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映画『ウエスト・サイド・ストーリー』感想

予告編
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時代の変化


 まさかのリメイク。それもスピルバーグが監督ってことでかなり話題性があったんじゃないかと。とはいえ説明不要の名作、しかもロバート・ワイズ版(以下:前作)と物語の大筋は変わっていないので、ネタバレとかをあまり気にせずに書けるから気が楽です笑。


 さて、元々の物語自体は今更解説するほどのことではないので掻い摘まみながら考察していきますが、当時のアメリカにおける移民同士の確執や、ロミオとジュリエット的な構図、そして単に死を美化させないストーリー性などなど、元ネタの根本部分は変えることなく作られていたと思います。吹き替えだった歌唱部分も、本作では演者本人による歌唱となっていたこともあり、映像的にも音質的にもより美しくなっていたし(まぁ半世紀以上も前の作品と比べるのもどうかとは思いますが)、一部の登場人物についても、前作に比べてパーソナルな側面が少しばかり濃い目に描かれていたようにも見受けられました。変わらぬ部分は鮮やかにブラッシュアップされ、そしてそれが逆説的に、変わった部分を際立たせる。時代の潮流に合わせたマイナーチェンジであり、そうやって浮き彫りにされた部分にこそリメイクした意味があったんじゃないかな。

 というわけで、リメイク版の話をする時のお馴染みの口舌になってしまいますが、前作を観てから本作を鑑賞することをお勧めいたします。




 わかり易いところで言うと、結婚式の真似事をするシーン。前作では、背景にあった窓ガラスの窓枠が十字架の代わりのように映されていただけだったのに対し、本作では教会ではなかったにせよ、それなりに相応しい場所でそのシーンが描かれています。また、前作でトニーが自暴自棄になった際に口にしていた「女は女らしくしてろ!」という女性蔑視のセリフが排除されていたのも、時代の変化を感じさせられるポイントの一つなのかと思います。(もしかすると字幕翻訳が異なるだけで似たようなセリフだった可能性も否めませんが……。)




 一方で、前作との違いによって、より一層心苦しく感じてしまう瞬間もありました。前作とは異なり、はっきりと「レイプ」と言葉にされたそのシーン。映倫の年齢指定が無い本作でありながら、ハッキリとセリフになっていた印象的な場面。アニータ(アリアナ・デボーズ)が店に来た時には、彼女に対して敵対的な態度を取っていたジェッツ側の女性たちも、アニータが男たちに囲まれ襲われ出した途端に、悲痛な表情で「やめて!」と叫び出す……。それは彼女が襲われている理由が、“敵対しているシャークスの人間だから” だけではなく、“女性だから” になってしまっているから。男たちによって残酷な目に遭わされる、或いは遭わされてきたことを知っている女性だからこそ出てきた心からの叫び。それがたとえ、敵対しているアニータだったとしても。

 前作には無かったこの言葉・表情を組み込んだのは、こういった男側の暴力的な行為や背景が、“当時は” ではなく “今でも” 存在しているからなのだと突き付けてくるかのようにも感じられます。



 とまぁ、変わった部分は幾つもあるけれど、やはり一番の見所はクライマックス。流れは同じ。ただ、ほんの少しだけニュアンスが違う。翻訳者の差によるものなのかは判然としませんけれど、前作では「憎しみが彼を殺した」と激高していたマリアだったのに対し、本作では「誰まで殺せば気が済むのか」という旨の発言に変わっていた。ロミオとジュリエットのような構図を用いていながらも、決して死を美化することなく、争いの後に残るのは虚しさだけなのだと提示して終幕した前作。冷戦時代に生まれたそんな名作を経て半世紀以上……。憎しみの連鎖は何も生まないのだとあれだけ強く示して見せたのに、まだ届いていない、変わっていない。届かないまま、伝わらないまま、争いだけが続き、そんな中で作られた本作のラストに刻まれる「誰まで殺せば気が済むのか」というメッセージにこそ、作り手の想いが詰まっているんじゃないかと想像してしまいます。



 前作でアニータを演じたリタ・モレノが、バレンティーナ役として出演しているのも見どころの一つなのですが、このキャスティングは、映画ファンや当時を知る観客への接待やファンサービスだけに留まらない価値があるんじゃないかと思うんです。役こそ違えど、時を経て作られたリメイク版に同一の俳優が出演することは、歳を重ねたその姿も相俟って、観客に時代の変化を意識させる重要な仕掛けの一つになり得る。

 劇場には、おそらく前作をリアルタイムで劇場で観ていたであろう齢のお客さんも多く見受けられましたが、「若い頃を思い出す」「あの時の感動をもう一度劇場で」という想いだけで片付けさせないための配役だったんじゃないかな。同じことをなぞるだけがリメイクじゃないのだと痛感させられました


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