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映画『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』感想

予告編
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PG-12指定


家族はつらいよ


 物語の序盤に示される “小津の視点”——映画監督・小津安二郎の特徴的な撮影手法の一つ――。まぁ実際の定義はともかくとして、あくまでも本作に登場するキャラクターのロマン(バンサン・マケーニュ)曰く、舞台のように定点から家族を捉えるその手法は、カメラに映る誰か一人だけを主人公にしない、広角の固定撮影なのだそう。

「ハッピー・バースデー」という、主人公然とする者が存在する場でありながら、そんな説明が冒頭に語られることにより、まるで本作全体の見方を誘導しているかのようでした。案の定というか、広角の固定撮影が用いられたシーンが訪れる度に小津の視点——誰か一人を主人公にしない——を意識してしまう。

そしてもっと言えば、形や意図は違えど、ままならない家族の在り様を描いた本作と小津安二郎というワードから、映画『東京物語』を思い出すこともありました。家族の煩わしさ、鬱陶しさ、しち面倒臭さ等々、リアルな苛立ちを誘発してくれる素晴らしさがあります。自身の家族間での揉め事と比較するも良し、他所ん家のトラブルを眺める気分で観るも良し。とにかく登場人物の誰か一人だけに限定して肩入れ、もとい感情移入して観るには勿体無いと思います。



 誰か一人を主人公にしないとは言っても、台風の目みたいな人物は存在する。三年前に姿を消し、突然帰ってきた長女・クレール(エマニュエル・ベルコ)や、家族を勝手に巻き込んで映画撮影みたいなことをする次男・ロマンが良い例。そんな彼らを「台風の目みたい」だなんて感じてしまうのは、僕が長男のヴァンサン(セドリック・カーン)寄りの考えだからなのかな?

まぁ感じ方は人それぞれ違うでしょうけど、これらの厄介さ加減が見事。理論が通じないヒステリックに対して、論理的思考は成す術がない。勝手に車に乗った上に事故を起こして帰ってきたロマンに逆ギレされるわ、傍若無人のクレールに振り回されるわ、厄介ごとから目を背ける母親・アンドレア(カトリーヌ・ドヌーブ)の説得をすれば開き直られるわ……。真っ当であるが故に割を食っていたヴァンサンの姿は、不憫過ぎて逆に面白い。

そして家族の中での揉め事だからこそ、正論が何一つ武器にならない気持ち悪さが際立ち、観ていてイライラしてきます。もちろん、これは褒め言葉。非論理的思考に論理的思考で立ち向かうのは論理的ではない、という「仕方ない」に納得できない感じって言うのかな?


 逆に、正論ばかりで詰めてくる相手に苛立つ気持ちも充分わかってしまう。そうそう、家族の揉め事ってこんな感じなんだよなぁ、と改めて思う。『東京物語』を観た時もそんなことを感じたような記憶がうっすら残っています。杉村春子さんが演じていたおばさんが本当に嫌いでした笑。
(脱線終わり。話を戻します)


 もし家族じゃなけりゃとっくに縁を切っているような関係性による煩わしさがあるからこそ、ふとした瞬間に訪れる “家族っぽさ” が印象的になる気もします。個人的に一番印象に残っているのは、病院に運ばれたクレールに、アンドレアとヴァンサンが会いに行くシーン。心配だから会いに来ただけなのか、それとも〈母親〉や〈長男〉といった立場上、様子を見に行かないわけにはいかないから来ただけなのか。割合はともかくとして、どっちの心情もあったんじゃないかな?

 しかし、会いに来た二人に対しクレールは怒鳴り散らす。「とっとと帰れ」「二度と私の前に現れないで」と。

そんな突き放す言葉の直後、困ったように一歩退いてしまったヴァンサンに対し、母・アンドレアは彼女に歩み寄り抱きしめる。……なんでしょう、たったこれだけのことなのに「ああ……、長男(弟)っぽいなぁ」とか「ああ……、母親だなぁ」と感じてしまう不思議な感覚。

(たしか『万引き家族』だったかな?のパンフに書いてあった言葉を少し引用しますが→)家族とは自明ではない、家族の正しい在り方なんて無く、論理的に考えがちなヴァンサンが手こずるのは至極当然。そんな “家族” だからこその複雑な人間模様が、本作最大の魅力なのかもしれません。




 本作には、同じ画角を用いて、家の中に入っていくシーンが二つあります。一つはオープニングシーン。明るい表情を見せる少年二人が駆ける。天気も良く、タイトル(邦題)から滲み出る温かみも相俟って、とても素敵な物語を期待させます。

そしてもう一つは、後半。今度は夜の暗い中、家に入っていく(帰ってくる)シーン。別に帰りたいわけでもない。帰ったところで落ち着けるわけでもない、どうせまたストレスを感じることがあるとわかっているのに……。


 初めに想像していたのはオープニングのあの感じ。でも実際はそんなイイもんじゃなかった。突然降り出す雨、楽しいはずの誕生日に訪れたトラブル……etc. “思っていたのと違う” のです。

でも、ここ(家族)に帰ってくるしかない、と言わんばかりの後者のシーン。この反復からは、なんとなくそんな意図を感じてしまう。少なくとも僕個人はそんなことを考えてしまいました。家族はつらいよ。予告編映像の文言そのままで申し訳ないですけど、家族って煩わしくて、憎たらしくて、愛おしい。そんなことを感じた一本でした。


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