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映画『シング・フォー・ミー、ライル』感想

予告編
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PG-12指定


”ありえない” の先に


 タイトルにもある “ライル” は、本作に登場する歌うワニの名前。そしてその歌声を担当するのがショーン・メンデス!  もうそれだけで劇場に観に行く理由になってしまう。日本語版は大泉洋さんが担当されているんですってね。まぁ好みもあると思いますが、僕はショーン・メンデスの歌声を劇場で味わいたいがためだけに観に行った口。多分、日本語版は観に行かないかなぁ……。


 そんなライルに限らず、本作に登場するいくつかの動物たちは、そのすべてがCGで描かれています。ライルは人語を用いているのですが、正確に言えば会話ができているわけではありません。ライルが口を開くのは、歌う時だけ。ライル以外の動物——例えば主人公家族が暮らす家の大家が飼っているネコ——も、CGアニメーションならではの人間顔負けの豊かな表情を見せていたりはしますが、人語を介したコミュニケーション、ましてや歌ったりなんてできやしない。しかし殊、ライルだけは、人語で歌うだけではなく、二足歩行をしたり、人間さながらの表情を見せたり……、挙げれば切りがありませんが、様々な擬人化手法が取られています。ファンタジー作品という皮を被ってはいますが、その実、本作におけるライルは擬人化を通り越して、もはやただの人間として描かれている。そう思えてなりません。他の動物に用いられている擬人化手法が1つ2つ程度までに抑えられているからこそ、余計に人間っぽさが際立っていたのも、そう思えた理由の一つなんじゃないかな。

ライルは、周囲の人々と見た目や出自が違っていたり、自身の感情を表現する方法が他人と異なっていたり、他者とのコミュニケーションが独特なだけ。実際、現実にもそういう人たちはいる(こう言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、別に、そういう人たちを人外かのように捉えているわけではなく、あくまでテーマの話)。物語を小難しく感じさせないように、CGアニメーションを用いたファンタジーミュージカルというジャンルに落とし込んだのかな、という印象です。



 劇中にも出てきた「こんなのあり得ない!」という言葉。それはまるで、ライルそのものを象徴しているような言葉にも思える。ハッキリ言って、ライルは “あり得ない” のテンコ盛りみたいなキャラクター。本作の見どころの一つは、そんな非合理的な存在(或いは非合理的の象徴やメタファー?)であるライルが、合理的な思考の人々の心を動かし、遂には大切な存在にまでなってしまうという物語にあるのかもしれません。


 物語の序盤、プリム一家が、ライルが隠れ住む家に引っ越してくる。息子ジョシュ(ウィンズロウ・フェグリー)は、「この街は犯罪率がどーのこーの」などと能書きを垂れるようなタイプだったし、また通学時には、スマートフォンのアプリを使って最短ルートで登校しようとするし、初めての登校にも関わらず移動に掛かる時間さえも外出前に把握しておくような、とても合理的で真面目な思考の持ち主だった

一方でジョシュの母親であるミセス・プリム(コンスタンス・ウー)も、とても合理的という印象の人物。結婚式での思い出にもなっていたチェリー菓子を、“健康的ではない”、“体に良くない” という至極真っ当な理由から否定し、ゴミ箱へ捨ててしまう。何も間違ってはいないけれど、気持ちや想い出よりも成分や健康的か否かなどを重視していた。しかし結果的には、そんな二人が真っ先にライルと心を通わしていく。ライルという異質な存在が、登場人物たちの殻を破っていくようにも見えます。



 家の中でのシーンで、母親がチェリー菓子を何度もゴミ箱へ捨てようとも、その度にライルがチェリー菓子を引っ張り出す展開の数々は、物語を楽しむ上でも非常に重要だったように思えます。想い出のチェリー菓子を捨てる云々という事柄が、登場人物が何を優先しているかをわかりやすくしてくれる。
先述したスマートフォンのアプリでのルート検索機能も、ライルと出会ったことでジョシュは、アプリでは知りえない裏道を見つけることができた。
よく知りもしないまま食わず嫌いだった食べ物も、ライルと出会ったことでその美味しさに気付くこともあった。

教科書やテンプレの中では知りえない世界に、“最高の世界” があるかもしれない。そんなキッチュな展開も印象的



 ある時、ライルが連れていかれる……。そこでのプリム一家の会話の中で際立つ「失敗」や「心配」というワード。それは奇しくも、ライルが人前では上手く歌えない原因でもあった。ジョシュたちはライルのおかげで変われた。今度は逆に、ライルのおかげで変われた者たちが、ライルを変え得るという、お互いに変化、或いは成長していくというバディ系やチーム系作品の王道展開に突入していくクライマックス、そしてそれを彩るショーン・メンデスの魅惑の歌声……。振り出しに戻るようですけど、結局、彼の歌声さえ聴ければそれで良し。ライルの存在に限らず、全編にわたってリアリティはほぼ無く、外連味もやたら強めな物語でしたが、その辺は目を瞑るのが吉かと。そういや児童文学(『ワニのライル』バーナード・ウェーバー[著])が元ネタの実写映画なのにPG-12指定になってるんですけど、何でなんでしょうかね?  残飯漁ってんのが良くなかったのかな?笑


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