映画『聖なる犯罪者』感想

予告編
 ↓

R-18+指定


無意識


 本作は、前科のある男が聖職者になりすましたという実際の事件から着想を得て作られた物語だそう。教会を舞台に、神事や神父についてのことなどが描かれているため、キリスト教についての基本的な知識はあった方が良いのかも……。でもそういう意味で言えば、僕は勉強不足のまま観に行ってしまったなぁ。所々で素っ頓狂なことを述べてしまうかもしれません。悪しからず。


 実際にあった事件が基になっているとはいえ、あくまでも着想を得ているのみの本作。この物語で描かれているのは、決して消えることのない過去の罪を背負ったまま、道徳心や善良の鑑ともいうべき聖職者になろうとした青年の心情のような気がします。本作を観終えて、「彼は一体何がしたかったのか」という疑問にぶつかり、明確な正解を導き出せない人も多いかもしれないですが、それで良いはず。というのも、本作の脚本を務めたマテウシュ・パツェヴィチュ氏が「色んな風に解釈できるので、映画にする価値がある」とインタビューで述べていたから。

というわけでここからの話は僕の個人的な解釈……って、今に始まったことじゃないか。



 主人公ダニエル(バルトシュ・ビィエレニア)の言動は描かれていても、動機まではなかなか窺い知れない本作。それ故に、彼をどう見ているかが如実になるような印象。全体的に若干暗めの調光も相俟ってか、前科というフックに引っ張られることによって「こいつ悪いこと考えてんじゃね?」という、偏見にも似た疑念がうっすらと湧いてくる。自身の過去を偽るというあらすじもそうですけど、「やめる」と言っていたはずのお酒を飲んでしまうシーンや、女性の下着に視線が向いてしまっている描写など、危うさが際立っています。表情が読めない彼のビジュアルもまた良いし、R-18指定という鑑賞前の釘の刺し具合も利いているのかもしれません。


 そうやって物語が進んでいった終盤……、(ネタバレ防止のため、経緯についてはあまり細かく書かないでおきますが、)彼が大勢の中にありながらも独りで食事をする姿は、まるで誰一人として彼を理解する者が居ないことを示しているよう。

そこから迎えるクライマックスは、抑え込んでいた感情が噴火してしまったかのような激しいカメラワーク。でも結局、鑑賞後に残るのは「どういうことだろう」感。含蓄ある風なんて形容はなんとなく軽薄かもしれないですが、この後味は、劇中で度々描かれる神父の説教との相性が好い。けどそんなに陳腐な解釈ではないように思える。彼は何がしたかったのか。もしかすると何をしたいかを探していたのか。


 どうやら僕は、物語の舞台となる町に暮らす人々と同じでした。事実だけで誰かを恨む町民は、疑念や私怨をぶつけるばかりで、ぶつけられる側の事情や心に寄り添えない。前科、R指定、暗い調光……etc. そういった要素にばかり引っ張られていましたけれど、もしかしたら彼は本当に変わろうとしていただけなのかもしれない。そういう想いで再度本作を観てみると、むしろそうとしか見えなくなってくる。

欲に負けたり狼狽する姿は、単に弱いだけ。少年院から出たばかりの若者が緊張してしまうのは当然。誰だって、過去の罪は知られたくないから敢えて言おうとはしない。ついついお酒を飲んでしまうこともあるさ。女性の下着に目が行ってしまうのも、男なら何ら不思議なことじゃない。パンチラ姿に「あっ……汗」ってなるのと全く一緒。弱いだけで、悪人ではない。


 しでかしてしまったこと自体は到底肯定できるものではないし、大いに反省しなければなりません。しかしながら、たった一度の失敗で全てを否定してしまうのはあまりにも薄情……いやまぁ、それくらいの罪もあるんでしょうけど、立ち直ろうとする者に対して冷たい社会を暗に示しているような気さえします。再起の芽すら許さないのは制度や風潮だけではなく、本項で僕が述べたような無意識下の決めつけ。たまに笑い話なんかに使われるたとえかもですが、花の前に立っている姿だけで、「花を愛でている」と思われる人もいれば「花をむしり取ろうとしている」と疑われる人もいる。前科、それも何の罪をどんな事情で犯したのかも知らず、もっと言えばその外見だけで決めつける。つまり偏見。人が堕ちてしまうのは、あからさまな糾弾や否定だけではなく、「どうせこいつ」という雰囲気を醸す視線にあるのかもしれません。

 理解者も居らず、孤独になり、まるで救われることなく帰ってきたかのような流れの後、過去の罪を彷彿とさせるかようなラストシーンは見事。あまりにも色んな感情が詰まっており、この言語化し難い感情・表情をラストに据えてブツ切りになる終わり方もまた、脚本のパツェヴィチュ氏が述べるところの「映画にする価値」の一つなんじゃないかな。

 作品全体としても然ることながら、(R指定が付くくらいなので過激ではありますが)各所で細かな描写、表現が光る一本だったと思います。


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