ漂流記』が刊行されて早3年。 有難いことに、これが瞬く間にベストセラーとなり、それをキッカケに、本業のお笑いの方でも再ブレイク……などという事実は全くない。 当時、筆者の頭をチラリと過った、妄想ストーリーである。 現実には、売れない芸人が本を出したというだけ。 とはいえ、それなりに反響もあり、仕事の面でも多少の変化があった。 一つは、文章を書く仕事をするようになったこと。 どの業界でも同じだが、出版界にも奇特な人間が少なからずいるようで、 「あれ?

          『ヒキコモリ漂流記』あとがき

          「週一県民」

          地元は兵庫、大学は愛媛で、あとは長らく東京住いの筆者。 これといって縁などなかった山梨との馴れ初めはかれこれ10年ほど前まで遡る。 いや、芸人となってからは、ショッピングモールやお祭り、学園祭のお笑いステージといったイベントごとに招かれ何度も足を運んでいたし、富士急ハイランドのジェットコースターで悲鳴を上げ、方位磁石片手に樹海を彷徨うなど、テレビ番組のロケでも何かとお世話になってはいた。 しかし、それを言うなら、他の46都道府県とて同じこと。 "地方営業"が主戦場の一発屋