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短編小説13「脇道の正体」

Illustration&picture/text Shiratori Hiroki

 そういえば思い出した事がいくつかある。いつもの帰り道に小さな脇道があったり、昔よく通っていた映画館のチラシが家の奥から出てきたり。しかしそれらはいつの記憶でどこに繋がるのかどうかはよく思い出せない。そうゆうぼんやりとした記憶ばかりだけど。書き捨てられたメモを懐に手繰り寄せて丁寧に思い出すのはむずかしい。

 今日、ある駅を降りたときそんな感覚があった。何年か前に、この駅を利用したのかもしれない。友人から送られた住所に従って、目的地まで歩く。携帯電話のマップ機能が無かったら、元の場所まで戻っては来れないなと思う。
「16.30。いつもの場所で座っていてくれ。」彼は昨日、電話でわたしに伝えた。何年も昔に会社で知り合って彼が東京へ引っ越してからは連絡は取っていない。よくある話だと思う。わたしが住んでいる町は、よくある田舎で友人の半分は東京に憧れ、もう半分は実家の仕事を継いでいる。わたしはどちらでもなく、仕事の関係でこの町に住んでいる。

 これまでの情報から察するに友人は街に帰ってくるのだろうとわたしは考えた。電話では話せない東京の浮世話でも持ち合わせているのだ。少ない情報で揃った証拠なので、たぶん間違ってる。
そして指定された場所に到着すると、見覚えのない雑居ビルにたどり着いた。ポストには勧誘お断りの文字と勧誘のチラシがあった。エレベーターに乗って4階のボタンを押すと、エレベーターは動き出す。身体の中に染み込まれた動作のようだった。家に帰ってからお風呂に入るまでの無意識的な状態とか、アパレル定員の万年セールストーストークの類いに似ている染み込まれた動作。その感覚に従って4階に着いた。

エレベーターのドアが開くと、身震いがした。ここをわたしは覚えている。端的に見覚えのある。来たこともないはずなのに覚えてる。家具の配置やインテリアの種類が変わってしまっているけど、ここに来た事がある。不思議な感覚。部屋の奥から声がしたので、その方向へ向かう。古い家具だけど、昨日まで使われていたような清潔感がある。
よくきたね、久しぶりかな?」と友人は言った。「そうなのかな、ここに来るのは初めてな気がしてるんだけど、、」そう言うと友人は不思議そうにこちらの顔を見た。「どうだった?」友人はさも昨日の会話の続きをするように話し始めた。「どうだったも何も、君とはもう何年も会ってないじゃないか。最近は変わらない日々で少し退屈だったけど。」「それならよかった。それでどれくらい売ってしまったんだい?」よくよく考えたらこの顔を、初めて見るような気がする「売った?なんの話だい?」「そうか。困ったな。ここはね、記憶とお金に変える場所なんだ。大切な記憶とかいい値打ちがつくから最近は売る人が多くて。と言っても君はほとんどを売ってしまったようだね。」
わたしは脇道を抜けるとどこに繋がるか思い出せない。


INFORMAION

白鳥ヒロ
2001年生まれの巳年

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