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CXO Night #5「場とデザイン」 イベントレポート

12/13開催のCXO Night「場とデザイン」に参加してきました。

CXO Nightは初参加なので他の回と比較できませんが、デザインに関するhow-toより、デザイナーがどう経営に携わるのかのケーススタディの共有が多かったですね。ボトムアップで「デザイン経営」を根付かせる活動のような。特に谷尻 誠さんの、経営者兼クリエイターだからこそのエピソード、面白かったです。

※ イベント概要や登壇者情報はリンク先をご参照ください。

今回のCXO Nightは、「チームBANK流のプロダクト開発」と「場とデザイン」という2部構成。前半が他者のビジョンをカタチにする、サポートタイプのデザイナー。後半は自らのビジョンを実現する起業家クリエイターのお話です。

※ 登壇者の発言は、走り書きのメモを編集したため、正確ではありません。


チームBANK流のプロダクト開発

株式会社バンクの開発の起点は、CEO光本さんの仮説。チームは光本さんの仮説設定能力に全幅の信頼を寄せており、その仮説を最大化するためにデザインドリブンを選択しているようです。

デザインドリブンのメリットは、TOPが持っているビジョンをぶらさず、スピーディーに実現できること。

光本さんにデザイナーの河原さん(執行役員も兼任)が呼ばれ、ざっくりとしたビジョンを共有されます。CASHであれば「写真を撮ったらお金が振り込まれる、そんなアプリ」といったメッセージのみ。そこにデザイナーが肉付けしてコアなユーザ体験を作り上げていきます。

河原さんは、最速1日ほどでプロトタイプを作成。このプロトタイプは、コアな体験の遷移は分かる程度。ワイヤーではユーザ体験のイメージが他者には分かりづらい為、多少リッチな表現のプロトタイプ。まずはユーザ体験重視で一旦作り、エンジニアとの調整はその後に行うそうです。

光本さんは、
・2017年はお金の年
・2018年は旅行の年
と言っており、2019年も内緒ながらお考えがあるそうです。これは、既存の仕組みと、世の中のニーズとの乖離が大きい箇所を見つけタイミングを図って攻めているとの事。例えばTravel nowは、コアな体験を作ってから1年眠らせていたそうです。

デザインチームが心がけていることは、新鮮な印象や使ったときの驚き、
使い続けたくなる愛着など。細部にもこだわっているが、それよりも仮説をどう光を当てるのかに力を入れているそうです。

河原さんは執行役員でありデザイナーでもあるため、質問ではマインドの分け方など聞かれていましたが、デザイナーとして経営層に意見しているそうです。また光本さんとは5年ほど働いているため、あまりコンフリクトする事もないそうです。


場とデザイン

前半はサービスデザイン寄りのお話でしたが、後半は経営や戦略寄りのお話になります。
坪田さんがモデレーターとなり、建築×デザインというテーマで建築家出身の起業家の中村さん谷尻さんのお二人にお話を伺っていきます。

株式会社ツクルバの共同創業者の中村さん。当初ツクルバは普通の中小企業だったそうです。コワーキングスペースを創りStartup企業のオフィスを手掛けていくうちに、ベンチャーへと変貌。アウェーに身を置くことで、空間デザインという提供価値を高めつつ、スタートアップの手法を身に着けていったそうです。現在は地域通貨から着想を得たコミュニティコインのアプリ「KOU」など、より抽象度の高い"場"のサービス展開をしています。

中村:「自分が体験した事しか作れないんです。地域通貨の現場を体感して魅力を知りました。場の盛り上がりって言語化が難しい。だから、深く体験する事が大切。」


SUPPOSE DESIGN OFFICE谷尻さんからは、日本中を建築資材のカタログ化するサービス「Kata-log(2019年ローンチ予定)」の紹介がありました。

これまでは…
デザイナーは建築資材の材料調べに時間を費やしており、資材メーカーの営業担当は迷惑がられながらも足で営業している。このコストは最終的には依頼者に跳ね返ってくる。

Kata-logなら…
このアンハッピーな状況を、三方良しにします。デザイナーはスマホで事例をみながら資材を検索、近所の建築物でカタログ代わりに資材を確認。メーカーはスマートな営業が可能となり、依頼者は理想のデザイナーを建築から探し出すことが出来る。

リリース前にも関わらず、すでに資材メーカー100社/月額5万の掲載契約が決まっているそうです。月額5万の値付け理由は、現場の人間が決裁できるようにとの事。

谷尻さんは一風変わった語り口で、事業に社会性がある事の重要性を説いていました。

谷尻:「僕は腹黒いんです(笑)。ですがその腹黒さは利己的じゃなくて、みんなが喜んでもらえることを企んでいるんです。社会性を持っているからみんなに受け入れられます。」
「自分たちだけでやったらダメ。競争から共創に、IからWeへ。」


ツクルバのデザイン経営

2017年に経済産業省と特許庁が「『デザイン経営』宣言」を唱えましたが、中村さんは以前から取り組んでいたそうです。

0→1の企業フェイズはART的な側面があると中村さんは言います。1→10フェイズはデザイン的な側面へ、10から100へグロースしていくフェイズでは不確実性が低くなりビジネス的な側面が強くなっていく。(上図)

中村さんの考える事業創出のサイクル図です(上図)
① 0→1:取り組む意義のあるタネを見つける
② 1→10:経済性を成立させる
③ 10→100:価値を最大化する
④ 新規事業に投資する
会社経営は、サスティナブルにしていく必要がある。

お二人とも「自分が好きなモノ、欲しいモノを創る」という思いが強い方でした。楽しめるのは1→10ぐらいまでで、なんとなく成功が見えてきた時には飽きている。0→1では、他人に反対されればされるほど、良いものなんだって思うそうです。他人が反対するのは、マーケットが確立していないジャンルだという事で、なんとかして実現したくなる。


谷尻さんの談話

谷尻:「領域問わず色々やっている。答えはそこにある。」「アイディアは誰でも持っている。アイディアをカタチにすると、答えがそこにあることが分かる。どうすれば実現できるかしか、考えていない。

谷尻:「依頼者のオフィスに伺うのではなく、自分たちのオフィスに来てもらう。オフィスがリアルショーケースやポートフォリオになっている。」

谷尻:(女性の参加者に対して)「好きでもない男と飯食いに行きたくないでしょ?」「でもさ、『寿司屋2席取ったけど、余っちゃった。今後の勉強のために一緒に行ってくれない?』って頼まれたら、お寿司屋さんに行っても良いかなと思っちゃう。それは、オブジェクトが『好きでもない男性』→『美味しいお寿司』に変わったから。軸をずらせば良い。

谷尻:「26歳の時、師匠は雑誌。まわりの建築家は優秀な人たちばかりだった。同じことしていたらダメ、同じ道は選べなかった。」
『谷尻程度ならなれるかも』と世間から思われるポジション。ダメな奴が活躍したら社会が共感してくれる。建築をわかりやすく伝えるしなやかなニュータイプというキャラなら行けるな。」

坪田:建築は壊すのが大変じゃないですか?壊すのが大変だと、意思決定迷いませんか?
谷尻:「フィルムで写真を撮るのと同じ。デジカメだとパシャパシャ撮っちゃう。それじゃ良い写真は撮れないし、偶然を期待していてはダメ。」
「期待通り造れない場合もあるが、多少の失敗は手弁当でお金出して直す。ダメなモノを創るぐらいなら、やらない方が良い。なんとなくで作らない事が、信頼に繋がる。」


考察や感想

CXO Nightは、BTCモデルのビジネスとテクノロジーをバランスよく進めていこうとしているように感じます。

ジョンマエダ氏の「Design In Tech Report」では、テクノロジー寄りなコンピュテーショナルデザインを重視しています。対し、CXO Nightや「デザイン経営」は、ビジネスとテクノロジーの重要性を同等に扱っています。これは敢えて同等に扱っているのだと思いますが、その理由について考察です。

1. ターゲットの違い
Design In Tech Report」はSXSWの基調講演の一つであり、すでにビジネスとテクノロジーの融合が進んでいるテック界隈へ向けたメッセージです。啓蒙活動の側面が強く、ボトムアップ型でもあります。
対し「デザイン経営」は広く日本企業をターゲットとしており、ビジネスクラスタを抱き込む必要性の高いトップダウン型です。CXO Nightは、「デザイン経営」の取り組みの一環(CXO職の設置)として足並みを揃えているのだと思います。

2. 成長の違い
「Design In Tech Report」は2015年から発表されており、当時の成長トレンドはExponential growth(指数関数的成長)でした。その後2016年、ケンブリッジ・アナリティカやブレグジットなどによるテクノロジー神話の崩壊。成長トレンドはSustainable(持続可能な成長)へと変わりました。「デザイン経営」はその翌年、2017年に発表されています。

登壇者のコメントからは、細かい施策ではデータ・ドリブンが多いものの、重要な局面ではビジョン・ドリブン(ビジョン:理念ではなく未来像)であることが感じとれます。今回はいずれも経営者自身がビジョナリータイプなので成り立っています。ですが、一般的な日本企業にビジョン・ドリブンを実装するには多くの障害があり、それを乗り越える手段の一つがCXO職の設置なのでしょう。実際にどう乗り越えているのか、次回以降も参加してCXOの方に実例を伺いたいです。

複雑系な現実世界では、論理構築アプローチよりも思考の飛躍が有効なシーンがあり、現在はデザインにイノベーションの促進という役割も期待されているのではないでしょうか。

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