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ご当地グルメが家庭の味になった話

かつて、わたしにとってご当地グルメは旅行に欠かせないイベントだった。

「観光」には「見る」「体験する」「食べる」の3要素が必要だと思っていて、中でも「食べる」は超重要。

比率で言ったら、
見る:体験する:食べる=1:1:2
って感じかな(つまり、食いしん坊なの)。

旅行が大満足できるものになるかどうかは、一緒に行く人が同じ感覚の持ち主かどうかにかかっている。間違いない。

夫と結婚前に岩手の盛岡に行ったことがある。

お目当てはもちろん、わんこそば、冷麺、じゃじゃ麺…!
もはや、「食べる」ついでに景色を見に行くって言った方が正しい旅程。

そう、私と夫は、旅における食へのスタンスが似ているのだ。

目的地に到着したら、まずお昼ご飯にわんこそば。

旅の最初のごはんだし、こんなにたくさんの薬味があると思ってなかったし、次から次へとそばが盛られるのが楽しいし、どこまでいけるか挑戦したい気持ちがどんどん強くなって、めちゃくちゃ食べた。

どれくらい食べたかもう忘れちゃったけど、写真の記録によると70杯以上は食べてる。

夕方になってもお腹パンパンだったのに、夜は焼肉屋で盛岡冷麺(もちろん肉も食す!)。

さすがにこれは食べ過ぎで、わたしは人生初の「食べ過ぎでお腹壊す」を経験した。

おかげで次の日のお昼に予定していたじゃじゃ麺は食べられなかったんだけど、2日後には松島で焼き牡蠣食べてるからね。
そんくらい、「その土地の食事」には貪欲なんだ。

こんなふうに、いくつもの「ご当地グルメを楽しむついでに見どころスポットを巡る旅」を経て、わたしたちは家族になった。

旅行いらずの転勤族

晴れて転勤族新婚家庭となったわたしたちが住んだのは、埼玉県東松山市だった。

わたしも夫も埼玉出身だ。
だからだろうか、東松山市は馴染みのない土地ではあったけれどどこか知った感じのする、とくに新しい発見のない場所だった。

焼き鳥に辛みそをつけて食べる東松山スタイルをたまの週末に堪能するくらいで、ほかにあんまり土地に楽しみを見出す気持ちになれなかった私たちは、休みの日は家でごろごろするか、東京に出かけるか、車で少し遠出する生活を送っていた。

そんなある日、ドライブ中に気になるのぼりを見つけた。

それは黄緑色ののぼりで、「すったてうどん」と書かれていた。

すったてうどんは東松山市の隣町の川島(かわじま)町の郷土料理だ。
たしかいろんなお店を回るスタンプラリー的な企画ののぼりだった思う。

ごまと味噌をすり鉢ですり、大葉、きゅうり、ミョウガを加えたつけつけ汁に、冷たいざるうどんをつけて食べる「すったてうどん」。

わたしたちは、この、夏限定のご当地グルメに見事ハマり、いろんなお店のすったてうどんを食べに行った。

小さなすり鉢を使って自分でゴマをすりながら、うどんが提供されるのを待つ店。

てんぷらと一緒にすったてうどんを味わえる店。

つけ汁が甘めの店。

つけ汁にオクラが入っている店。

お店ごとに微妙に違いがあり、すったてうどんを提供しているお店一覧のパンフレットを見ながら、次はどこへ行こうかと計画を立てる。
お気に入りのお店もできた。

家の近くに休日の楽しみができたことが嬉しかった。

転勤族は今までに縁のなかった土地に住む生活を繰り返す。
転勤生活は、旅に行かなくてもご当地グルメを堪能できる生活なんだと知った。

ご当地グルメとわが家で再開

季節が変わり、住む土地も変わり、家族が増えた数年後の夏。

急にふと、
「すったてうどんが食べたい」
と夫が言った。

はじめての土地ではじめての子育てに必死で、食を楽しむ余裕もない生活を送っていたわたしに、その言葉がとても新鮮に響いた。

すったてうどん!
なんで忘れていたんだろう、あんなに好きでハマっていたのに。
思い出したら、もう、すごく食べたい!

「でも、わざわざうどんを食べるためだけには行けないよねぇ」

「すったてうどんなら、自分でも作れるんじゃない?
……あ、ほらレシピあるよ!」

久しぶりに食べたすったてうどんは、懐かしい味がした。
はじめて作ったのに、妙に食卓に馴染んだ。

あの頃のように気ままに食べ歩きに行くことはできないけれど、食べたいものを家で食べられるっていいな。

こうしてすったてうどんは、わが家の夏の定番メニューになった。

すったてうどんだけじゃない。

目光(めひかり)のから揚げとか、ツナごはんとか、転勤地で出会ったのをきっかけに家の食卓に並ぶようになったメニューは他にもある。

今でも、わたしにとってご当地グルメは旅行に欠かせないイベントだ。

それと同時に、家族で乗り越えてきた転勤生活に思いを馳せながら楽しむ、わが家の味でもある。

きっとこれからも、転勤するたびに新たなメニューが加わるだろう。

縁のなかった土地の料理がいつもの食卓に並び、それが日常となっていく。
食卓の景色は、わたしたち家族の暮らし方そのものだ。


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登場するご当地グルメのレシピ

・すったてうどん

・目光のから揚げ

・ツナごはん

http://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1001000004667/simple/tuna.pdf

※補足
このレシピはツナごはんの具材を作るレシピ。
出来上がったものを温かいご飯に混ぜて食べるよ。


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