見出し画像

映画『ベルファスト』感想 

予告編
 ↓ 


過去の感想文を投稿する記事【2】


 観に行ったのは去年の春先ぐらいだったかな?
だいぶ前の感想文ですが、もしよければ併せて読んでくださいー。



分断


 本作は、監督のケネス・ブラナー氏の幼少期を描いた半自伝的な映画。
当時の北アイルランド・ベルファストでは、武装したプロテスタントがカトリック住民を襲撃するという事件が起きていたとか何とかで……。
当時の北アイルランド事情は全然知らなかったし、特に事前の予習も無く観に行ったんだけど、予告編等で知ったあらすじからは想像できないくらいほのぼのした作品でした。正直言うと怖い話だと思っていたからさ。

いや確かに、かなり危なっかしい事態になったベルファストが舞台だし、一触即発な会話も出てくるんだけど、 全体的にのほほんとしている。9歳の主人公バディ(ジュード・ヒル)の視点から捉えたかのような低い位置からの画角が時折挟まれる本作故、大人たちのやっていることが理解できていない主人公バディの心情というか、激動のベルファストを少年の目を通して描いていたって感じがします。



 町からカトリックを追い出そうとするプロテスタントの武装集団は、同じプロテスタントである主人公家族の父親に対しても「プロテスタントなら俺たちの味方になれ。でなければお前らも痛い目に遭わせる」と脅しをかけてくるんです。

こうしてまた分断が生まれ、 エスカレートしていくのは、昨今の国際事情なんかと重ね合わせて考えてしまいます。本作は、物語の中枢にあるこのような分断、或いは隔たりといったものを、物語や登場人物の関係性、会話や映像といった様々な形で表現してみせ、且つその一つ一つが秀逸で面白い。


 ロンドンに働きに出ている父親とベルファストの家族という関係性や、好きな子と同じクラスなのに、なかなか隣同士の席順に座れないという淡い切なさも、言ってしまえばある種の分断

他にも、「移住したら言葉が通じないんじゃないか?」という不安を口にするバディに祖父が返した「おばあちゃんと50年以上暮らしているが、未だに何言ってるかわからない」という皮肉めいた冗談も、これまた隔たりの一種。こういったものがたくさんある。



 そして、それらを象徴するかのように、映像からも分断というテーマが窺い知れる。まぁどっちかというと分割って言った方がわかり易いかな?

家の中に居る家族と外出している父親を交互に映すといった、場所の違い等の物理的な隔たりだけではなく、同じ空間、或いは近い位置に居ながらも、柱や階段の手摺りといった障害物を配置すること で、視覚的に分割して見せたりもする。

他にも、同じ空間で特に障害物は無くとも、例えば子供は遊んでいる、テレビからはニュースが流れている、夫婦はお金の話をしている、といった具合に、別々の用事や出来事を同じ画角内に定点で映し出すだけで、それぞれが分けられているように見えてくるのも面白い。



 こんな感じで、分断やら分割というものの例を一つ一つ挙げていたら切りが無いんだけど、逆にそれらがあることによって、分断・分割されていない瞬間が際立つのも良い。

例えば、バディの母が近所の奥さんと話をしているシーン。会話する二人の前に“何かと何かを分け隔てる”という役割・性質を持ったフェンスが配置されていることによって、二人が同じ場所に居るということを印象付け、逆説的に「この二人は分断されていないんだ」と思えてくる。散々ぱら分断のメタファーが用いられていたからこその感想なんじゃないかな。



 別々に分ける、違うものである、という点で言えば、白黒とカラーの違いも気になるところ。予告編とかネット記事に載っていた場面写真なんかが全て白黒だったので、全編モノクロで統一されているかと思っていましたが、実際はド頭からカラーが用いられていた本作。

テレビから流れる映画や、家族で観に行った舞台だけがカラーになっていたので、一瞬「白黒の日常の中で色鮮やかなカラーに感じてしまうほど、バディにとっては印象強い体験だったのかな」と感じたのですが、冒頭とラストで現代のベルファストを映す際にもカラーになっていたことを考えると、白黒——1969年のベルファスト——とは別の異なる世界であることを描き分ける目的もあったんじゃないかとも思えてきます。



 他にもたくさん語りたくなるような魅力がいっぱい詰まった本作ですが、ラストのアレにはお手上げだ。個人的に大好きなシーン。もはや卑怯。

ここで言う〈卑怯〉とは、僕がたまに用いる屈指の褒め言葉の一つ。個人的には『戦場のメリークリスマス』にも同様の魅力があると思っているんだけど、最期の最後、たったの幾つかの言葉だけで、劇中の誰よりも、どんなシーンよりも、その場にいる観客の脳裏に刻まれ、映画の後味、そして印象をも掻っ攫っていく。最っ高の余韻。気持ち良いくらいに「全部持っていかれた!」というやつです。


#映画 #映画感想 #映画感想文 #映画レビュー #コンテンツ会議 #ベルファスト #ケネス・ブラナー


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?