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映画『ANNA アナ』感想

予告編
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PG-12指定


 本日投稿するのは、3年程前に公開された映画『ANNA アナ』の感想文。7月8日(土)よりHuluにて配信予定なんだとか。


マトリョーシカ


 本作はKGBとCIAを舞台にしたスパイアクション映画。冒頭、「ズン」とした短い低音が繰り返し響く中、細かな説明も無いまま「何が起きている?」とドキドキさせられるシーンから始まることで一気に観客の心を鷲掴みにする本作は、本作と同じくリュック・ベンソン監督作の『ニキータ』や『レオン』 同様、戦うヒロインの姿が魅力の一つ。

 例えばレストランでの戦闘シーンで、白のコートを脱ぎ捨てて戦闘服のような黒いスーツになる瞬間が面白い。白いコートは一般客を装いターゲットに近付くためのただの変装。しかし、あるアクシデントでターゲットを仕留め損ない、店内で多対一の乱闘状態になった彼女は、次々と襲い掛かる敵を、最初のうちはナイフや銃でスマートに仕留めていったのだが、次第に押され気味になり、白いコートを脱ぎ捨てる。ここで露わになるスーツは最早、彼女が “一般客” という装いの殻を破って「戦闘に専念します!」っていう宣言と同義。スーツになった途端、周りにある物で力尽くで殴り倒したり、一気に強引な戦い方にコンバートしたのは、白いコート——穢れの無い純白≒綺麗な戦い、スマートに美しく遂行すること——を脱ぎ捨てたことをより強く印象付けてくれる。敵をバッタバッタと薙ぎ倒すチャンバラ感というか、近頃はアメコミ映画にお株を奪われがちなドンパチアクションを見られるのも然ることながら、こういう小さな仕掛けが施されているのも観ていて楽しい。



 スパイ系映画の常というか、観客さえも欺く感じをしっかり抑えているのも良い。巧妙に仕組まれた展開に「この後一体どうなる?」ではなく「えっ?!なになに、どういうこと?!」となること請け合いです。それも何度も何度も。それらしき伏線が明確にあるわけではなく、それは最早、抗いようの無い後出しジャンケンのような強引さがあるけど、その「どういうこと?!」という驚きを美しく回収する素晴らしい仕上がりが、有無を言わさず観ている者を納得させてくれます。

 そこからの、でもクライマックスだけは「一体どうなる?」というギャップ……かと思いきや「どういうこと?!」なラストも憎い! 観客を散々翻弄しておきながらも全てが見事に調和している感じ。これを伝えるには文章を読むのではなく実際に観て頂くより他に無いんですよね笑。こればっかりは本当に。



 まずもってビジュアルが良い。主人公アナ役に本物のスーパーモデル(サッシャ・ルス)を起用している本作は、各シーンがまるで「オシャレCMかよ」と言いたくなるほどに美しい。時には、着々と任務をこなす彼女の姿にポップミュージックを添えることで「イカしたMVかよ」と言いたくなったりもします。様々な表情を生み出すモデル業、そして様々な人物になりきるスパイであるアナだから、色んな土地で色んな服装、表情を見せてくれるんです。

 先述の「どういうこと?!」なシーンが訪れる度、その直後に「~ヶ月前」などと時間を遡って答え合わせをする構成でありながらも観客が迷子にならないのは、そうやって時間を遡る度に「オシャレCMかよ」「イカしたMVかよ」なワンカットがフラッシュバックされ「あのシーンの時か」と一瞬で理解させてくれるから。その都度、説明チックな演出を要しないからテンポが良く、そのテンポの良さがスパイ映画という題材、そしてアクションとの相性も好く、相乗効果となっている印象です。



 けどなんだかんだで本作最大の魅力は、以上のようなエンタメ的魅力の連鎖の最期の最後に、ふとドラマを描いているところ。化粧と衣装で飾られるモデル業……、なりすまし、装い続けるスパイの任務……、様々な形のラバーズ……。セックスと生死が幾度も描かれる過激な日々とは相反し、彼女の本当の姿はどこにも見当たらない、わからない。中を開けども開けども “側(ガワ)” しか出て来ない。決して彼女がロシアの方だから述べるわけじゃないですが、劇中でも用いられていた通り、それはまるでマトリョーシカ。隠していたのか、彼女自身にもわからなかったのかまでは定かではありませんが、このメタファーは面白い。

 ネタバレになるので細かくは言及しませんが、ラストシーンで彼女の “その後” を追わないというのも素敵なポイント。彼女を追って、それを描いてしまっては、彼女が本当に欲していたもの、そしてようやく手に入れたそれを否定してしまうことになるからこそ描かなかったんじゃないかな。今までに他の映画のレポートでも度々書いてきたことですけど、「女ってやっぱり怖い」と思わされる展開のラストも個人的に大好き笑。


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