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一発屋芸人列伝〜おわりに〜(無料公開)

筆者には娘が一人いる。
この原稿を書いている時点で5歳……幼稚園の年長さんである。


先日。
彼女と一緒にテレビを眺めていた。
とあるアニメ映画のDVDだが、親子共々、幾度となく鑑賞済みの作品である。
にも拘らず、
「キャハハ!」
「あー、あぶなーい!」
「パパー、このひとわるいよー!?」
製作者の指揮棒通り、要所要所で新鮮なリアクションを引き出される娘。

ディズニーの世界観、作品の魅力たるや畏るべしである。


一方、筆者はと言えば、勿論映画を楽しんではいるものの、そこは四十過ぎの中年男。
少なくとも表面上は、そう簡単に喜怒哀楽を表すこともない。
しかし、一か所だけ。
見る度に、毎回、心揺さぶられるシーンがあった。

その場面は、映画『トイ・ストーリー3』の冒頭、早々に訪れる。
この作品の主人公は、シリーズ一貫して玩具達である。
仲間想いのカウボーイに、銀河の平和を守るヒーロー。
目や耳などの顔のパーツを取り外し出来る、ジャガイモ顔の夫婦。
貯金箱の豚に、伸縮自在のバネ製の胴体を持つダックスフント……実に濃いキャラクター達が揃っている。
〝彼ら〟は普段はただの玩具だが、一度周囲に人間の気配が無くなると、動き出し、喋り出す。


〝彼ら〟の願いはただ一つ。
持ち主の男の子に、自分達で沢山遊んで欲しいということ。
しかし、シリーズも三作目を迎え、大学入学を控えるまでに成長した彼は、もはや玩具で遊ぶ年齢ではなくなった。
(新居に持って行こうか、誰か近所の子供にあげようか、それとも……)
実家を離れ、大学の寮に入るため、長らく玩具箱に仕舞いこんだままになっていた、かつての相棒達の処遇に思案を巡らせている。

男の子の様子に、
「僕達捨てられるのかな……」
「もうわたし達と遊んじゃくれない!」
「身の振り方を考えないとね!」
敏感に反応し、不安に慄く玩具の面々。

そんな〝彼ら〟を見る度、
(コイツらは、俺だ……)
筆者はついつい自分を重ねてしまい、目頭が熱くなるのである。



本書に最後までお付き合い頂いた皆さんに、一つお願いがある。
記憶の玩具箱、そこに詰め込まれた一発屋達を、「消えた」「死んだ」と捨て去る前に、もう一度、目次のページを眺めて欲しい。


あるものは、社交ダンス世界大会で上位に食い込み、お茶の間の感動を呼んだ。
SNSのアカウント上で披露してきたポエムが評判となり、再び注目を集めつつあるものや、コスプレキャラからの脱皮を見事果たし、今や正統派漫才師の地位を手に入れたものもいる。
ズラリと並んだ芸人達の名が諸君の目に未だ、戦没者リスト、あるいは、墓標のように映るのであれば、それは筆者の力不足。
潔く諦め、降参しよう。


しかし、もしそうでないのなら……グラスを酒で満たし、祝杯を挙げさせて頂く。


手前味噌で申し訳ないが、勿論、乾杯の発声は、
「ルネッサーンス!!!」
フランス語で「再生」と「復活」を意味する言葉である。


掲げられた杯は、彼ら一発屋の復活の狼煙、再生の幕開けとなるだろう。




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