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Pay money To my Painをさがして~映画『SUNRISE TO SUNSET』レビュー~


はじめに

先日私は、映画・『SUNRISE TO SUNSET』を鑑賞する為に新宿バルト9まで足を運んだ。
(2023.11.17公開)


2004年に結成し、2013年に活動を休止したラウドロックバンド・Pay money To my Painのドキュメンタリー映画。


普段映画館に行く習慣が無く、映画館に行くのも年1~2回程度しかない私。
2012年12月にボーカルのKが亡くなるまでに聴いたアルバムも『Remember the name』(2011年)しかない。


何より、私自身普段からラウドロック系のバンドを聴いているという訳でもない。


そんな私が、映画の公開初日に「どうしても見ておきたい」と思い、公開初日のレイトショーに駆け込んだのであった。

映画を観る前から猛烈な興味と衝動を抱いたのは、私の人生史上恐らく初めての経験である。


上映終了後、この衝動に身を任せたまま映画館まで観に行って、心の底から良かったと思えた映画。
それが、『SUNRISE TO SUNSET』だった。


※極力ネタバレにならないよう書いてますが、あくまでもご参考までに…。


Pay money To my Painをさがして

今作品はバンドによるドキュメンタリー映画ではあるものの、所謂ファンに向けてコアでディープな部分をさらけ出していくというよりも、Pay money To my Painというバンドを知らない人もバンドの歴史を端的に把握できるような、外に開いていくスタンスが窺えた。

本作は『Pay money To my Painをさがして』ともいうべきか。
(私は猪木の映画は観れていないのでアレですが…)


まず私が驚かされたのは、作中で用いられる記録映像であった。
2004年にバンドが結成された時期から活動休止に至るまでの間、バンドに密着した映像が多く残されていたのである。

初ライブの音源やバンドが最初にリリースしたCDのレコーディング風景、海外でのレコーディングやライブの模様など、プライベートで撮られていたにしては画質も比較的良好な状態。
個人的に、大体そのようなプライベート映像は、ライブ会場の後方から撮られていたり、画質も荒かったりする印象も強かっただけに、本作品の序盤に登場するアーカイブの映像の数々は、「まるで、数十年後に公開される本作品の存在を予見していたのではないか」と思わずにはいられないほど。

このアーカイブの数々を用いながら進められる回想シーンは、深いところまでバンドを知らない私にとって、歴史や空気感を理解するのに非常に助けられた。


また、Dragon Ash、RIZE、Crossfaith、coldrain、ONE OK ROCK、MY FIRST STORYなどの名だたるバンドメンバーを中心としたインタビューシーンも、Pay money To my Painを知らない人に対して分かりやすく凄みを伝える事に貢献している。

今では音楽ジャンルの1つとして定着している、【ラウドロック】という名称を最初の方で使い出したバンドがPay money To my Painだったこと。


MY FIRST STORYのバンド名を付けたのがKだったこと。


ライブシーンの中心にいるDragon Ashのフロントマン・Kjが、Kの存在に嫉妬していたとハッキリ語っていること。


このような証言だけでもう、Pay money To my Painというバンドがロックシーンにおいてどれだけ影響を与えていたかが私には分かりやすく伝わってきた。

でも、本作品で一番大事だった箇所は、音楽シーンにおける影響力の大きさなどでは無いのかもしれない。


ビジネスパートナーではなく、親友として語られるK

【バンドメンバーや関係者が語るKは1人の大切な親友である】という一貫した視点は、今作品を語る上での重要なトピックだと私は感じている。
それは、バンド内の関係性がビジネスパートナーとしてではなく、家族に近い戦友的存在だったことを示すかのような…。

Pay money To my Painを結成する当時のエピソードを聞いていても、Kを誘う過程は「気になる異性と付き合う為にどう行動したのか?」という恋愛的なマインドに近いものを感じたし、バンドとして行動する軸も常にKへの思いやりや愛情に溢れていた。

バンドが結成された時も、結成直後にKが突然アメリカに移住した時も、バンドのメジャーデビューでメンバー間の意見が割れた時にも、2012年にKがメンタル面で不調になった時にも…。

そこに、商業的な匂いや仕草はまるで皆無。
(言い方はアレだが、)ドキュメンタリー映画はそういうのを取り繕うように見せることだって出来るのだろうけれど、メンバーから溢れ出てくる言葉の数々は自然なもので、作為的な箇所も無い。

【親友と共に歩んできたバンドの過程】を取り上げてきたからこそ、作品の中盤は思わず胸が締め付けられるような展開が続いていった。
2012年末に伝えられたKの死去、制作途中だったアルバム『gene』のリリース、2013年末のラストライブ…。


ただバンドの過去を追っていただけの作品だったならば、映画館の座席でここまで辛いと感じる展開も私自身無かったかもしれない。

バンドの音楽性だとか、バンドの作品がどれだけ売れたという数字とかは、本作において重要な役割を担ってはいない。
1人の親友を失った現実に向き合いながらも、残された者達が今を生き続ける。これこそが、今作品で最も意味を持つのではないかと私は感じたのだ。

私自身、Pay money To my Painというバンドを知らない方にも本作を勧めたい理由が、まさしくここにある。


全編ノーカットのライブシーンと、痺れるcoldrainの侠気

そして、今作品で重要な役割を担っていたのが、Pay money To my Painが2013年の無期限活動休止から7年ぶりに復活を果たした『BLARE FEST. 2020』のライブ映像だろう。

「多くのファンの方々から<BLARE FEST.2020>でのPTPの映像を公開しないのかと聞かれていて、何とか形にしなければと思っていましたが、どういった形で公開するのがベストかとずっと考えていて、やはりPTPを愛する皆さんと一緒に体験できるこの劇場という場での公開を目標とし、動き出した」


監督を務めた茂木将が今作品を製作した動機として明かしていたほど、2時間以上ある今作品の約1/4以上を割いていた『BLARE FEST.2020』のライブ映像は、とにかく圧巻の一言に尽きる。

公開前からウリにしていた【『BLARE FEST.2020』ライブ映像全編ノーカット】という触れ込みは伊達ではなく、メンバーの登場シーン~退場シーンまでに演奏された全7曲には、一度としてメンバーや関係者の後日談などは挿入されていない。
まさしく純度100%の状態でライブがパッケージされていた。


単体でも作品としてリリースできそうなクオリティなのだが、このライブ映像を映画館の巨大スクリーンと音響設備で体感出来るという点は何物にも代え難い本作品の強みだろう。

同フェスが開催された2020年2月は、まだ本格的に新型コロナウイルス禍が迫る前のこと。
コロナ禍の難を間一髪で逃れた音楽フェスで、メジャー志向もあったというPay money To my Painが大舞台で復活するシチュエーションは、奇跡に奇跡を重ねた結晶であり、本作のハイライトとも言うべきシーンでもあった。


そして、この復活劇を実現させた立役者として、『BLARE FEST.2020』の主催者であるcoldrainのフロントマン・Masatoの存在は欠かせない。
『BLARE FEST.2020』にPay money To my Painを呼んだ理由も、「最後のアルバム(『gene』)に参加したメンバーが集まれば、収録曲を演奏できるんじゃないか」というMasatoの強い思いによるものだったという。

一番最後に流れるインタビューシーンのコメントといい、ある意味今作品の裏MVPだったのではないだろうか?


まとめ

『SUNRISE TO SUNSET』は、Kという人間に対する愛情が詰め込まれた作品だった。

前述したように、バンドメンバーや周囲の関係者から語られるKの姿は、親友であり、尊敬すべき先輩であり、愛すべき後輩であった。そこに、ビジネスパートナーのような一線を引く障壁など存在していない。
だからこそ、Kと過ごした日々からメンバーが影響されたことも、KやPay money To my Painの為に力を貸した者の存在がいたことが、強い光を放って観客の胸に刺さっていくのだろう。


そして何より、Pay money To my Painに迫ったドキュメンタリー映画でありながら、楽曲の歌詞に込められたエピソードだとか、バンド内の音楽性が変わっていくターニングポイントのようなものは、意外な程語られていないのである。

2008年にギターのJINが脱退した当時の回想シーンはその典型例で、リーダーでギタリストのPABLOから語られた内容も【脱退による音楽性の変化】ではなく、【脱退によってムードメーカーを失った】という人間関係における影響だったのだから。

この、音楽性の好み・ジャンル・知識といったマニアックな部分のハードルを下げているからこそ、本作品の素晴らしさや魅力が音楽という枠を超えて、多くの人々に伝わる可能性を残していると私は感じている。


とにかく、色んな方に「素晴らしい作品だった」と言い続けたい。
映画もラウドロックも疎い私だけれども、これだけはハッキリ言える、愛しかない作品だった。

皆様も是非!


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