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【SF】因果平衡 第1幕第2話

あらすじ

この国にはひとつの穢れが巣食っている。ミヌ―アの領主レヒトは父親殺害の犯人を捜すため、過去へ遣いを飛ばす。遣いが重要参考人として連れて帰ってきたのは、レヒトの弟と名乗る人物だった。男は事件の犯人をレヒトだと告発し……。

登場人物

レヒト・フェアティゲン     ミヌーアの王
凪               神官団長
沙舎・シュミット        未来からの帰還兵
レヒト・ドラヒェスブルク    過去のレヒト(以下レヒト・Dと表記)
リンク・ドラヒェスブルク    レヒトの弟
シンクロー・ドラヒェスブルク  レヒトの父親
ミヨシノ            レヒトの母親
オフィークス・フェアティゲン  前ミヌーア王
汽水              前神官団長
神官/市民           ミヌーアの善良なる市民

マガジン紹介

前回のお話

宮殿前広場から王室

レヒト「調査団を派遣してもう七日目になる。向こうで何かあったのであろうか?」
 
凪「お戻りになるのが遅いからといって、向こうで何かあったと結びつけるのはいささか早計でございます。いくら過去といえども、別乾坤。こちらとは流れている時間が異なります。帰還する際に日付を7日遅く設定したか、もしくは」
 
レヒト「その続きは言わんでくれ」
 
凪「……。これは出過ぎたことを申しました」
 
レヒト「いや、構わん。わたしは怖いのだ。才のある若い家臣を三人送ったが、果たしてそれでよかったのか、とな。この調査は危険が伴う。もっと経験豊富な」
 
凪「家臣たちを信じましょう」
 
レヒト「……。そうだな」
 
神官「申し上げます!沙舎様がお戻りになられました!」
 
レヒト「ホントウか!?良かった。ホントウに良かった」
 
凪「他のふたりは?」
 
レヒト「そうだ。他の者はどうした?」
 
神官「それが、どうやらご一緒ではないようで……」
 
レヒト「やはり過去で何かに巻き込まれたのか?」
 
神官「その代わり、証人を連れて帰ったようでございますが」
 
レヒト「証人とな?」
 
神官「はい」
 
凪「これで事件の真相が分かればよいのですが」
 
レヒト「とにかくここへ通せ。早く話が聴きたい」
 
神官「では」軽く会釈
証人(フードを被っている)と沙舎を連れてくる
はける
 
凪  はける
 
レヒト「沙舎、よくぞ戻って参った。他の者は?」
 
沙舎「他の者は争いに巻き込まれ、討ち死にいたしました」
 
レヒト「やはりか。当時は争いが絶えぬ頃だったからな。お主だけでも戻ってきてくれてわたしは嬉しい。してお主が連れて帰ってきたその方は?」
 
証人「ハイ。わたくし、シンクロ―・ドラヒェスブルクが次男、リンク・ドラヒェスブルクと申します」
 
レヒト「なんだと?」
 
リンク「お久しゅうございます、兄上。いや、今は、レヒト・フェアティゲン様、でしたっけ」
 
レヒト「沙舎、これは一体何の真似だ」
 
沙舎「見ての通りでございます。ここにおられますのは、貴方様の弟君、リンク・ドラヒェスブルク様でございます。調査のためドラヒェスブルクの館へ訪問した際、フェアティゲンの家の者かと思われる不貞な輩の襲撃が入りまして、保護した次第にございます」
 
レヒト「それで、どんな証言をしてくれるのだ?」
 
沙舎「見たもの全てでございます」
 
レヒト「何を、どこまで?」
 
リンク「誰が誰を殺したか」
 
レヒト「ほう。教えてもらおう」
 
リンク「あなたの父上はわたしの家臣が殺しました」
 
レヒト「なるほど。わたしの父上を殺したのは、ドラヒェスブルクの者であったか。なるほど。事件の真相はそうであったか」
 
沙舎「恐れながら、神託では罪人の追放もしくは血をもって血を贖うことで穢れを払えるとお聴きしましたが?」
 
レヒト「ああ、その神託は偽りであった。お主らが過去へ調査に行った後、神託が書き換わったのだ。「真実を明るみにするだけでよい」とな」
 
リンク「あり得ませんな!神託は絶対でございます。途中で書き換わったなどとよくも言えるものだ!」
 
レヒト「口を慎め!ここはわたしの王宮ぞ!」
 
リンク「過去の人間にそのような些末なことが関係あるとお思いか!兄上、もうひとつ提出せねばならない証言がございます。わたしの父上は兄上、貴方が殺したのです」
 
レヒト「それは話題のすり替えではないか?」
 
リンク「確かに、そうかもしれません。しかし我々は過去で見たものを正直に申しているまでです」
 
沙舎「先程、襲撃の後保護をしたと申しましたが、戻ってくる前にことの顛末をすべてこの目で見てきております。リンク様の仰る通りにございました」
 
レヒト「お主はわたしを信じてはおらぬのか?」
 
沙舎「わたくしが信じているのはホロロギーのみでございます」
 
リンク「そのようなことを仰られるのならば、ご自分で見に行かれてはいかがですか?神代の昔から百聞は一見にしかずと申します。人から口づてに聞いた話ならいざ知らず、自分の目に映るものまでも否定されると言うならば、それは神への冒涜でございましょう」
 
レヒト「何をふざけたことを」
 
沙舎「レヒト様。全ては保護をしたわたくしの責任でございます。もしリンク様の証言が噓偽りであったならば、ここにおります沙舎・シュミット並びにリンク・ドラヒェスブルクが貴方様がお戻りになられた後に、腹を切ってお詫び申し上げます」
 
フェアティゲン邸別室
 
凪 空を見つめて
どことなく無機質
誰かと通信をしているような口ぶり
「なるほど。沙舎が他のものを刺したのか。やはり、どこかで時間が書き換わっているな。……。アア、おそらくそこでしょう。レヒト様の時間もすでに書き換わりつつある。その時は、よろしく頼む」
 

オフィークス邸へメタモルフォーゼ


家臣「オフィークス様、シンクロー様より贈り物が届きました」
 
オフィークス「なんじゃ?シンクローからか。……。後にしてくれんかの」
 
家臣「それが、日ごろの非礼を詫びたいと、たいそう立派な鷹を献上されましたようで」
 
オフィークス「鷹だと?」
 
家臣「ハイ。殿はたいそう鷹がお好きだとご子息のレヒト様から聞いたようで……」
 
オフィークス「レヒトがシンクローに薦めたのか。……。ならば、心配ないであろう」
家臣に「通せ」
 
家臣「ハッ」
鷹を連れてくる
 
鷹 持っている手紙をオフィークスに渡す
 
オフィークス「手紙? ……。時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。さて、この度は」
シンクロ― 登場
「この度は、わたくしの度々の非礼をお詫びしようと筆を執った次第でございます。愚息から聞き及ぶまで、そのように感じられていたということに気付かなかったのは、まったく恥ずかしいばかりでございます。しかしこれもまオフィークスの治世の安定、ひいてはミヌ―アを思ってのことでございます。しかしながら、オフィークス様に不愉快な思いをさせてしまったのもまた事実。つきましてはオフィークス様が非常に好きだと聞きました鷹を送らせていただきます。わたくしが丹精込めて育てた鷹でございます。是非鷹狩りのお供として使ってください」
 
オフィークス「シンクローもなかなかやるではないか」
       鷹を見る
 
鷹 眼つきが変わる
オフィークスを斬りつける
 
家臣「タイヘンだ!!!」
 
多くの人々が慌てふためき、場面がメタモルフォーゼする。
気付けば鷹も飛び去っていて、オフィークスの死体もない。

次回のお話

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