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「週一県民」②

生放送を10分後に控え、筆者がスタジオへ姿を見せると、 
「だんしゃく、入られまーす!!」
と若いディレクターの声が響き渡った。
その節回しが
ドンペリ、入りまーす!!〟みたいだな、などとボンヤリ考えていたら、総勢20名ほどのホスト、もとい、スタッフから盛大な拍手が……とここでムニャムニャと目が覚めた、というオチではない。

これは夢でも、何かのパラレルワールドでもなく、紛れもない現実。
舞台は、この春から筆者がMCを仰せつかっている、『やまなし調ベラーズ ててて!TV』(YBS)の収録現場である。
ローカルとは言え、正真正銘、夜7時スタートの“ゴールデン”。
大役をお任せいただいて、それだけでも光栄なのに、芸能界のヒエラルキーなら発泡酒が関の山の一発屋を、明石家と勘違いしているとしか思えぬ丁重な扱い。
時折混じる“ヒュー!”という奇声に、
(これって、イジられてる?)
との疑惑が頭を過らぬでもないが、一方で、特段驚きもしなかったのは、彼らの過分なもてなしが、昨日今日始まった話ではなかったからである。

筆者と山梨との出会いは、10年ほど前。
昼のラジオ番組、『はみだし しゃべくりラジオ キックス』(YBS)のパーソナリティー(現在も継続中)を担当したのがキッカケだった。
その初日、局のお偉いさんから、
「遠いところをありがとうございます!」
「お忙しいのにすいません!」
と下にも置かぬ歓迎を受け、
(有難いなー……)
と感激したのもつかの間、OA中、パートナーのアナウンサーから繰り出される、
「男爵は凄いです!」
「男爵は売れてます!」
「男爵は天才です!」
といった歯の浮くような台詞に、早くも違和感を覚える。

そもそも、当方、売れてもないので忙しくもないし、天才はシルクハットなど被らない。
現実と乖離した誉め言葉は、もはや誹謗中傷と同じなのだと初めて知ったわけだが、以来、これを毎週×約10年。
筆者がかの地を(様々な意味で……)「竜宮城」と呼ぶのもご理解いただけると思う。
極めつけは、今年の「こどもの日」。
山梨日日新聞の見開き一面に掲載されたのは、「おりがみシルクハット」である。
もはや、説明するまでもなかろうが、手順に従って折り畳んでいくと、筆者のトレードマーク、シルクハットが完成。
“兜”を差し置かれた端午の節句も絶句しそうだ。

いずれにせよ、
「これでキミも髭男爵になれる!」
と言わんばかりのこの企画。
旬の売れっ子、スターならまだしも、一発屋には荷が重い。
(反響ゼロだったら、気まずいなぁ……)
と憂鬱だったが、
「ボクも作ったよ!」
「あたしもかぶってみた!」
との写真を添付したメールが老若男女からどっさり……何とか体面を保(たも)った。

とにかく、
「この人達は、僕が一発屋だと知らないのだろうか?」
と訝(いぶか)しく思うほどの“おもてなし”の数々。
調子が狂うが、かと言って、悪い気もしない。
この“悪い気もしない”というのが問題なのだ。
人間とは弱いもの。
油断して、売れっ子気分に浸ってしまった悪影響……“自尊心の火照り”が、声のトーンやちょっとした仕草に表れぬとも限らない。
結果、
(このまま東京に戻るのは拙い……)
と帰りの電車で、
「忘れるな……俺は“一発屋”だ!」
「俺は、負け犬だ!」
「天才だったら、もっと売れてるわ!」
と“自己否定の反復横跳び”に精を出す羽目になる。


昨年のこと。
「えー!マジですか!?」
と筆者が驚きの声を上げたとき、迎えのハイヤーが走り出して数分も経っていなかった……などと書くと、
(……ん!?)
と眉を顰める方もいるかもしれぬ。
繰り返すが、当方しがない一発屋。
“迎え”も“ハイヤー”も似つかわしくないのは重々承知である。
普段仕事へ赴く際は、地下鉄を乗り継ぐか、妻の運転で送って貰うかのいずれかで、つつましい通勤を旨としているのだが、この日の職場……ここ数年オファーが舞い込むコメンテーター業の1つ、とあるワイドショーに限っては、ちと勝手が違った。

「一発屋が何をコメントするの?」
といったツッコミもあろうが、そこは同じ一発屋仲間、ムーディ勝山の芸を拝借。
右から左へ受け流すとして、午前8時スタートのこの番組、局入りが6時ととにかく朝が早い。
しかも、生放送である。
つまり、ハイヤーは遅刻など不測の事態を避けたい先方のご意向の賜物。
“お迎え”というより“身柄確保”の意味合いが強かったのだ。


話を戻そう。
黒塗りの後部座席で、
「よろしくお願いします……」
と小さくなっていると、
「最近、山梨どうですか?」
とバックミラー越しに話し掛けてきた運転席の男性。
ドライバーの顔触れは毎回同じではなく、彼とも面識は無かったが、
「あー、やっぱ今コロナなんで、東京からリモートでやってますねー!」
と間髪入れずに返すことが出来たのは、この手のやり取りは慣れっこだったからだ。


先述のラジオ、ローカル放送にもかかわらず、
「ラジコで聴いてます!」
と全国からお便りも沢山届く。
よって、東京にいながら、
「山梨のやつ面白いですねー!」
と熱心なリスナーに遭遇することは珍しくない。

てっきり、そういう、“いつものやつ”だと思い、
「あー、ありがとうございます!」
と感謝を述べたそのとき、運転手の口から思いもよらぬ台詞が飛び出す。
「実は、クレープ・ヒロシの社長、私の弟なんです!」
……ここで先程の、「え―!マジですか!?」、である。

クレープ・ヒロシとは、正式には『やみつきクレープ・ヒロシ』……件のラジオ番組のスポンサー企業の1つ。
いや、企業と言っても、街の小さなクレープ屋さん。
ゴルフや料亭でのお付き合いなど一切ないが、時折、美味しいクレープの差し入れをいただくなど、お世話になっている。

都内キー局へ向かう車中でその名を耳にするだけでも不意打ちなのに、ハンドルを握る男が、社長の実兄だとは思わない。
「世間は狭い」と言うが、よもやここまでとは。
若い頃暮らした、3畳1間のボロアパートが頭を過った。


何より、妙な気分である。
奇遇は奇遇、滅多にないことなのは確かだが、“昔の相方”でも“元カノ”でもなく、“クレープヒロシ・兄”。
(……なんで“そこ”!?)
この巡り合わせを何と評すれば良いのか……上手いコメントも思い付かぬが、山梨との縁がいよいよ切っても切れなくなったことだけは確かなようだ。


🎩🍷

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