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映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』感想

予告編


 昨日、9月6日は、イタリアのオペラ歌手、ルチアーノ・パヴァロッティの命日でした。

 というわけで本日投稿するのは、パヴァロッティの生涯を追ったドキュメンタリー映画の感想文です。

よければどうぞー。


歌とは


 ——初めてオペラを観た時、好きになる人も嫌いになる人もいる。んで、それは一生変わらない——
 ……めちゃくちゃギュッと短く要約したけど、映画『プリティ・ウーマン』でこんな感じのセリフがあったんですよ……うろ覚えだけど。

“オペラは出逢い” とも言い換えられるかもしれません。その出逢いは、イコール “人との出逢い” でもあって、ルチアーノ・パヴァロッティのような歌い手と出逢えたならなんと幸せなことだろうと思います。


 オペラ、それどころか歌や音楽に関する素養の無い僕でも楽しめた本作は、ルチアーノ・パヴァロッティというテノール歌手の歌い手としての魅力、延いては人間的な魅力を映し出したドキュメンタリー映画。



 “ハイC” とかいう高音域があるらしいのですが、彼のそれは尋常ではなく魅力的。

…… とか言われてもわかんないよ。絶対音感があるわけでもないし……

 なーんて思いながら観ていた僕ですら一発でわかる高音。しかもその見せ方が良いのです。まずその声を聴かせてくれる。「ぅえ?!なに今の音!」という感情が残ったまま「彼のハイCは耳に響く」という言葉を挟み、再びその声が流れる。だから今度は自然とその響きに意識を傾けてしまう。オペラ音痴の僕にも理解させるこの見せ方は自信の表れというか、シンプルな見応え、もとい聴き応えがあります。

細かな説明もなく「ハイCってのがあるんだよ」→ドーン!と聴かせるこの流れは、彼のことを知らない観客に対する「ちょっと驚かせてやろうかな笑」みたいなイタズラ心のようにも感じられて、それがそのまま彼自身の性格というか人間的な魅力とも合致しているように感じられて尚面白い。



 本作は、写真の使い方もまた上手い。彼の過去のインタビューや歌唱シーン等、多くの映像資料が用いられる中、所々で流れてくる写真の数々が、単に当時の様子を捉えたものという役割以上に、観客側に何かを訴えかけてくる気がします。

 個人的に特に面白いと思ったのは、彼が世界的ロックバンバンド・U2のボーカル兼ギターのボノに作曲をお願いした話になったシーン。オペラ界のスターがロックバンドに作曲を依頼すること自体も面白い話ですけど、そこだけで話は終わらずに、共演の提案までしてきたルチアーノのエピソードを「曲を送って終わりかと思ったら始まりだった」と語るボノ……。そしてその直後に映し出されるのは、扉を開け、その隙間からニヤッとこちらを見つめるルチアーノの写真笑。

何より、この一連のエピソードをボノ自身が楽しそうに話しているのも良い。



 正直、彼については本作が初見。予告編やら映画の情報サイトで本作のことを見聞きするまで、何も知りませんでした。“神に祝福された声”、“イタリアの国宝”……etc. 様々評された豊麗な美声、そして「太陽のテノール」という副題から想像していた通りの男でした。

 しかしながら、冒頭の映像はあまりにもイメージが違いました。ホームビデオか何かで撮影された彼のインタビュー。真っ直ぐこちらを見つめ真摯に質問に応える彼の表情は暗い。「歌手としてどうなりたいか」「歌手としてどうだったか」といった幾つかの質問の後、「男としては?」という問いがあり、それに答える前にそのインタビュー映像は終わる……。

そこから、彼の人生を映す本編へと入り、波乱万丈な彼の人生の最期までが映し出され、そして終盤、再び冒頭のインタビューシーンの続きに戻ってくる。

「なんだこの展開は。あんなに明るい男の最期の声がこんなネガティブな言葉なのか……」と、おそらく劇場の観客の誰もがそうやって落胆し ていた。と思いきや! 最期の最後に彼の歌声。しかも聞いたことあるやつ!(『誰も寝てはならぬ』?)そして、もはや必然のようなラストの大喝采は、もしかしたら彼へのメッセージや感謝。もしくは『トゥーランドット』に準え少しクサいことを言えば “愛” なのかもしれません。

 冒頭、そして終盤で流れたインタビューで彼が口にした「人々の記憶に残れたら」という歌い手としての理想は、今、間違いなく実現しており、それをこの映画は証明してくれているのだと言わんばかりのラストは、映画に対する感動なのか、彼の歌声に対する感動なのか……、白状すると全く分からないまま劇場を後にしました。

でもきっと、両方だ。映画を通して彼を知り、そんな彼が歌うからこそ感動した。何も知らず、ただの平場で聴いても同じように感動するとは思えない。

「なぜ?」と聞かれても上手く答えられそうにないのですが、そういえば劇中でボノが言っていたんです。オペラの評論家たちがルチアーノ・パヴァロッティについて口にする「全盛期の方が上手かった」「昔の方が高い音が出ていた」という意見に対し、「歌を何もわかっちゃいねえ」と。これが答えだと思います。


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