映画『カセットテープ・ダイアリーズ』感想
予告編
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本日9月23日は、アメリカの歌手ブルース・スプリングスティーンの誕生日。
ということで本日投稿するのは、パキスタン移民の少年がブルース・スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら成長していく姿を描いた青春音楽映画『カセットテープ・ダイアリーズ』の感想文です。
よければどうぞー。
青春×ブルース・スプリングスティーン
舞台はイギリス。主人公・ジャベド(ビベイク・カルラ)は移民の少年。決していじめられているわけではないものの、何となく漂うスクールカーストのような区分けに収められ、家の中でも基本的には父親マリク(クルビンダー・ギール)の言いなりになる毎日。
彼らが暮らすのは “底辺の街”。時代は人種差別がまだ色濃く残る1980年代後半。そんな彼の人生が一気に変わり出すのは、“ボス” ——ブルース・スプリングスティーン――の音楽と出逢った瞬間から。その描き方がなんとも素敵で堪りません。
ジャベドがショックを受けたように自分の部屋に戻る……。窓の外から見える天気は、まるで彼の心を表しているかのような荒れ模様で今にも雷が鳴りそう。そんな時ふとポケットから転がり落ちた、同級生のループス(アーロン・ファグラ)に借りた一本のカセットテープ。導かれるようにウォークマンにセットし、再生ボタンを押した瞬間、鳴り響く雷鳴!
おう、おう、なんてベタな展開だよ笑。最高です。そのまま外に飛び出した彼は吹き荒れる暴風なぞ気に留めず、メロディに陶酔し歌詞を噛み締める。逆巻くような強風は自身を押し込める様々な逆風のメタファーの役割を為し、プロジェクションマッピングによって壁に映し出される歌詞の数々は、耳を通して入ってきた言葉が彼の心に大きくこだまし強く響いていることを教えてくれるよう。MVのようでありながらも主人公の心の在り様を如実に、且つエンタメ的に魅せてくれています。
でもわかるよ! それぐらいの衝撃だったんだよね? ボスの音楽に限らず、思春期の少年少女の心に革命を起こしてくれる音楽との出会いってのは、まさにこれ程の衝撃だったんだと思い起こさせてくれるシーン。いやぁ、青春時代っていうのは何故こうも音楽の影響を色濃く受けてしまうのだろうか。
「不良が聴くもの」だなんて言われていた時代があったなんて信じられないし、何よりそんなことを言われていた人達が可哀想で仕方がない。そんな時期にハマった音楽ってのは、聴くだけで世界の景色が変わって見えるし、まるで無敵になったかのような錯覚さえ引き起こす。ボスを教えてくれた親友ループスと、憎からず想っている女子イライザ(ネル・ウィリアムズ)との3人で街中をあちこち駆け回るシーンは凄く印象的。ミュージカルかと勘違いしてしまうほどにはしゃぎたくなる気持ちはとてもよくわかる。
ここで個人的にオススメしたいポイントが、そうやって幾度も小躍りする中で一度だけ、3人縦並びで大きく足踏みをしながら前後するダンスが……って、文字だけじゃよくわかんないですよね笑? 何が言いたいかというと映画『ブレックファスト・クラブ』 を彷彿とさせるダンスシーンがあったってこと。まさかと思い調べてみたら、公開されたのが1985年。この物語の時代設定から言えば、ジャベドたちが『ブレックファスト・クラブ』の影響を受けていた可能性は大いにある。スクールカースト、青春、押し込められたものからの解放……etc.
狙いなのか偶然なのかは判らないけど、本作から読み取れるテーマとリンクする要素がいっぱいある『ブレックファスト・クラブ』を想起させることで、ジャベドたちの中にもそういった鬱屈した想いがあることを暗に示している、とても優れたオマージュシーンだと思います。ダンスしたり走り回ったりと、楽しそうにはしゃぐシーンの直後にシリアスなカットに移るギャップのあるシークエンスの一部だからこそ、より有効に活きているんじゃないかな?
(ちょっと脱線しますけど、時代設定という点で言えば、“キザな言い回し” というか、ある意味ちょい古なセリフとの相性が好いのも面白いところ。例えば、ボスの故郷に向かったジャベドに税関職員が言った「ボスの聖地巡礼以上の理由はないな」とかは個人的に超好き。)
本作は細かなところでの演出がとても良い、というか僕の好みに合う気がします。“登場人物が音楽を聴く” という流れから曲を流すことで自然とブルースの楽曲を流し、それをそのままBGMに流用する。或いは歌詞の内容と場面とをリンクさせていたり、ドッドッという低音のビートで心臓のドキドキを表現している。
その他、車を発進させるため父親が運転席に乗り、その車を家族全員が押すことで発進させたり、家出しようとするジャベドが車に乗り込むとエンジンが掛からなかったり、結婚式に向かうと見知らぬ人達に阻まれたり……。これらはそれぞれジャベドの家族内の状況や関係性、彼の置かれている状況、移民の彼らを俯瞰したような表現とも取れるシーン。家の車がシーンによって異なる意味を孕んだメタファーとして活きている素晴らしい演出。
何より良いのは、最期の最後のシーンではジャベドの運転で、彼と父の二人で家を出発するという、凄く前向きな使われ方で締め括られていること。挙げたら切りが無いけど、王道の青春ドラマの中に観客を飽きさせない工夫が至る所に散りばめられた良作です。
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