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一介のプロレスファンが見た『kocorono』について

先日、シネマート新宿にて、『kocorono』を鑑賞してきました。

2010年、bloodthirsty butchersのドキュメンタリー映画として公開された作品ですが、2021年のバンド結成35周年にあたり、シネマート新宿にて3週間限定で再上映されることに。


2021年に上映された葛西純のドキュメンタリー映画・『狂猿』の川口潤監督による作品で、プヲタになる前から気になっていた作品という事もあって、今回初めて鑑賞しました。

鑑賞しに行った2021.11.14は、奇しくも『bloodthirsty butchersの結成記念日』で、シネマートでは『狂猿』の1日限定再上映も行われるという偶然。


『狂猿』上映直後、ロビーは同作品のDVDを購入する列でごった返す中、私は『kocorono』を観る為、スクリーンへと向かったのでした。

今回は、一介のプロレスファンから観た『kocorono』の感想を、『狂猿』の感想と混ぜながら書いてみました。


※ネタバレを多少なり含むと思われるので、予めご了承ください。



①描かれる、ありのままの葛藤

まず、『kocorono』を鑑賞して感じたのは、『kocorono』も『狂猿』も、主人公の葛藤をありのまま取り上げている点でした。


ただ、その葛藤を背負うのが葛西1人なのか、4人のバンドメンバーなのか、という違いでしょうか?


『狂猿』では、葛西の欠場前最後の試合から始まり、怪我や新型コロナウイルスの影響で試合が出来ない葛西が、【ED】という表現で苦悩を赤裸々に明かしています。

『kocorono』でも、冒頭に居酒屋で契約書を書いたり、終盤でレーベルの資金繰りに関する話も出るなど、音楽雑誌等のインタビューでは中々上がらない、シビアな場面も登場。

予告で印象的な【メンバー間の衝突】とかは、本編を見るとそんなに感じなかったのも事実ですが、同じメンバーで長く続いているバンドでも、メンバーに対する思いがハッキリ吐露されていたのは必見。


『音楽』と『プロレス』という異なる題材であっても、当事者の苦悩の当て方は、作中で一貫しているのだと感じました。


②ハッとさせられる画作り

両作品ともに、【次のシーンに向けた画作り】が意識されていた点も、個人的には見逃せなかったです。

長回しのインタビュー途中、偶然映り込んだ別の関係者や風景にカメラが向けられる所などに、そうした点を感じた次第。

『狂猿』では、リング外で見せる何気ない葛西のプライベートシーンが、その役割を担っていた印象。
良くない話が出てくる前に映される、自家用車内のジプシー嬢の絵馬なんかが、特に象徴的だったかと。

また、後楽園ホール内の声援の対比(2019年12月と2020年春以降)によって、コロナ禍における変化を印象づけていた(意識せざるを得なかった)点も見事!

(この演出は、インタビューでも語られてました)



一方、『kocorono』では、作中に何度か映るレコードが、その役割を果たしていた気がします。

レコードに針が落とされると、関係者のインタビュー音声がミックスして流れ出す、擬似回想シーン。


回るレコードの上に紙幣が置かれて針が弾かれたり、最後はフリスビーのようにして海辺から投げられたり…。

まるで、商業シーン的なフィールドから、己を刻苦して作品を生み出すバンドの姿を表現するかのようなカット。

紙幣で針が弾かれるシーンなんかは、前後に出てくる「この人たち売れる気は1mmも無いんだろう、って思っていたんですよ。」(by田渕ひさ子)という言葉とセットで、ハッとさせられる思いでした…。



③今を生きる

『kocorono』のbloodthirsty butchers(主に吉村秀樹)も、『狂猿』の葛西純も、【(撮影当時の)今を生きていた】という点でも共通していると、私は感じました。

『狂猿』は、葛西純が欠場する前の2019年12月から、復帰やコロナ禍を経た2020年12月頃までの約1年を通じて、【ありのままの葛西純】を取り上げています。

『kocorono』では、婚姻関係にある吉村秀樹と田渕ひさ子のプライベート(子供の入学式etc)が映し出されていたり、撮影当時(2010年頃)に出演したbloodthirsty butchersや吉村ソロのライブもフォーカスされたりと、バンドの今が切り取られていました。

そして、バンド外の関係者から語られる、「同じメンバーでバンドを続ける」事の難しさと、それが成し得る奇跡。

今作品から数年後の2013年に吉村が急逝→活動停止するまで現役だった、bloodthirsty butchersというバンドの歴史と歩みを振り返りつつも、作品の軸は今に置かれていた気がします。

まとめ


劇場で2作品を鑑賞し終えて感じた事…。

【葛西純を非プロレス関係者視点で伝えていた作品】が『狂猿』ならば、【音楽でバンドの生き様を伝えた記録映像作品】が『kocorono』なのかな、と。


ドキュメンタリー作品としての面白さは『狂猿』。

ライブ映像なども含め、撮影当時の空気感が生々しくパッケージされているのは『kocorono』。


そんな印象でしょうか?

11.14の上映後には、bloodthirsty butchersの結成記念日ということもあり、バンド初期のライブ映像が約1時間程流されました。



作中、音楽ライターの方がインタビューで、「北海道のbloodthirsty butchersというバンドを見て衝撃を受けた」と触れるシーンが出てくるのですが、その論評にも納得がいくライブ内容。

ライブ映像は定点で、終始メンバーがボヤケて見えないものもありましたが、それでも鳴らす音からは、初期衝動を詰めたような攻撃性と、前に向かうエネルギーがハッキリ感じ取れました。
(個人的に、『8月』とかのミドルテンポの印象が強かっただけに、初期のブッチャーズがアップテンポで尖っているとは思わなかったです…)


今回、『狂猿』と同じ監督という共通項から『kocorono』を鑑賞しましたが、bloodthirsty butchersというバンドに興味を抱きましたし、何より、こういうドキュメンタリー映画をもっと見てみたいな、という思いでいっぱいになりました。

面白かったです!

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