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映画『けったいな町医者』感想

予告編
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 公開当時(2年ほど前)の感想文なので、今の時勢・時節とはズレた内容(コロナがどうとか)も含まれているかもしれませんが、どうぞご容赦ください。



医療とは


 本作は、映画『痛くない死に方』(感想文リンク)(以下:「映画版」と表記)の原案書籍の著者であり、そのモデルとなった実在の在宅医・長尾和宏氏に密着したドキュメンタリー映画。ドキュメンタリーっていうよりは “実録” って言った方がしっくりくるかも……。

公開日順でいうと映画版より本作の方が先だったのですが、実を言うと先に観たのは映画版から。予定が合わなかったものでして。 そして今更ながら、本作を先に観ておけば良かった笑。その方が映画版をより味わえた気がします。

まぁ、逆の順序で観たからこその味わいもあるから良いも悪いも “どっこいどっこい” って感じかな笑。映画版を観て心に残っている言葉を見つける度に映画版の完成度を改めて理解できたり、「ああ……、河田(柄本佑)が白衣からラフな服装に変わったのにはこういう意味があったのかな?」とか、映画版で感じたことの答え合わせみたいな意味合いがあったりなどなど。


 あとは、映画版では気付けなかったことに気付くこともできました。例えばスマホの着信音から始まる冒頭のシーン。運転中ですら即座に電話の呼び出しに応える長尾氏(無論、運転中なのでハンズフリーでの通話)の姿は、移動の最中ですら常に連絡を取れる体制を確保しておかなければならない在宅医の実情を映し出しているのと同時に、映画版の前半で描かれていたような、河田の在宅医としての至らなさとの対比になっています。実は映画版もスマホの着信音から物語が始まっていて、そこでの河田の対応と、本作での長尾氏の対応が明らかに違うんです。


 中でも、長尾氏が在宅医療に転身するきっかけとなった患者さんとのエピソードには驚かされました。

※ここからは映画版に関してのネタバレ注意です。

まさか映画版で描かれていた本多(宇崎竜童)さんの最期に、長尾氏の想いが詰まっていたとは露ぞ知らなんだ。これを知った上で映画版を観ていたならば、僕はおそらく涙していたことでしょう。救えなかった後悔、或いは、「こうあって欲しかった」という長尾氏の願いだったのかもしれません。



 “終末期医療ドキュメント” なんて形容をしてしまうと、随分と重苦しいイメージがある(少なくとも僕個人的には)けど、本作からはそういったものは感じられませんでした。決して軽いわけじゃないのですが、なんていうか明るいんです。『痛くない死に方』同様に長回しで映される長尾氏の診療の様子からは、患者さんたちとの距離感の近さが窺い知れる。それがまぁ近いのなんの笑。一人一人、それも付き添いの方々との対話まで何一つ手を抜かない。一見すると関係無さそうな世間話にまで花が咲く。こんなことをしていたら病院の待合室は混雑するんでしょうけど、きっと多分、大病院等での診察とは違って、みんな長尾氏に会いに来ているようなものだから、待っている時間もそんなに苦にならないんじゃないかな、とすら思ってしまう。

そして何より本作を観れば、この世間話すらも治療の一環なんだということがわかってくる。映画版でも長回しが幾度も用いられていた印象がありましたけど、本作の診療シーンも長回し。どこか一部分だけを切り取ったりせずに映し出すおかげで、長尾氏の診療が非常に丁寧なものであることが理解できる。しっかりと触診をして確かめる、投薬治療ばかりに頼らず患者自身にも改善できる事を提案・指導する。それこそ映画版の前半での河田のように、「こんなものだろう」という経験則だけに頼った事務的な診療もどきとはまるで違う。

この診療シーンは、診察室の斜め上に取り付けた固定カメラで撮っただけの映像。ノイズも入っているしBGMも無い。「防犯カメラの映像でも眺めてんのか」ってくらいのリアル。だからこそ観客は自身の経験と比較してしまうでしょうし、詰まる所それは、現代医療の在り方において疑問を呈してきた長尾氏の想いを視覚的に理解させることにも繋がっているんじゃないかな。


 順番こそ逆になってしまいましたけど、原作本を読めたような感覚……いや実際にはそれ以上の濃度があったかもしれない。〈すごい〉や〈とんでもない〉といった言葉だけでは上手く形容できない、“けったい” というワードチョイスも素晴らしい笑。

そして素敵なラスト……かと思いきや、結局最初から最期の最後まで戦い続けていた長尾氏。本作のラストシーンは図らずも、きっとコロナ禍の今も、日本のどこかで長尾氏が戦い続けていることを示してくれていたように思えます。


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