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映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』感想

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過去の感想文を投稿する記事【35】


 今月の18日(土)にWOWOWにて放送予定の本作の感想文を投稿しますー。
もしよければ本項も併せて読んでいただけたら幸いです。

事実は小説よりも奇なり


 半世紀以上も前にイギリスで実際に起こったゴヤの名画『ウェリントン公爵』の盗難事件を描いた本作。実話というだけで物語にパワーが宿るのは言うまでもないけれど、むしろ実話じゃなけりゃ「なんちゅう話だ」と思ってしまいかねない物語(笑)。でもこのおかしな話が実話だっていうんだから、それだけで面白い。非常に軽妙な風合いのコメディ映画です。



 冒頭、本編に入る前にほんの少しだけ法廷のシーンが描かれ、主人公ケンプトン(ジム・ブロードベント)が罪状認否で数回だけ無罪を主張した後、時間が遡り、そこに至るまでの物語がスタートする。ここからのシーンがとてもシャレていて、個人的にとても良いと思いました。

ケンプトンは長年の間、戯曲を執筆しているのですが、このシーンでタイプライターを打つ手元、原稿を便箋に詰める様子、「BBC」という宛名の文字など、コロコロと変化する分割された画面の中でそれぞれの所作が描かれ、合間にちょっとしたクレジットなんかも挟みつつ、それらを小気味いいジャズミュージックが彩る。他にもその後の場面転換のシーンなんかでも同様なのですが、これがまるでミュージックビデオを見ているような映像になっていてとてもオシャレ。最初のこの時点ではまだわからないのですが、ケンプトン自身の人間性ともマッチしているようにも思えます。

また、いきなり法廷シーンから始まった本作を重くさせないような効果もあったんじゃないかと。今思えばですけど、「Based on a true story (実話に基づく物語)」などの黒バックに表記されたテロップの文字が白色ではなく、山吹色の文字になっていたのも、本作全体の雰囲気を物語っていたのかもしれません。



 本作の主人公ケンプトンは、少々(?)偏屈なおじいちゃん。時代もあったのかもしれませんが、クセ強めのその感覚で政治活動もしていた。口答えというか何というか、何に関しても一丁噛み、そのくせにああ言えばこう言う。そんな面倒臭さがある。なのに、どこか憎めない愛嬌がある。これは主演のジム・ブロードベントの演技力によるところも大きいのでしょうが、この人柄が本作の全てと述べても過言ではないかもしれません。本項の冒頭に述べた、作品全体に漂う軽妙な風合いは、まさにこのケンプトンあってこそ。後半で描かれる法廷シーンでも、被告人という立場とは思えないくらい陽気で、余計なお喋りが止まらない。そんな夫の相手を普段からしていた妻ドロシー(ヘレン・ミレン)のエッジの利いた返しが光る夫婦の日常会話も面白い。



 ここからネタバレになる……のかな? そうとも言い切れないのですが、一応ご注意ください。実のところ、私利私欲ではなく市井の人々のために行動を起こしていた彼は、なぜ、そしていつから他人を気遣うようになったのか……。自身の弁護人から投げ掛けられたその質問に応える彼を映すシーンで、画面に陽の光が差し込む。そこで彼の口から語られるエピソードの中から見えてくる彼の想いが、まさに陽の光のごとく素敵なものなのだと教えてくれているようです。作品に込められたメッセージと捉えても良いかもしれないけれど、個人的には、半世紀以上も前に己の正義感や道徳心だけで行動を起こしていた男が居たんだ、と思えるだけで、とても気持ちが良くなってくる。現代の感覚からすれば至極当前の考えに過ぎないが、それでも、今の世の中では少しだけ失われつつあるかもしれない大切なことを、それこそ本作の風合いによって、説教臭さなど無しに味わうことができた印象です。



 さりとて、はっきり言ってケンプトンは褒められた男じゃない笑。本作を観た方ならわかると思うが、己の倫理観とはいえ身勝手なこともしてしまうし、おかしい部分もある。でもどこか愛おしい。あるいはこういうタイプに苦手意識がある人もいるかもしれないけど、実は彼は劇中で一度ドロシーにがっつり正論でキレられており、そのシーンのおかげで、何でもかんでも愛嬌だけで許されるものではないこと、そして本作が一方的に彼の肩を持っているわけではないことがなんとなく見えてくる。そんな描写も効果的だったのかもしれません。あくまでも額縁の件に関しては有罪だったしね。



 本作のラスト、最期の最後に映し出されるテロップもまた良かった。ドタバタとかとは異なる、なんか笑えてくる本作のオチにぴったり。そりゃあもちろん、彼が劇作家としても大成していれば尚良かったかもしれないけど、この実話の大オチを飾る新たな事実に、誰もが思うはず。これぞまさに “事実は小説よりも奇なり” と。


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