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最近「読んだ本」のこと

本を読むことが何よりも好きだった時期がある。
ハードカバーでも文庫本でも薄い本でも。そこに知らないことが書かれている、それだけで僕には十分だった。装丁にも興奮した。今でも好きな本は表紙のデザインから見返しの質感まで、全て思い出せる。

今でも本は買っている。だいたい月に4-5冊くらい。
買うのはほぼ大阪の豊中市にあるblackbirdbooksさんだ。ここは僕の大切な場所。

読む本を買わなくなった。
買う本は6割が写真集やアートブックと言われるもの、3割が息子のための絵本、小説は残り1割だ。
ビジネス書は買ったことがない。美しいものが少ないから。美しいビジネス書があったら、多分買う。


昔はこんなんじゃなかった。

ブックオフでとにかく百円コーナーの本をひたすら買って読んでいた時期もあった。図書館で毎週5冊ペースで本を借りていた時期もあった。読みかけの本の続きが気になって学校をサボった日も(かなり)あった。


今はこんなんになってしまった。

本を読むことが何より好きだった時期がある。
今は、本が大好きだ。




ここまでが前置き。

こんな人間の「読んだ本」の紹介なんて、誰が興味を持つのだろうか。

それでも、最近「読んだ本」を3冊紹介する。
面白かったか?オススメか?
そんなことが知りたい人は、目次だけ見てAmazonのレビューを見て来たらいい。


【水中で口笛】工藤玲音 左右社

エッセイや小説も書く文藝界期待の新人、くどうれいんの第一歌集。
彼女はもともと俳句や短歌を詠む人で、そのことが軽妙なエッセイや物語にしっかりとした骨格を与えている。
詠える人の言葉は強さが違う。

くどうれいん名義のエッセイも読みやすいしとても面白いのだけど、僕はこの工藤玲音の歌集を紹介したい。
高校時代から現在に至るまでの、膨大な作品の中からの抜粋だけあって、かなり掲載されている作品の幅は広い。
正しい感想かどうか分からないが、ドキドキする。

短歌も読もうよ、みんな。
31文字でワクワクドキドキだよ。
こんだけみんな時短だ効率化だ言ってるのに、なぜ31文字で色んな気持ちにさせてくれる歌集を読まないのかな。もったいない。Twitterより短いのに。

いま工藤玲音は小説が芥川賞候補になり、かなり話題になっている作家だ。
ちなみに彼女は僕と同じ高校出身の後輩で、同じ地元の古本屋を心から愛している。
だから贔屓している面もあるかもしれない。

それでも言う、読んでみて欲しい。

【人類堆肥化計画】東千茅 創元社

これはエッセイなのか、哲学書なのか。
それとも農耕生活の手引きなのか。

奈良の山間部で農業を中心としたほぼ自給自足生活を送る筆者の、独特な思考と嗜好が目一杯詰め込まれた本。

堆肥、という言葉に込められた、文明批判や生きづらさのようなもの。少し香るニヒリズム。
自らを欲望のまま生きる人間と称する筆者の、健康的で豊かな(?)暮らし。きっと読む人によって捉え方は様々な本だと思う。

ただ、皮肉な言葉の根底にあるのは圧倒的なまでの人間賛歌、生の喜び、そして自然への敬意だ。
そこと同時に存在する人間のエゴやドロドロしたものが、まさしく堆肥のように混ざり合って一冊の本の形になっている。

これに似た本はあまりない。

現在、筆者は棍棒製作に夢中のようなので、よかったらTwitterで見てあげて欲しい。素直に楽しそう。



【東京夜話】いしいしんじ 新潮文庫

これは「最近読み返した本」だ。
とても不思議な短編集。

・真夜中の生ゴミ 下北沢
・老将軍のオセロゲーム 神保町
・吾妻橋の下、イヌは流れる 浅草

など、それぞれの地域を舞台にした短編が全18篇。
どれも他では読めないような不思議な読み味の物語が並んでいる。

著者のいしいしんじは【ブランコ乗り】【麦ふみクーツェ】など独特なタッチの中長編の小説を書く。
僕は高校生の時に【麦ふみクーツェ】と出会って以来の大ファンで、クーツェはボロボロになるまで読み込んだり人にあげたりして3回くらい買い直している。

現実的な話しか読まない人には何が何だかわからないかもしれない。いしいしんじの魅力はそこだ。

決して荒唐無稽なお話ではない。設定もある程度までは極限までリアルで、文章も上手い。
なのに、いしいしんじの物語では簡単に現実がひっくり返るようなことが起きる。一瞬で自分の価値観が正しいのか、地面が真っ直ぐなのかわからなくなる。淡々と、不思議なことが起こり、淡々と登場人物たちはそれを受け入れ自分らしい語りでそれを乗り越えていく。

この短編集は、そんないしいしんじの魅力が濃縮された一冊だ。特にぼくが好きなのは「クロマグロとシロザケ 築地」というお話。純愛というテーマを人間を置き去りにして描き切った怪作だ。

とてもとても残念なのだけど、現在絶版となっている。
古本屋で見つけたら、ぜひ手に取って欲しい。


今回は以上の3冊。
普通の本屋さんではなかなか、目に止まることの少ないかもしれないが、個人的にとても好きな本たちだ。

これをきっかけに、本を読む人が、いや知識を詰め込むためじゃなく本を読む人が増えてくれたら嬉しい。

それでは。

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