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八月に新刊が出ます(noteでは未公開のシーンも)


 こんにちは、柚木怜です。
 毎日、暑い日が続いています。
 先日、YouTubeを一緒にやっている、ちづ姉さんと神田神保町にある古書店街へ遊びにいきました。古本巡りをしつつ、近くに『かき氷屋』があるというので、立ち寄ってみました。

古書街のなかにぽつんと佇むかき氷屋と、ちづ姉さん


 猛暑のなか歩き回ったあとの、かき氷はやはり最高の納涼で、懐かしい味もしました。

 
 少年時代、公園で友達らと汗まみれになって遊んだあと、みんなで駄菓子屋で食べたかき氷。かきこむように食べていると、そこに近所の高校生のお姉さんたちがぞろぞろやってきて、ぼくらは急に恥ずかしくなって、全員が黙りこくった思い出があります。
 お姉さんたちもかき氷を食べ始めたのですが、ぼくらの前で、舌についたシロップの色を見せ合っていました。お姉さんたちが舌をペロッと出しあっている姿を見て、子どもながら、なにかイケナイものを見ているようで、妙にドキドキしたものです。昭和の話です。

 令和の夏──。昭和を知らないちづ姉さんとかき氷を食べながら、そんな思い出話を語っていると、
「あ、しまった」
 ぼくはハッとなった。

「どうしたの?」と、ちづ姉さん。
「今度の新刊でも、女の子の舌にかき氷の色がついているシーンを入れればよかった。うまく書けば、エロくなりそうやのに」
「あ~。でも、もう編集部に原稿渡しちゃったんでしょ?」
「うん。いま最終校正に入っている。いまさら大幅に書き足したいとかいったら、さすがにブチ切れられると思うわ」
 そもそも思いつきで中途半端に付け足すと、全体の文脈が崩れる可能性も高い。
「じゃあ、また次、なにかで夏のシーンを書くときに入れればいいんじゃない?」
「そうする」

 ちょっとした忘れ物をしてしまった感を残しつつ、この八月に新刊が出ることになりました。

 版元は匠芸社で、レーベルはシトラス文庫です。
 シトラス文庫ではこれが七冊目となります。今年の4月に『姉枕』という官能小説を出して以来、4ヶ月ぶりの新刊です。

noteでは未公開の〝あの夏のつづき〟を含む、約23万字の長編ポルノ小説!


『郷愁ポルノ 僕らの五号機』

匠芸社・シトラス文庫刊


表紙デザイン……彼女、
モデル……ちづ姉さん
撮影……夢路歩夢
編集……若林育実
著者……柚木怜

【作品紹介】

「イケよ、イケ! 俺の親友にオ○コ舐められて、イケよ!」
おまわりの嫁、未亡人、元担任、海辺のお嬢様、そして親友の姉。
海とだんだん畑の広がる田舎の村で、二人の男子高校生が年上の美しい女たちと……。
 
掘っ立て小屋で親友の顔を見ながら初体験。
風鈴の鳴る夜の縁側で「十回交代ピストン」。
懐中電灯に照らし出された優等生の秘穴。
 
郷愁の官能作家、柚木怜が織りなす〝昭和の夏休み〟を舞台にしたギンギンギラギラの青春ポルノ小説!

8月9日(金)発売予定!!


現在まだ予約販売もされていませんが、Kindleをはじめ、楽天ブックス、DMMブックス、Googlebooks、コミックシーモア、UーNEXTなど、40以上のオンライン書店で発売される予定です。



※noteでは未公開のシーンも少しだけ掲載いたします。


あれから一年、ぼくはふたたび電車に揺られていた。

「女の子に意地悪をして楽しむって、それはちょっと子どもっぽくない?」
 美桜がクスクスと笑う。
「そうかもな。子どもっぽいところもあったなあ」
 ぼくも自然と微笑んでいた。
「……ん?」
 笑顔で聞いていた美桜が、不思議そうに首をかしげた。
「どうした?」
「お兄ちゃんがその親友のことをすごく好きなのは伝わってくるんやけど……さっきから聞いていると、全部、過去形やから」
 電車が走る。トンネルの闇を突き抜けるように。止まっていた時間が一気に動き出すように。車輪の音がひときわ大きくなった。警笛も鳴っていた。
「そうやな……お兄ちゃんの親友はもう……」
 直後、明るい光がぼくと美桜を包み込んだ。トンネルを抜けていた。車窓には、青空と田園が広がっていた。真夏の陽光に田んぼの水が反射していた。何億個ものダイヤモンドが散らばっているような輝きを放っていた。
「美桜、見てみろ。めっちゃええ景色やろ。俺、こういう景色を見ると、昔からなんか嬉しくなるねん!」

『勇吉のいない村』より

 一年ぶりにY町へやってきたけど……

 待合室の風景はなにも変わっていなかったが、ベンチに一組のカップルが座っていた。若い男女が手を取り合って、見つめ合って、お喋りをしていた。
「満里奈さん……?」
「……潤さん!?」
 彼女は男性の手を握ったまま、まるで幽霊でも見たかのように目を丸くした。ぼくも信じられないものを見たように、彼女の全身を眺めてしまった。
 黒かったロングヘアーは、やや明るめの茶髪になっていた。夏らしい青のTシャツに、花柄のミニスカートを穿いて、細身のわりには肉感的な太ももを露わにしていた。
 ぼく以上に満里奈さんは動揺していた。
「え? え? 潤さん、ですよね? どうして……」
 怯えたようなか細い声で、唇をわなわなと震わせていた。
「ん? 同じ学校の友達?」
 彼氏らしき男性が満里奈さんに訊ねた。
「違う、違うの! 学校は違うんだけど……あ! ほら、私の親友に舞子がいるっていったでしょ? その舞子の友達の友達」
 満里奈さんはぼくをちらちらと見やりながら、懸命に説明した。
 舞子の友達の友達──。ああ、そういうことか。

『勇吉のいない村』より

 あの夏の女性たちもいまはもう……

「お兄ちゃん、危ないで」
 後ろから美桜の声がして、ぼくは顔を上げた。十メートルほど前方から、若い奥さんと赤子を抱いた旦那らしき男性がこちらに向かってきていた。ぼくは凍りついたように立ち止まった。若い奥さんは、白に水色のボーダー柄のTシャツでひらひらと風に揺らめく薄いグリーン色のロングスカートを穿いていた。胸の前までかかっていた黒髪は肩にかかる程度に短くなっていた。ほっそりとした顔立ちも一年前に比べて少しふっくらしていたが、見違えるはずがない。なんといっても、ぼくの初体験の相手であるのだ。
 理沙さん……二号機だ。

『勇吉のいない村』より

 あそこにいけば、きっとまだ……

 人よりも案山子の数のほうが多い田園地帯を突っ切った先の、竹藪だらけの山の麓にバラック小屋はある。
 夏の夕風と土の匂いを感じながら自転車を漕いでいると、一年前の夏に戻っていく錯覚に見舞われた。ぼくは久しぶりに汗だくとなって、ペダルを漕ぎ続けた。
 やがて集落が見えてきた。一年前と変わらず、トタンに覆われた平屋が三軒あった。よかった、まだ残っている。三軒ある小屋のうち二軒は空き家だ。残りの一軒が勇吉の家だ。
 ぼくは集落の前で自転車を停めて、そこから歩くことにした。いや、走った。
 しかし、勇吉のいた小屋の近くまで駆け寄ったところで、ぼくの足取りは重くなった。夕暮れ時でヒグラシが鳴いていた。うっそうと茂る竹藪のせいで、あたり一帯はすでに薄暗くなりつつあった。
 おかしい……。去年の夏は夜以外、開けっぱなしだった簡易トイレのような玄関の戸がきっちりと閉められていた。嫌な予感を抱えながら、ぼくは玄関の戸の前に立った。三回、ノックした。三十秒ほど待ったが、物音一つ返ってこなかった。もう一度、今度はトントントン、トントントンと、六回叩いてみた。反応は同じだった。上空で風が吹いていた。竹笹の擦れあう不気味な音がしていた。

『勇吉のいない村』より



物語の舞台となるのは「海の京都」と呼ばれる、京都府北部のY町





 

 
 


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