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映画『最後の決闘裁判』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


 本日、4月13日は ”決闘の日” なのだそう。
かの有名な宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島での決闘が、400年ほど昔の4月13日に行われたことから、日本の記念日になったそうな……。

 というわけで本日は、タイトルに「決闘」の文字が入る映画を投稿することにしました。
 内容的に、一概にオススメできる作品ではないのですが、もしよろしければ読んでくださいー。


”真実” の物語


 本作は実話を基にした映画。舞台は中世フランス。強姦事件の真偽を図るために行われた決闘裁判の行方を描いた物語。面白いのが、”実話を基にした物語” でありながらも、真相が未だに不明なこと。

そんな歴史劇を、夫・ジャン(マット・デイモン)、夫の旧友・ジャック(アダム・ドライバー)、そして妻 ・マルグリット(ジョディ・カマー)の順に、それぞれの視点で三章に分けて描き出す。各章ごとに「ジャンの真実」「ジャックの真実」「マルグリットの真実」というタイトルが添えられています。真相が未だ不明なため、誰か一人の視点を真実だと断定できない、という作り手側の事情もあるんだろうけど、視点によって、それこそ当人の思い込みや認識のズレという言い分で事実が歪められかねないことを教えてくれるし、何よりも、物語の肝、クライマックスに描かれる決闘裁判をマルグリット視点の章の中に収めるということが活きていた印象です。

もう少し細かく述べると、第三章——「マルグリットの真実」の題字がフェードアウトする際の仕掛けがもぉね……。はじめは、「彼女の視点こそ真実なのではないか」と言わんばかりのその仕掛けにシンプルに驚いていたけど、実はそうじゃなかった。誰が犯人だったとか、物語の展開、その他諸々。本作で描かれる強姦事件の真相や顛末等々、それら以上に作り手が描きたかったことを浮き彫りにするための仕掛けだったのかもしれません。



 ネタバレで申し訳ないけど、ラストシーンについて。夫と死別したマルグリットは、そ の後は再婚することなく、残りの生涯を独身で終えたというテロップが流れる。まるで、命懸けの決闘裁判に勝利した夫への深い愛を物語っている……と思わせるよう誘導するかのような締め括りだったけど、実のところ、ようやく手にした自由を死ぬまで謳歌していただけなんじゃないかとも思う。決闘裁判を終えた直後のジャンとマルグリットの表情はあまりにも対照的で、勝利に歓喜するジャンとは異なり、酷く疲弊したような、茫然としたような、生気の無い絶望にも似た表情だった彼女。そんな彼女が、ラストだけは穏やかな表情を見せていた。このラストシーンで夫の姿を描かないからこそ、女性の幸せは男によって形作られているわけではないということを物語っている印象です。


 時代もあるけど、やっぱり本作で描かれていた女性蔑視はエグい。「あるのは権利ではなく、男の権力」というセリフにもあった通り、女性という存在そのものが男側の所有物と化していた。性交シーンも、穏やかでロマンチックな描写など一度も無く、女性の表情はただ堪えるだけのもの。男二人の視点を描いた後にマルグリットの視点が描かれることで、男側が当たり前のようにやっていたこと、“正しい” と、“良い” と思い込んでやっていたことが男側の身勝手さやエゴであることを教えてくれる。状況や程度の違いこそあれ、現代にも本質的なものは残っているのだと突き付けられたかのようでもあります。

そんな事を考えながら観ていると、決闘裁判が決着した際に、観戦していた民衆の中でも、とりわけ女性たちの喜ぶ姿が目立っていたように感じられたことには、何か含蓄するところがあったのかもしれません。



 ラストシーンについての話に戻ります。彼女が自由を手に入れたことが描かれたラストだ、と僕は一旦は受け取ったけれど、そうとも言い切れなくて……。のどかな雰囲気の中、遠くの方にうっすらと映る男性従者らしき人影。そして実は塀の中の景色なのだと気付かされる場面でもある。塀といっても自宅を囲う塀なので、決して囚われの身だとかそういうわけではないものの、“塀” と “男の人影” という存在のために、自由を手に入れたように見えながらも結局のところ不自由さが残っているんじゃないかと訝しんでしまう。むしろそう思わせるメタファーみたいなものだったのかな……? うーん、わからん……。



 真実を黙っていることで「生きれた」「幸せだった」という義母の言葉は、過激でも誇大でもなく、女性の苦しみを物語った言葉。#MeToo運動なんてまだ無かった時代に声を挙げた女性の “真実の物語”……。とはいえ、第三章ですら、簡単に鵜呑みにも出来ない気配もある。構図や台詞などなど、男性社会や男尊女卑というものをこれでもかと見せつけられた一本。胸クソが悪くなる箇所も確かにありましたが、だからこそ描かれていることに意味がある。強姦シーンもあるので、簡単にお勧めできるような代物ではありませんが、衣装や舞台などの美術も凄いし、二時間半の上映時間も決して長くない、見応え抜群の作品でした。


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