記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『FALL フォール』感想

予告編
 ↓


損失


 二人の若い女性が地上600メートルの超高層鉄塔の頂上に取り残されるというサバイバルスリラー。高所恐怖症の方は閲覧注意の一本です。そんな作品の感想文で、いきなりラストシーンから語り出すのは如何なものかとは思いますが、このラストに流れるモノローグが、本作をより一層魅力的に仕上げてくれていた印象です。というわけで、ネタバレ注意です。悪しからず。



 ラストに語られていたのは、「人生の儚さ」について。「だからこそ、一瞬一瞬を大切に~」と言葉が続くのですが、人生というあまりにも短い時間の中の一瞬一瞬が大切にすべきものであるのなら、逆説的に、何か一つの損失だけで残りの人生全てを棄ててしまうのは間違っているとも言えるはず。主人公・ベッキー(グレイス・キャロライン・カリー)は、最愛の夫・ダン(メイソン・グッディング)の事故死をきっかけに塞ぎ込み、一年もの間、立ち直れずにいました。フィクション、或いは他人事だからといって、最愛の人の死を「一つの損失」と片付けてしまうのは少々薄情な気もしますが、それでもやはり、映画冒頭の彼女はまさに、一つの損失で全てを放棄しかけていたと言っても過言ではありませんでした。未来ある若者で、彼女を大切に想ってくれる家族も居るにも関わらず、現実から目を背け続けていた彼女。

 そんな彼女を励まそうと、親友のハンター(バージニア・ガードナー)が超高層のテレビ塔へのクライミングを提案したところから物語が動き出すのですが、実際に鉄塔を登ることを決意するまでの間に交わされた会話の中で、ダンが生前に口にしていた言葉が引き合いに出されます——「生きることを恐れるな」——。この言葉を思い出したことで、ようやく前向きになり始めたベッキーですが、よくよく考えてみると、「恐れるな」とは何のことかと思ってしまう……。

 もしかすると、人生とはある種、損失の連続とも言えてしまう。だからこそ「一瞬一瞬を大切に~」と言えるし、その損失があることで「儚さ」という言葉も際立ってくる気がします。人生の一瞬一瞬を大切にすること、人生を噛みしめて生きていくこと等々、そういった姿勢が人生の尊さを伝えることになる。これは、モノローグでも語られていたことでもあります。



 ……とまぁ、こんな風に、ラストのモノローグから膨らませたインスピレーションで言葉を紡いできましたが、本作の面白いところは、そんなメッセージ性を主人公自身が行動で体現してくれているというところだと思います。

 鉄塔の頂上に取り残された二人でしたが、降りるための梯子が無い、渇いた喉を潤すための飲み水が無い、助けを呼ぶための電波が無い、充電も無い、救助も無い……etc. 次から次へと様々な“損失”に襲われます。度々「もう無理」と、生きることを諦めかけてしまうようなこともありましたが、一つ一つの損失に挫けず、今あるものだけでどうにか生き抜いていこうと試行錯誤を重ねていく姿は、先述の人生の尊さを伝える姿勢と呼べるものだったと思います。

 また、「一瞬一瞬を大切に」という言葉を象徴するかのように、本作では、起きた出来事や事象の一つ一つが、彼女に対して何かしらの影響を及ぼしてくれます。それも、一辺倒ではなく様々な形や角度で。もちろん、「サバイバルスリラー」という触れ込みがあったため、端から描かれることの全てがヒントになり得るんじゃないかと探りながら鑑賞していましたから、驚きながら観るというよりは推測しながら観てしまいました。

 ……とはいえ、いやまさか、最愛の夫であるダンの滑落死を受け入れられずにいたという序盤の彼女の精神状態までもが伏線になってくるとは思わなんだ。種明かしをされてしまえば「確かにあのシーンでは……」などと、前出のシーンとの整合性がしっかりと取れてはいましたが、初見時は特に違和感もなくスルーすることが多かったので、作中でも特に驚かされたポイントでした。



 長々と能書きを垂れてしまいましたが、当然、シンプルにスリラーとして面白いのも魅力の一つ。映画『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(感想文リンク)でも同様のことを述べた覚えがありますが、「めちゃくちゃ高いところに居る」というシンプルな恐怖感が良い。不思議なもので、地上600メートルという環境(もちろんこれも十分に高いんですけど)の本作に比べ、気球で雲の上まで昇っていた『イントゥ・ザ・スカイ』の方が断然高所のはずなのですが、妙に本作の方がヒヤヒヤします。地上が見えることで、落下した先のことをより容易に想像できてしまうからかもしれません。本作でも重要な「適者生存」という言葉が用いられたハゲワシのシーンの存在も相俟って、痛みや血、死体を連想しやすくなっていた印象です。


 また、個人的にですが、頂上に居るシーンより、鉄塔を登っている最中の方が何故かヒヤヒヤする気がしました。老朽化をイメージさせるような、錆びた金属の軋む音、喋っていないときほど大きくなる風の音など、不安要素があちこちに散りばめられていたせいかもしれません。あるいは、映画館という、時間を確認できない環境での鑑賞によって、「いつまで続くかわからない」という心理も働いていたんじゃないかな? しかも本作、実際に鉄塔の上(とは言っても10メートルほど?)で、おまけにスタント無しで撮影していたんですって。そんな演者陣の迫真の演技もあり、より緊迫感があったのでしょう。

 本項の冒頭から「ネタバレ注意」と述べたものの、このスリルに関しては、実際に観てみないことにはわかりません。


#映画 #映画感想 #映画レビュー #映画感想文 #コンテンツ会議 #フォール #ネタバレ #FALL

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?