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映画『パリの調香師 しあわせの香りを探して』感想

予告編
 ↓


 本日10月1日は「香水の日」という記念日なんだそうです。

 そんな本日は、香りに関する映画の感想文を投稿しようかと。

 よければどうぞー。


相互補完


 その呼び名からなんとなくの仕事内容は想像できるものの、実際のところ、その職業の実情については微塵も知らなかった “調香師”。その職業や仕事内容そのものに対する驚きや発見もあるんでしょうけど、そもそも視覚や聴覚では認識できない “香り” を映画に用いているというのが面白い気がします。4DX上映やMX4D上映であれば別の話ですけど。

もっと言うと、会話の中で「香りが……」「匂いが……」だなんて話が出てくる度に、それがある種、言葉の綾というか「気がする」「気配がする」みたいな意味にも拡大解釈できてくるのもまた面白くて不思議。これってフランス語でも似たような使われ方されてんのかな? もしされていれば面白い発見だし、仮にされていなくても、それはそれで日本人だけの楽しみ方の特権ってことで面白く感じてしまいます笑。



 本作は、人生崖っぷちのハイヤー運転手と、再起を図る調香師が織り成す物語。大仰な演出というかデフォルメされた感じが無い、とても自然な凸凹感が魅力のバディ系ムービーだと思います。所々にクスッと笑えるようなユーモアも多く、とても観易い映画という印象です。

個人的には、適当に話を流そうとして「あそこの店で酒でも……」みたいなことを口にしたギヨーム(グレゴリー・モンテル)が店舗の方に目線を向けた直後に、店の灯りが消えて「ああ……えっと……」みたいな空気になるところとかは笑ってしまいました。行き過ぎていない感じが、本作の落ち着いた雰囲気と合っています。そんなユーモアです。




 主人公で調香師のアンヌ(エマニュエル・ドゥボス)とハイヤー運転手のギヨームは、二人とも仕事に囚われ雁字搦めになっています。それも、互いに異なる形で。何かと不器用な女と何かと不格好な男であるこんな二人を見ていると、「大人にとって “仕事” って何なんだろう?」だなんて考えに頭の中を支配されてしまう。

 愛娘との幸せな生活を手に入れるために、安定した職に就きたいギヨーム。一方のアンヌは、その並外れた嗅覚から天才調香師として活躍していたものの、仕事へのプレッシャーから嗅覚障害に陥り、その地位を失ってしまう。嗅覚は戻ったものの、今は地味な仕事をしながら静かに生活していた……。


 先述の「仕事とは」という話に戻りますが、それはこの二人を見ていればわかる通り、自身にとっての誇りだったり、心の支えだったり、或いはやり甲斐や楽しみだったり、もしくは生活のために必要な我慢だったり……。それは正に十人十色、千差万別。働くことに囚われることもあれば、しがみ付くこともある。

 本作には、この二人の物語を通して見ることで、自分自身にとっての仕事というものを見つめ直すきっかけを生み出してくれるような価値もあるのかもしれません。そして、互いに四苦八苦しながら仕事に関わっていく中で、お互いに無い部分同士を補い合う姿がとても魅力的。その補い合い方も、能力とか技能だけではなく、精神面での支え合いになっている部分が多分にあるからこそ、より素敵に見えてくるんじゃないかな。


 僕は時折、映画の登場人物に対して「この人には幸せになってもらいたい」という形容を用いることがあるんです(決して「オレって優しい人だよね」アピールとかではないんです……)けど、観客に対してこう思わせるのも映画の魅力だと思っています。事態が好転すれば観客の心には温かい感情が生まれ、逆に悪化すれば切ない・悲しいといった刺激に転じるから、これはもはや作り手側の勝利と呼ぶべきもの。そして例に漏れず本作も同様。アンヌもギヨームも、二人ともそれぞれに悩みを抱えているはずなのに、相手の事を心配しちゃうお人好しな感じにグッときます。だからこそ、この二人には「幸せになってもらいたい」と思ってしまう。



 互いに支え合う中で、それぞれの心に変化が生まれていくのもバディ系の大きな魅力の一つ。彼女のために良い仕事を探す努力をしてくれたマネージャーに対し文句を言ってしまったり、彼女を心配してわざわざ足を運んくれた医師の言葉も素直に受け取れないアン ヌ。一方のギヨームも、娘との生活のために頑張っている自分を卑下しているというか、自信を持てないでいる。

他人を信じられないアンヌと、自分を信じられないギヨームが、次第に変わっていき、そして迎えるラストは、決して派手ではないかもしれないけれど素敵な締め括りだったと思います。


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