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”歴史を学び、革命を先導しろ”『鈴木寛』が語る必読書10冊

(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)

業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?東大・慶大の学生のソーシャルイノベーションを先導する鈴木寛氏。元文部副大臣でもある鈴木氏が現代に生きるビジネスマンに不可欠な公共哲学を鍛える本をご紹介する。【Professional Library】

1964年生まれ。兵庫県出身。東京大学教授、慶應義塾大学教授、社会創発塾塾長。Teach for All Global Board Member、元・文部科学副大臣、前・文部科学大臣補佐官、日本サッカー協会理事など。
1995年夏から通産省勤務をしながら、大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰し、現在に至る。

慶應義塾大学SFC助教を経て2001年参議院議員初当選。12年間国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めた。2012年、一般社団法人社会創発塾を設立し、社会起業家の育成に力を入れる。

様々なプロジェクトで支える立場に

僕は挙げていくとキリがないくらいのプロジェクトに関わっています。直近ですと、ラグビーワールドカップ日本大会です。日本も勝ち上がっていて、非常に盛り上がっていますが、この大会は日本全国の12都市で行われています。このような規模で行われる大会では、現地でボランティアしていただける方々は大会の成功に不可欠な存在です。また、ボランティアをしない人でも、地域の方がどれだけ快く迎え入れてくれるのかというのは、この大会の成功において、非常に重要でした。

ラグビーワールドカップが開催されると決まった時点では、ラグビーというスポーツはやっと少しずつ認知されてきたくらいの状態です。僕は、文部科学大臣補佐官時代にワールドラグビーとの交渉のサポートをしていたこともあり、市民の方にも盛り上がってもらえるように、「ストリートラグビーアライアンス」という団体を立ち上げました。この団体は3対3で行うストリートラグビーを盛り上げる活動をしています。広いコートがなくてもラグビーができるため、ラグビーを身近に感じてもらう機会になったのではないかと思います。このような活動が、今のラグビーワールドカップへの関心を掘り起こすことに繋がったと感じています。

そのほかにも、ライフサイエンス業界のエコシステムの形成にも関わっています。バイオ系のベンチャーでイノベーションを起こしていくためにはスタートアップを支えるエコシステムが欠かせません。もともと薬の街だった日本橋に「ライフサイエンスイノベーションネットワークジャパン」(https://www.link-j.org/)という会社を作って、これまでほとんどなかった貸しラボを作りました。ベンチャーは大企業のようにラボを持てないため、こういう場のおかげで、オープンイノベーションできるようになってきている。現在では日本橋に約350社のライフサイエンスベンチャーが出来てきて、いい循環に入りつつあります。

このように、挙げていけばキリがないですが、本業としては東大や慶大で若い学生の指導を行っていて、私の教え子からたくさんのベンチャーやソーシャルアントレプレナーが生まれています。

自分の軸をもって決断する

僕のこれまでの人生で一番大変だったのは、文部科学副大臣をしていた時に起きた東日本大震災でした。僕は教育を主に担当していたので、学校を閉鎖するか、あるいはいつ再開するのかという判断や、子供たちのメンタルケアの指示など多岐に渡りました。それ以外にも、学校の避難所としての利用や原発の放射線問題にも対応する必要がありました。決断の連続の日々だったからこそ、判断の軸の重要性を感じた日々でした。
僕自身、その軸は明確に持っていました。「第1に、命を守ること。第2に、重篤な後遺症を減らすこと。第3に、心と体の健康を守ること。」です。この軸に基づくことで、自分の中の結論は迷うことはなありませんでしたが、多くが国論を二分するような決断の連続だったので、大きく2つのことは意識していました。1つ目が、関係者の人に理解してもらうこと、2つ目が、最終的な決断までの時間がかかりすぎてしまわないことです。僕は今も東北に関わっていますが、現在も東北の復興の途中です。復興は過去のものではありませんが、当時はとても大変でした。

責任を背負う事こそが僕たちが存在する意味

意見が二分された時に、結論を押しつけるだけでは良くない。一緒に考えていくことがとても大切です。僕も『熟議のススメ』という本を書いていますが、公共哲学の考え方で各々の正義がある中で論点を整理することの大切さを伝えています。

僕は学者出身で、構造化したり論点を整理したりといったことは人より得意としていたので、議論の際にはそれが活きました。
しかし、熟議をしても不満は出ます。それぞれの立場があるので、自分の立場を揺るがす結論については、完全な賛成をなかなか得られません。賛成を得る最大限の努力をした上で、賛成が得られなくても、将来の価値のためであれば断固実行します。現在の価値を失う人からは相当叩かれますが、それを背負う覚悟を決める。それが僕たちの仕事です。この責任を背負う事こそが僕たちが存在する意味だと思っています。
そして、その後もコミュニケーションを続け、意見を聞く窓口は開けておく事も意識的に行っています。異なる結論を持っている人でも、問題に対して最善を尽くして解決しようという方をリスペクトしていく。この事は心がけないといけません。
2020年度からの教育改革も、その例の1つです。私はこの教育改革に深く関わっていますが、まさに現在の価値を未来の価値に転換する政策です。この改革は、2020年度からのプログラミング教育必修化、センター試験から共通テストへの大学受験改革を行うものです。そのプロセスでは、現場の先生方に一定の負担を強いることになります。ただ、どれだけ現場の先生方にご理解をいただけるかという事は重要です。そのため最近は、講演や相談会を毎週のように全国で行っています。

決断をするには哲学が必要

熟議の際にもそうですが、決断をするポジションについている人は、ぜひ公共哲学の考え方を体得してほしいです。ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』と『エルサレムのアイヒマンー悪の陳腐さについての報告』は、現在に通じる部分があり、不朽の名作だと思います。ブラック企業・ブラック労働の危険性を、21世紀最大の大虐殺をしたアイヒマンから学べます。

また、一時的にブームとなった、マイケル・サンデル教授の『これから「正義」の話をしよう』は、正義に対する考え方を鍛える上で、これからも読み継がれていくべきだと思います。

最近の世間の関心事からいくと、民主主義の母国ともいえるイギリスがブレグジットの論争で大揉めしていたり、アメリカではトランプのような大統領が生まれています。僕は、世論という存在が、強い影響力を持つようになっており、歴史は繰り返すことを感じます。このような情勢では、ユルゲン・ハーバマスの『公共性の構造転換』、ウォルター・リップマンの『世論』を読むべきだと思います。

重要な決断が、正義や熟議などとかけ離れたところで、自由に行われてしまっています。この問題をハーバマスは50年前に、リップマンは100年前に指摘しているのに、今でも解決していないということを知っていただきたいです。正義なき決断や熟議なき決断は良い結果になりえません。

僕は妥当な結論は中道にあると考えています。特に政治的な決断については慎重である必要があるし、実際の現場レベルではプロセスを慎重に積み上げて議論がなされています。そして、ジャーナリズムは正しい情報を世の中に広げることによって、世の中の判断をより全うなものにしなければなりません。ですが、残念ながら売上至上主義となってしまった商業メディアは過激な情報のみを発信する状態になっています。それに影響を受けた大衆、そしてそれに合わせる政治家、と悪循環に入っていってしまいます。インターネットの登場以後、さらに問題は深刻化してしまっているのも事実です。

”わかりやすさ”が僕たちをダメにする

政治的な決断の話でも触れましたが、最近、僕が疑問視しているのは、メディアの”わかりやすさ”です。この”わかりやすさ”を求めることが、精微であることが求められる複雑な事とトレードオフになってしまっていると感じます。僕は『テレビが政治をダメにした』という本を書きましたが、今はテレビに加えてYouTubeとかもありますよね。
それらの商業メディアは、どれだけキャッチーで人の目を引きつけられるかに重きがおかれています。キャッチーさが視聴率・PV数に繋がる以上、広告費を稼ぐためという点では仕方のないことなのかもしれないですが。逆に本のように、主体的に理解しようとする必要のあるメディアが貴重になってきているとも言えます。だから、僕は本というのは永遠になくならないものだと信じています。

微力な僕たちでも世界を変えられる

あまりそうは思わない方も多いと感じますが、僕も含め、総理大臣であっても個人の力というのは微力です。だけど、誰しもが世界に影響を与えるような人になる可能性がある。先日の国連総会でスピーチしたグレタ・トゥンベリさんも例外ではなく、タイミングが合えば大きなうねりを作り出すことができます。今は世界的に不安定な状況なので、1人の16歳の少女の発言が注目されたと思います。時代を先読みし、歴史の転換点を予測して、行動を起こせば、微力だとしても大きな影響を与えることができます。

歴史を学び、革命を先導しろ

第一次世界大戦時のサラエボ事件を知っていますか。歴史の授業では、オーストリアの皇太子が暗殺された事件だと習うかもしれませんが、実は運転手が道を間違えていなければ殺されていなかった。つまり、大きな歴史を作ったのは偉大な政治家かもしれないけど、微力な1人の行動が歴史を変えたってことです。このプロセスは非常に興味深いです。

先人達には、多くの「板挟み」、「想定外」、「修羅場」を乗り越えた人がいます。同じような状況で、孫文はどう判断したのか、ガンディーはどう判断したのか、そのプロセスを知っておくことは、自分が決断するときの基準となります。歴史というのは、自身の中である程度パターン化できると思います。

また、歴史をよく知れば革命に先んじることができます。だから、技術の歴史や科学の歴史を好きな人が少ないのは非常にもったいないと僕は思いますね。技術自体の詳細までは知らないにしても、技術の歴史を学んでおくことで、次の時代を予測し、新しい時代の先頭に立てるようになれるわけです。当時、僕はITが来るのが見えていた。だから、Yahoo! の川邊さんは僕のゼミ生だし、スマートニュースの鈴木さんも10代から知っているし、楽天の三木谷さんも当初から知っていた。ただ他の人より先に行動していることが、価値になると思います。今、僕がライフサイエンスのイノベーションに影響を与えられているのも、2000年代になってすぐに舵を切れたからだと思っています。

歴史から革命を先取りするという視点で、『文明ネットワークの世界史』はオススメの本です。ビジネスマンは分野横断的な視点を持てていない傾向にあると思います。だから、次の時代がどうなるかを意識して欲しいです。自動運転とか、シェアリングとか、5Gとか、変化しつつあるものによって、都市の構造は変わってくると思います。歴史の変化に目を向けることが、これからの時代を考察する上で非常に重要です。

また、歴史の変化の中でも、日本の近代以降の技術の変化は目覚ましいです。その早い変化の過程の振り返りをできるのが、『シリーズ日本の近代 – 新技術の社会誌』です。例えば、洗濯機は、欧米諸国より日本の方が早く普及しました。それは日本の主婦に家事以外の時間を生み出した革新的な技術だったからです。この本では、洗濯機以外にも、ラジオや活版印刷、時計など生活に大きなインパクトを与えた技術の歴史が、市民の生活レベルで記述されているので非常に面白いです。当時の急速な歴史の変化は、現代に通じるものがあります。『文明ネットワークの世界史』は、巨視的に見ていて、『シリーズ日本の近代 – 新技術の社会誌』は市民の生活レベルで見ています。どちらも技術の変化を見ていますが視点が大きく違うので、合わせて読むことを薦めます。

歴史は繰り返す、とよく言われます。しかし僕は、ただ繰り返すだけではなく、スパイラルアップしていると思います。つまり、技術が進化・進歩していくという構造になっている。だから、新たに出てくる技術とそれの根本となっている新たに現れた科学についてはキャッチアップしていく必要があります。そのため、歴史書・哲学書・テクノロジーの解説書の3つは常に追っておくべきだと思います。歴史を学んで、革命を先導してください。

教育が変わることで、世界は変わる

人が歴史を作るのか、歴史が人を作るのか。これは大命題としてあります。そこに大きな影響を持つのが教育だと思います。教育に対して鋭く切り込んでいるのが、最近僕が監修した『教育のワールドクラス―21世紀の学校システムをつくる』です。アンドレアス・シュライヒャーという僕の友人が書いた本で、この人は、エビデンスベースで世界中の教育を調査しています。教育談義において、個人の見解を語る人は多いのですが、その分、この本を読む価値はあると思います。教育は、受けた人の全員が同じ知識を得ることができる視聴率99%のメディアです。他のどんなメディアでも敵わない存在です。これから教育改革が進んでいくので、読んで損のない本だと思います。

また、自著の『熟議のススメ』は、ぜひたくさんの人に読んでいただきたいです。政治において中道が生き残れない時代という話をしたと思いますが、どちらかに極端な人だけが生き残っても最終的にうまくいくかと言えばおそらくNOでしょう。皆さん1人1人が公共哲学を持った上で、熟議をすることができるようになれば、より良い世界になると僕は信じています。

※インタビューをもとに作成
インタビュー:青木郷師、文章:高井涼史

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