映画『マイ・エレメント』感想

予告編
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〇(まる)


 水、風、土、火の4つのエレメント(元素)たちが暮らす街、エレメント・シティが舞台となる本作。そんな4つのエレメントの中でも最も相容れない火と水のキャラクター二人がメインとなる本作は、生まれ持って相容れないという設定と、火と水という性質としての相性、どちらともが見事に活用されていたように思います。

 そんな話をしていこうかと思いつつも、毎度のことながらピクサー作品の仕上がりぶりには驚かされてばかりでして笑。毎回必ずと言って良いほど「さすが!」となるのはわかっているはずなのに、そんなハードルを本作もまた悠々と飛び越えてくる。上手く説明できるか不安ですが、個人的に素敵だと思ったことを述べて参ります。



 冒頭、海の上に光が浮かぶ。しかしそれは、主人公エンバーの両親たちが船に乗っているだけのシーン。けど霧がかかっていたせいで、はじめはその正体がわからず、水平線の先に浮かぶ太陽かのように見えたんです。振り返ってみれば、このド頭のちょっとしたシーンが、本作の象徴となるシーンの存在を予感させていたようにすら思えてなりません。

 水平線、要するに海。そして太陽。どちらとも、水と火、ぞれぞれの究極系というか、この組み合わせは主人公である〈火〉のエンバーと、〈水〉のウェイドという二人の暗喩のようだと思わせるには、充分な存在感があります。


 ある時、エンバーとウェイドが浜辺で砂を集めるシーンで、再び水平線と太陽が描かれます。今度は見間違いなどではなく、本物の水平線と太陽。陽が沈む——火と水が重なり合う——という光景は、火と水が触れ合えないことが繰り返し強調されて描かれる本作においては、とても印象的な瞬間。

 その際、エンバーは自身の熱で溶けた足元の砂の塊を利用し、丸いガラス玉を作り出すのですが、彼女はその透明なガラス玉の中に模様をも描き出します。それを見てウェイドが口にしたように、その模様はまるで〈ヴィヴィステリアの花〉のよう。〈ヴィヴィステリアの花〉とは、作中に出てくる “どんな環境でも咲く” という花のこと。その性質は、各エレメント同士が持つ「相容れない」という性質とは真逆のもの。

 しかし一方で、エンバーにとっては排斥の記憶にも繋がり得るもの。エンバーは幼い頃、〈ヴィヴィステリアの花〉の展示を見に行こうとするも「〈火〉は危ないから」という理由で入館を断られています。


 夕陽の輪郭、そしてガラス玉の「丸い」というリンク、加えて〈ヴィヴィステリアの花〉という要素によって、ここで生まれたガラス玉が重要な象徴であるかのごとく思わされる。



 そんなことを頭の片隅に置きながら、別のシーンの話を少し。浸水してしまった駅の中にある〈ヴィヴィステリアの花〉を見に行くシーン。ゲイルが作った気泡に包まれることで、エンバーもウェイドと共に水中に潜れるようになる。(ここでもなんやかんやあるのですが割愛。)

 そして、駅から抜け出た二人が手を取り合う瞬間……。この一連のシーンは本作の中でも一番の見どころ。もちろん「火と水が触れ合う」ということ、それ自体も素敵な場面ではあるのですが、“橋の下” という場所が素晴らしい。橋脚の半円状のアーチの真下で手を取り合う二人の姿を引きの画角で描くことで、橋下の水面に半円のアーチの影が反射し、まるで二人が一つの円の中に納まっているように映る! なんて素敵な表現でしょうか。

 浸水した駅内でのシーンでは、あくまでエンバーは気泡の中、ウェイドはその気泡を押して泳ぐという状況だったために、円(気泡)の内外で二人が隔絶されていました。そんな直前のシーンとのギャップも相俟って、より一層美しい構図に見えます。


 また、ずっと見ることが叶わなかった〈ヴィヴィステリアの花〉を見ることができたことが「トラウマの解消」を、そしてもっと言えば “水の中に入っていく” ということが「対立・分断の解消」などを連想させるカタルシスに繋がり、そういった相乗効果もあって、より素敵なシーンに感じられたのかもしれません。まだ他にも円(気泡)を意識してしまうシーンもありますが、それは見てのお楽しみってことで。


 火と水 → 気泡 → 〇・球体・円、或いは元素のイメージ——“丸い” 原子同士がくっ付き合っている——等々がもたらすインスピレーションも然ることながら、あれもこれも、すべてが繋がっているように見えてきてしまいます。挙げていたら切りが無くなるほどに。繰り返しになりますが、だから毎度毎度ピクサー作品には「さすが!」と思わされてしまう。

 ……「さすが!」だと偉そうかな? 「参った!」の方がしっくりくるかも笑。


 どこか寓話的な雰囲気もある本作ですが、それは火や水といった自然物が擬人化された世界観のためかもしれません。また、そういったキャラクターたちのおかげで、普段目にするようなアニメーション以上に、痛々しさが軽減……というか皆無だったのも良いと思います。
 「火である」「水である」という性質が、その柔らかな動きやヴィジュアルに、これ以上ない説得力を持たせていたのも魅力的。豊かな感情表現を可能にしながらも、それがスラップスティックみたいにならず、通常のアニメーションとして楽しめます。


 あと、これは僕が英語に疎いために原音の英語との比較ができないのですが、火や水といった自然物を絡めたセリフが豊富に混ざっていたのも面白かったです。言葉遊びだったり慣用表現だったり、(日本語吹き替え版は未見ですが)各エレメントたちの特性と動きにマッチしたセリフの数々によって、キャラクターたちがより生き生きとしているようにも見えてくる。多くの方にオススメできる一本だったと思います。



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