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【SF】因果平衡 第3幕第1話

あらすじ

この国にはひとつの穢れが巣食っている。ミヌ―アの領主レヒトは父親殺害の犯人を捜すため、過去へ遣いを飛ばす。遣いが重要参考人として連れて帰ってきたのは、レヒトの弟と名乗る人物だった。男は事件の犯人をレヒトだと告発し……。

登場人物

レヒト・フェアティゲン     ミヌーアの王
凪               神官団長
沙舎・シュミット        未来からの帰還兵
レヒト・ドラヒェスブルク    過去のレヒト(以下レヒト・Dと表記)
リンク・ドラヒェスブルク    レヒトの弟
シンクロー・ドラヒェスブルク  レヒトの父親
ミヨシノ            レヒトの母親
オフィークス・フェアティゲン  前ミヌーア王
汽水              前神官団長
神官/市民           ミヌーアの善良なる市民

マガジン紹介

前回のお話

Ⅲ収束篇

戦場へメタモルフォーゼ

汽水 登場
   ギリシャ悲劇のコロスのように
  「オフィークスの陰謀によってミヌ―アは戦場と化した。父と子のすれ違いが因果を狂わせたのだ。生じたものは仕方ない。あとは止むのを待つしかない。すべてはホロロギーの名のもとに」
   退場
   
   殺陣
父シンクロ―軍と子レヒト・D軍が斬り合っている。
ライト(未来から来たレヒト)はレヒト・Dに従軍している。

現在のフェアティゲン邸にメタモルフォーゼ

凪 空を見つめて
 「構わない。神託はすでに下っている。それを受けいるかどうかはレヒト様の課題です」

 リンク「……誰と話しているんだ?」

凪「レヒト様はどの道ご自身の意思で過去へ飛ぶことになっていたということです」

リンク「どういうことだ?」

凪「それがホロロギーの御心です」

リンク「ホロロギーは気分で人の生き死にまでも変えることができるのか?」

凪「いいえ。ホロロギーはあくまで時間の監督者です。レヒト様がお亡くなりになるという事実は変更できません。本来はあなたがレヒト様を葬ることになっていたのですが、まあ、沙舎様に感謝ですね」

リンク「何の話だ」

凪「もう終わった話です」

リンク「……。聞きたいことがあるんだが」

凪「何について?」

リンク「ホロロギーのことだ。お前たち神官は社を使ってタイムトラベルを可能にしている。わたしもこの国で長く生活しているが、お前たちについてほとんど知らないんだ」

凪「なるほど。本来は、こういうことを教えるのはよくないのですが、リンク様は特例ですね。
  本来はわたくしはホロロギーの名のもとに神託を与えておりますが、先程も申したように時間、すなわち因果が正しく流れているかを監視するという役目も受けております。あなたは過去からこの世界線へやって来ましたね。神官が存在すればどの世界線であっても、過去と未来を繋げて行き来することは可能なのです。しかし今よりも未来の世界線には行くことはかなわないのです」

リンク「神官がいれば時間を繋げることができるのだろう?」

凪「ここから先の時間軸には神官が存在しておらぬのです。時間を繋げることができれば、未来の状況を知ることができますが……。ホロロギーの非公式な見解ですが……他国との戦によって社が壊されたのだろうと」

リンク「ベーロイエンか」

凪「ハイ。わたくしはあなたが生まれる前に、あなたのお父様から神託を受けるように言われていました」

戦場へメタモルフォーゼ

 戦場の高台 汽水とレヒトが戦を見下ろしている。
父シンクロ―軍と子レヒト・D軍が斬り合っている。

汽水「あなたは本来この世界線に来る人間ではなかったのです。先ほどの神託と矛盾が無いことを考慮すると、あなたがいた世界線以前でアレクサンドルが隣国ベーロイエンと内通して謀反を企てようとしたからと考えるのが妥当でしょう」

レヒト「アレクサンドル? 一体誰の話をしているんだ?」

汽水「アレクサンドル・ミハイロヴィチ・クズネツォフ。あなたの有能な家臣、沙舎・シュミット様のご本名ですよ。彼はベーロイエンからの不法入国者です」

レヒト「ハァ?」

汽水「アリャ? わたし余計なこと言っちゃいましたか。じゃあ、今の話は無かったことに……なりませんよね!」

レヒト「沙舎。ベーロイエン。不法入国。謀反。おい、説明しろ、一体どういうことだ、汽水!?」

汽水「わたしだって原因は分かりません」

レヒト「それじゃ困るんだ! ちゃんと分かるように説明しろ!」

汽水 レヒトの言葉を遮るように
  「ただひとつ。遥か昔、タイムトラベル技術の開発によって時間への干渉が可能になりました。その時ある問題が発生しました。あなたもトラベラーならば、ある程度想像がつきますよね?」

レヒト「……歴史が書き換わる」

汽水「そうです。時間というものはあるプログラムによって絶対的な流れ、因果を持っています。しかし干渉を繰り返せばエラーは付き物です。時間の綻びは簡単に生まれ、本来出会うはずの人や物が出会わなかったり、あるいは出会うはずのない人や物が出会ってしまうという事態が起きてしまいます。今回の場合は、「アレクサンドル様が祖国の誘いを受けた」というエラーが起こってしまった」

レヒト「元のプログラムはどうなるんだ?」

汽水「ひとつの時代に複数の因果が発生した。だから我々はその綻びを繕うシステムを構築したのです」

レヒト「我々っていうのは」

汽水「お察しの通り。ホロロギーです。我々は遥か昔に造られ、それぞれ世界線の監督を任された端末なのですよ。全ての個体はクラウドで繋がり、情報のやり取りをし行っているんです。そのシステム全体がホロロギーの正体です」

レヒト「では私たちがずっと信仰していたものは神ではなかったということなのか!?神を騙り、市民を騙して絶対的な権力を独占しようとしようとした、とんだ謀反者だ!」

汽水「口を慎め愚か者! もう一度言わねばならんか? 我々は世界の均衡を保っておるのだ! ルシャトリエが発見した化学平衡原理のように、たとえ歴史変化が起きようとも、自動で修復を行う絶対不動のシステムであるぞ! これこそ神託が絶対である所以。この国は直に滅ぶ。あなたの弟君も王になることは決してない!」

レヒト「なぜだ! わたしはミヌーアを救う為にこの世界線にやってきたのだ!滅ぶということはあり得ない!」

汽水 空を見つめて「……と言ってるが」

凪 空を見つめて

「構わない。神託はすでに下っている。それを受けいれるかどうかはレヒト様の課題です」

リンク「……誰と話しているんだ?」

凪「レヒト様はどの道ご自身の意思で過去へ飛ぶことになっていたということです」

凪とリンクはける

汽水「了解」

レヒト「何をしているんだ?」

汽水「ちょっとした諮問です。レヒト様にはもうひとつ言わなくてはならないことがあります」

レヒト「もう、止めてくれ……。頭がこんがらがって、何を信じればいいのか……」

汽水「……なるほど。では止めておきましょう。ですが、神託は絶対です。あなたがいくら言い張ろうとも、我々は全てを見通す」

沙舎が現れる

レヒト「サーシャ!お前、まだ生きておったのか!!?」

沙舎「エエ、なんとか」

レヒト「リンクはどうした?」

沙舎「あれから会っておりません」

レヒト「どうしてあそこでわたしを裏切った!?」

沙舎「裏切っってなどおりません! どの世界線から来たレヒト様かは存じませぬが、私はたしかに、あなたから証人を連れて帰ってくるように命ぜられたのです!」

レヒト「お前がここへ追いやったんだろ! サーシャ! イヤ……アレクサンドル!」

沙舎「なるほど。私が戻った後のレヒト様でございましたか。なれど……仰っていることはまったく分かりませんな!」

レヒト「ならば、ここで斬る!」

沙舎「イエ、あなたは斬れないはずです」

レヒト「何?」

沙舎「ここで私を斬れば、私は未来へ戻れなくなる。そしたらあなたをここへ追いやった私も消える。でもあなたは今ここにいる。私を斬った後、あなたは一体どこへ行くのか? そうですよね、汽水殿!?」

汽水「ハイ。サーシャ殿の言うとおり、ここでサーシャ殿を斬ってしまえば、パラドクスが生じる。先ほど申したように因果平衡は絶対でございますが、エラーを最小限にするのは私の仕事です。汽水殿をお斬りになると言うのであれば、私には止める義務がある。ここは見逃すのが、得策か思いますが、ライト様?」

レヒト「クソッ! ……行けッ!」

沙舎「ご理解いただき感謝する。失敬」
   去る 

兵士が流れ込む

次回のお話

因果平衡 次回完結!
親子の因果はどこへゆく……!


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