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映画『ステージ・マザー』感想

予告編
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PG-12指定


対話


 急逝した息子が遺したゲイバーを相続することになった母親が、亡き息子と彼が愛した仲間達のためにそのゲイバーの再建に奮起する物語。とてもハートウォーミングな物語であると同時に、洒落の利いたコメディ要素もいっぱい詰まっていて面白い。……まぁだいぶ下品ではありますが笑。


 中でも、会話に参加していない人の描き方が素晴らしい。例えば、主人公・メイベリン(ジャッキー・ウィーバー)の居候先(仮住まい?)でゲイバーのメンバーがグ〇ーリーホールの話題でゲラゲラと大笑いしているシーン。嬉々として下ネタの応酬が繰り広げられる中、グ〇ーリーホールという言葉の意味を知らないために会話に着いていけないメイベリンの位置取りというか、スクリーンへの映り込み方が面白くて仕方がない。

下ネタを話す二人が交互に映るんですけど、まるでその二人の間に挟まれているかのような位置にメイベリンを配置しているんです。カメラがスイッチする度、下ネタを口にする者が画面の真ん中に、そしてその斜め下、つまりはスクリーンの隅に彼女が映り込む。しかもそれが背中越しで表情が見えないからこそ、話の内容が理解できないためにリアクションが取れていないことと同時に、話に着いていけていない感がより浮き彫りになっている印象です。話の内容の過激さに隠れて、こういった然り気ない見せ方の妙が混ざっています。


 他にも、近所のホテルに泊まるお客さんを店に呼び込むために、彼女一人でホテルに交渉に行くシーンも良かったです。若手のコンシェルジュに雑にあしらわれ、一度は断られてしまうものの、そこに偶然通りかかった老練のコンシェルジュ長に懇切丁寧に応対してもらい、しかもホテル客にゲイバーの宣伝をしてくれることを約束してもらうシーン。コンシェルジュ長とメイベリンが楽しそうに会話するその奥に、まるでポートレート写真のように若干ボケ気味に映る若手コンシェルジュのシルエットが面白い。自身とは違って丁寧な応対をしている上司の姿を見て「……やべぇ、ちゃんと応対しておけば良かったかも……汗」と感じている様子が手に取るようにわかる。シルエットだけで表情は見えないはずなのに、何故かそう感じられる不思議さがあります。こういったポイントも見どころの一つなんじゃないかな。



 息子の訃報をきっかけに、ほとんど絶縁状態だった息子について向き合うメイベリン。物語の序盤、息子の葬式に参列していた彼女でしたが、息子の仲間たちによる突然のドラァグクイーンの催しに困惑し、式場から逃げ出してしまいます。そんな彼女が物語のラストには……とまぁ、クライマックスについてはネタバレ防止のために割愛しますが、ゲイである息子を受け入れられなかったメイベリンが、息子とその仲間達が大切にしていたものに触れ、段々と変化していく過程にドラマがあります。本作を観ていると、受け入れることの重要性を強く感じさせられます。

葬式もある種の “受け入れる” 儀式。そんな葬式を受け入れられずに逃げ出してしまった彼女。そもそも息子の性的指向を受け入れられなかったメイベリン夫婦。その他、彼の死を受け止めきれずドラッグに逃げてしまった者や、メイベリン親子同様に、性的指向のカミングアウトをきっかけに関係が破綻してしまった者たち等々、様々な形で描かれていました。

 今思えば、先述したような、会話に着いていけないメイベリンの姿は、目の前の事を受け入れられず、対話することから逃げていた彼女の暗喩だったのかもしれません。


 話が飲み込めない、葬式から逃げ出す……。そんな彼女が、少しずつ色んなものに向き合っていくよう変化していく。そんな気がします。そしてそんな彼女の対比のように、頑として受け入れられないままの夫の存在もまた大きい。これは一概に夫側の考えを「古い」だとか「間違っている」として、悪役のポジションを担わせているわけではなく、受け入れられない者と受け入れようとし始めた者が対になることで、必然的に対話を生み出しているような印象。……うう、上手く言えない泣。なんていうか、“見ない” を選択するとか、目を背けることっていうのは否定と同じなのだと教えてくれる存在。彼がメイベリンの夫だからこそ浮き彫りになってくるメッセージ性というか、ある種の必要悪。



 色んな人々の愛情が感じられるハートウォーミングな本作。親だからという理由だけで介入される不快感を描いたかと思えば、親だからこそお節介したい感じが滲み出てしまうメイベリンの母性が垣間見えたりもする。最初は訝しげというか、どこか壁のあった彼女でしたけど、終盤には「緊張するのは成功が近いからよ」と、店のメンバーを励ますこともあった。正にメイベリンはこのバーにおけるステージマザーだと言わんばかりです。


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