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映画『ブラックボックス:音声分析捜査』感想

予告編
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音も映像も秀逸


 副題にもある通り、音声分析捜査を取り扱う本作は、音の使い方も見どころの一つ。故に劇場の音響、少なくとも自宅で観るならヘッドホンで鑑賞するのがお勧めです。完全な無音ではなく、若干ノイズが残るような音のフェードアウトがあり、そのノイズの感じ……上手く言えないんだけど、籠ったような、詰まったようなそれらの音が、登場人物が耳にしている音としてだけではなく、その人の心情をも表していたようにも聞こえてくる。スリラーとしてもなかなか見応えのあるサスペンス・ミステリーです。……多分ネタバレはしないけど、匂わすようなことは書いちゃってるかもなので、未見の方はご注意を。


 航空機のブラックボックスに残っていた音声データから事故原因を調べる音声分析官が主人公の物語。タイトルにも用いられているこのブラックボックスが物語を、そして登場人物たちを、延いては観客までをも振り回してくれる。そんな重要な存在なのですが、そのブラックボックスが画面に映し出されるまでの冒頭シーンが見事なんです。

ここで描かれているのは、事故直前の機内の様子。コックピットから見える空の景色から始まり、操縦する機長と副操縦士の背中、乗客が居るシート……といった具合に、飛行機の先頭から尾翼の方向へ、前を向いたまま少しずつズームアウト(正確にはドリーアウトって呼ぶのかな?あんま詳しくないからわからない…💦)するような感じでカメラが下がっていき、最終的に機内裏側にあるブラックボックスが映し出される。そして、事故が起きる……。

事故の原因は?機内で何が起きていた?……様々な謎を残しただけのこの時点では気付く由も無いのだが、後々、ブラックボックスの音声を分析するシーン等でゆっくりとズームインするような描写が用いられることにより、ズームアウトが謎を生むこと、或いは謎が深まることを匂わせ、反対にズームインが真実に迫っていくシーンを彩ってくれているように感じさせてくれる。

ここで冒頭のズームアウトの話に戻るのですが、ノーカットで機内の様子をで映していき、最期の最後だけがズームアウトではなく、カメラを横にパンさせ、そしてブラックボックスをド真ん中に映し出す。まるで、この航空機事故の謎(≒ズームアウト)、その真実を知っているのはこのブラックボックスだけなのだと言わんばかりの見せ方。ド頭の煽りとして抜群に面白いし、作品を象徴するような瞬間にもなっていたんじゃないかな?



 序盤に撒いた種がちゃんと活きているという点で言えば、個人的に主人公マチュー(ピエール・ニネ)とその上司ポロックの会話が印象的。先述の事故とは別の事故の音声分析をしているマチューが、事故映像の音声から事故原因に繋がる音を聴き取った際にポロックが口にした「50ヘルツの違いがわかるのか?」という台詞。まずこれだけで、マチューが優秀な音声分析官であることがよくわかるし、ここでマチューの力量にポロックが気付かされたことをさり気なく提示している。何より、この ”マチューにしかわからない=マチュー以外には理解されない” という事実が、本作で彼がぶつかる孤独な戦いを暗示しているようでもあり、それもまた素晴らしい。

その他にも、初見の時点では特に重きを置いていなかった要素が後々になってから表情を変えて描かれるようなシーンがあるのも面白い。



 あそこのシーンのアレは何て言うのかなぁ……。墜落機の破片を保管している倉庫みたいなのがあって、乗客の座席番号とか機内の図面みたいなのが実寸で床に書かれていて、事故が起きた機体の中を、墜落現場から回収した破片を置くことで再現したみたいな空間(説明下手でごめんなさい💦)。

シートも所々しか置かれておらず、スカスカのその空間は、それだけで事故の凄まじさを物語る。彼はそのシートの一つに座り、ブラックボックスの音声を聴きながら目を瞑り、事故当時の機内の様子を想像する。視覚に頼らないからこそ、そのビジョンを音で補完し真実に迫ろうとするわけだけど、その行為を妄想だと虚仮にされることもあった。しかしその想像力があるからこそ、事故の犠牲者たちのことを想える。だからこそマチューだけが唯一、事故の謎を解き明かすことに執着していたのだと気付かされるシーン。もっと言うとこの描写のおかげで、マチューという善良な主人公に肩入れでき、 延いては作品をより楽しめる。



 主人公マチューは、会話する際にあまり相手の顔を見ない(ように見えた)。他人の顔を見ているのは、多少離れた場所から眺めているような時だけ。また本作は、全体的に暗い空間が多かったり、屋外でも曇っていたり、若干どんよりしたような調光のシーンがほとんどだった印象。視覚に頼らない、そして観察や分析をするという彼の在り様が作品全体の雰囲気や世界観としても描かれていたように感じます。

そしてクライマックス、最期に訪れた結果が、逆説的に、彼が最期の最後まで音声分析官だったのだと言わしめるシーンになっていたのにも痺れました。音声分析捜査の実状はわからないけれど、とんでもないほどのリアルさを感じてしまった一本です。



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