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映画『ルックバック』感想

予告編
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再び、ド肝を抜かれる


 本作はODS作品(非映画作品)ということでして……。でも、この味わいはもう映画ですよ笑。なので、感想文は書きます。ODSが故に「割引が使えない~」だとか、なんやかんや、ほんの少しばかり話題にもなったそうですが、倍額払ってでも観たい、満足度の高い58分間でした。


 『チェンソーマン』などでも知られる漫画家・藤本タツキ氏が『ジャンプ+』にて発表した同名読み切り漫画作品をアニメ化した本作。

 ジャンプラ読者なら御承知の通り、原作の読み切りが公開された際には凄まじい反響もあり、ジャンプラアプリ内のコメント欄、SNSなどでも様々な批評・考察が飛び交っていたので、原作の物語や込められたテーマ等々について、今さら語るまでも無いかと。何より、原作を読んだ、或いは本作を鑑賞した方々それぞれで味わい、噛み締め、考えることが一番だと思います。僕自身、本作については “どう描かれていくか” ばかりを注視しながら鑑賞してしまいました。

 その題材も然ることながら、まるで映画のスクリーンやスマホで撮影された映像を想起させるように、常に一定サイズのコマだけで描かれた読み切り作品『さよなら絵梨』も執筆していた藤本タツキ先生が原作の物語ですから、なおさらね。

 原作とは異なり、コマ割りといったものが無い中で観客の視線や意識をどう誘導していくかも見どころの一つだったと思います。


 例えば、京本が美大への進学を藤野に伝えるシーン。まるで画面上で二人を分断するかのように、木の陰が描かれていました。原作でも同様に木の陰は描かれていましたが、本作では二人の間に木の陰を配置することによって、二人の想いが別々であることを窺わせる。
 「藤野に頼らず一人の力で生きてみたい」と主張する京本、そんな京本の美大進学を認めたくない藤野という構図も相俟って、その分断はより際立ちます。

 一方、そこでの口論の最後に京本が「もっと絵、上手くなりたいもん……」と口にする瞬間、木の陰は二人を分断することなく画面の端に描かれており、先ほどまでの分断の描写とは対照的に、この「もっと絵、上手くなりたい」という想いだけは決して別々のものではないのだと強調していたかのよう。

 これまで共に漫画の執筆活動をしていた二人が別々の道を歩み出すことを示しつつ、一方で、同じ想いや志も同時に抱えていることを際立たせるからこそ、二人の繋がりがより強く感じられる。原作を丁寧に落とし込みながらも、漫画ではないからこそ可能な描写の一つだったと思います。


 ……そして、だからこそ直後の展開に、より強い衝撃を受けてしまう。決定的なネタバレに繋がりかねないので、これ以上は割愛。




 他にも、原作を真摯にアニメ化していることがわかる細かな描写はたくさんあり、同時に以上のような、アニメーションや映画だからこその表現も素晴らしい本作。中でも個人的に好きなのが、藤野が四コマ漫画をうっかり落とし、それが京本の部屋に入ってしまうシーン。廊下の窓が開いていなかったのがとても印象的でした。

 原作では “うっかり手が滑って落としてしまった” ような描写でしたが、本作ではどこかから吹いた風が、藤野の手元から四コマ漫画を滑り落とさせたような描写になっていました。……窓が開いていなかったにも関わらず。

 例えばですが、その直後に慌てて京本宅を出ていこうとする藤野、しかし靴下を履いてフローリングを走れば滑りやすくなるし、慌てているからこそランドセルをしっかり閉じている余裕もなく、パカパカと音を立ててしまう……etc.
 原作ではそこまで細かく描写されていなかった部分までも丁寧に描かれている本作のことですから、“窓は閉まっているのに室内で風が吹く” という事象が、「作り手のうっかりや偶然なわけがない」と観客に信じさせる。


 序盤、そしてクライマックス共に、この滑り落ちた四コマ漫画をきっかけとし、そこから描かれるファンタジー、或いは「もしあの時~」という回想シーンが本作にとっては大変に重要なわけですが、そこへの導入を非常に滑らかにしてくれる描写だったと思います。窓は閉まっているけど、風が吹く。本当にわずかに、ほんのちょっとだけ感じ取れるファンタジーの気配。そしてそれは、アニメーションならではの見せ方の一つといっても過言ではないかもしれません。原作での描写・展開を過不足なく拾い上げ、且つ短い上映時間の中で最大限の見応え・感動を生み出す縁の下の力持ち的な瞬間だったんじゃないかな。



 なんかややこしい感想を述べてしまいましたが、シンプルにアニメーションとして素晴らしいのも本作の魅力。一つ一つの動きが細かく、キャラクターの一挙手一投足だけでも惹き付けられます。描き込みの凄まじいアニメーションは、それだけでキャラクターに立体感というか、生感、温度感みたいなものを宿らせるよう。初めて漫画『ルックバック』を読んだ時の驚きや感動にも負けず劣らず、再び、ド肝を抜かれました。言葉だけでは伝えきれません。


 他にも、原作とは少し異なるスタートながらもちゃんと「DON’T」の文字が隠れていたり、原作に比べて少しばかり京本側の視点が多めに描かれていたり……。原作を知っているからこそ味わい深くなる瞬間もたくさん見受けられました。

 本項冒頭の繰り返しになりますが、倍額払ってでも観に行きたい、その価値がある、非常に満足度の高い一本だったと思います。


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