『パパが貴族』~グリコと都市問題~(無料公開)
長女が小1の頃、「グリコ」を初めてやったときの話。
まず、ジャンケンをする。
グーで勝てば「グリコ」、チョキなら「チョコレート」、パーは「パイナップル」だ。
それぞれ、3歩、6歩、6歩と文字の数だけ進んで行く遊び、あれである。
本当は長めの階段なんかでやった方が面白いのだが、近所には見当たらぬし、あったとしても、昼日中、髭面の中年男が「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル!」などとはしゃぐ光景を、いかに子連れとはいえ、微笑ましく見守ってくれるような寛容さは都会にはない。
結局、家の前の通りで妥協した。
通りと言っても住宅街を縫う路地なので、車の往来もほとんど無い。
数メートル先のマンホールをゴールと定め、
「ジャーンケーーン、ポイ!」
筆者がグー、いつもなら大抵最初はチョキを出す娘は珍しくパーだ。
勝った彼女は意気揚々と、
「いくよー!?パァァ……」
と小さな体を精一杯駆使した1歩目に続いて、
「……ン!」
と2歩目……で止まった。
(ん?「パン」!?)
戸惑う筆者などお構いなしに、
「ジャーンケー……」
と始めた娘を制して問い質せば、今学校ではパーはパン、グーはグミだと言うではないか。
恐る恐る、じゃあチョキはと尋ねれば、
「チョコレート!」
(そこは一緒なんかい!)
とにかく、自分の子供の頃とは色々と違っているようだった。
東京の小学校は総じてグラウンドが狭い。
増えすぎた人口、不動産価格の高騰、そういった事情が子供の遊びを“ギュッ”としたのではないか……そんな考察はどうでもいい。
その後、何かの拍子に転んでワンワン泣き出した娘。
特に出血もないが膝を指差し、
「ばんそーこー!!」
と「折れた肋骨が肺に刺さった」くらい大騒ぎしている。
近所迷惑なので、こちらも必死で宥めつつ娘を抱えて家の中へ逃げ込んだ。
長女はよく怪我をする。
この間も、指に包帯を巻いているので何事かと思えば、「自分の手を自分の足で踏んで、骨にヒビが入った」とのこと。
流石はコメディアンの娘だ。
いや、単純に血筋かもしれぬ。
と言うのも、その父親、筆者の半生も怪我との縁は深かったからである。
突き指・捻挫・火傷など細かい負傷はさておき、大見出しのものだけ記しておくと、幼稚園の頃、釘が脛にグサリ。
「こうもり―!」と足で鉄棒にブラ下がっていると頭から落下し、気絶したのが小学校のこと。
中2の夏から6年間ひきこもりだったときは、目立った怪我は無かったが、人生的には大怪我である。
芸人の下積み時代、建設現場のアルバイトで腰を痛め、以来、椎間板ヘルニアに。
短かった売れっ子期間でさえ、声帯ポリープで手術を2回と無傷では済まない。
昨年(執筆時)などはプライベートで重傷を負った。
家族で訪れた遊園地で、ほんの30㌢の段差を“ピョンと”片足着地した瞬間、
「ブチ、ムチュ―――ンッ!!」
とふくらはぎを断裂。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ―――――!!!」
と筆者の悲鳴が園内に木霊する。
目の前で突如地面に崩れ落ち、苦悶の表情を浮かべる父に、
「パパ―、どうしたの?だいじょうぶ?」
と不安そうな娘。
“脂汗のフォンデュ”と化した筆者は、息も絶え絶えで、
「……だ、大丈夫……だよー……」
と絞り出したが、無論、大丈夫とは程遠い。
その後、病院へ行くと、全治2か月との診断が下った。
「これアスリートがする怪我ですよ?柔道か何かやってます?」
とあれこれ訊いてくる医者が、最後まで筆者が「髭男爵」であることに気付かなかったことにも、少々心が傷付いた。
ちなみに今は左膝が痛い。
ベテランプロレスラーさながら……正に、満身創痍である。
しかし、不思議と骨折だけは経験がない。
筆者の骨をX-MENの「ウルヴァリン」並みに強くしたのは、子供の頃の食生活かもしれぬ。
我が母は今で言うところの健康オタクでおやつは煮干しやいりこと、カルシウムたっぷり。
ちなみにご飯は、白飯に米糠を振りかけたものか玄米。
肉や魚以外のおかずは、ひじきや切り干し大根、酢大豆に自家製の梅干しと「五穀豊穣の神へのお供え物」のような食卓であった。
骨は頑丈になったかも知れぬが、その反動か今ではジャンクフードの虜となり、体重は100㌔を超えている。
さて、長女である。
お気に入りの“キャラもの”の絆創膏で機嫌も直り、
「うがいしてくる!」
と優等生だったのはここまで。
調子に乗ったか洗面台で顎を強打し、
「ギャー!パパのせいだー!!」
と根も葉もないことを喚き出した。
全く、子育てだけは、骨が折れる。
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