見出し画像

映画『キングスマン:ファースト・エージェント』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


ただのファン


 キングスマンシリーズの一作目の話を少しばかり……。互いに素性を隠したガラハド(コリン・ファース)とリッチモンド(サミュエル・L・ジャクソン)が、マクドナルドのハンバーガーを楽しみながら牽制の意味も含めたスパイ映画談義をしていた。近年に多くありがちなシリアスでダークでリアルなスパイ映画よりも、ぶっ飛んだタイプのスパイ映画の方が好みだという会話。実は監督と原作者のリアルな会話が基になっているらしく、ある意味メタ的に『キングスマン』のことを語っていた、作品内でも趣深い印象的なシーン。

 続いて、シリーズ二作目の話を少々……。二作目の『キングスマン:ゴールデン・サークル』(感想文リンク)では、敵の親玉のポピー(ジュリアン・ムーア)が人肉ハンバーガーを食べるという悪趣味なシーンがありました。ジャンクフードという共通項と不謹慎大歓迎みたいな過激な演出によって、一作目で語られた『キングスマン』のスパイ映画としての精神性を承継していることが示されていました。

 そして、待望の最新作にしてキングスマンの原点が描かれる本作。そこにジャンクフードの姿はありませんでした……。これは、映画を観ながらなんとなく感じていた「あれもこれも、待ちに待っていた『キングスマン』だ!しかし、それだけじゃない!」という観客の気持ちを証明し得るものと言っても過言ではないかもしれません。本作には過去二作には無い新たな魅力が詰まっています。部屋の仕掛けや、円卓の騎士たちの名前が口にされる瞬間など、「待ってました!」と言いたくなるような、過去作を知っているからこその面白ポイントもあるし、これまで通りの過激なアクションもあるんだけど、何よりも “なぜキングスマンが生まれたのか” という語り口こそが最大の見所。過激さに目を奪われがちだけど、本作は間違いなく反戦映画でした。



 戦争で妻を失った英国貴族オーランド・オックスフォード公(レイフ・ファインズ)が主人公の本作。平和主義の彼を主軸にして、どのようにしてキングスマンが生まれたのかが描かれていきます。理由は当然ながら、戦争という悲劇をこれ以上生まないためで、だからこそキングスマンはどこの国にも属さない

 そういった反戦思想という点で言えば、クライマックスの決闘シーンは凄く面白かったです。敵アジト内のスクリーンに映し出された戦争の映像は、その敵組織が己の利益のために戦争を利用していること、要するにオーランドたちの信念とは明確に相反する存在であることを示しているわけなんですけど、その映像を背景にして、戦う二人のシルエットの影が重なることで、まるで思想の異なる者同士の代理戦争であるかのように見えてくる瞬間があります。

 しかし、過激さを増すその戦い最中、その映像が映し出されていた壁ごと吹っ飛ばされて穴が開く。まるで “戦争そのものを否定” せんばかり――「戦争なんかブッ壊してやる!」と言わんばかり――の強いな意思が反映されているかのようです。平和主義とは似つかわしくない姿勢ながらも、『キングスマン』という作品の過激な性質がそこを成立させてくれているんじゃないかな。加えて、最早個人的な理由のみでの戦いへとコンバートしたかのようにも見えてくるから尚のこと面白い。壁が壊れたことでプロジェクターで映す映像のど真ん中に穴が開いているというビジュアルが、「はい、もう代理戦争だとか組織の理屈だとかはもう終わり!」と言ってくれているような気がします笑。

 そこからの展開も最高なんです。まさかのどんでん返しが、驚きと興奮と若干のユーモアをもたらしてくれているし、その “まさかの一撃” が、弱者の存在や他者の命を軽んじている敵への天罰に見えているのも素敵。時代を問わず、自身の利益しか興味が無い権力者たちへ向けた「あんまナメてっと痛い目見っぞ?」というメッセージみたいに思えました

 そして迎える決着の時。オーランドが下したその選択はある意味、平和主義の男の行為だったからこそ、業を背負うかのような覚悟が窺い知れます。様々な困難や犠牲を乗り越えてでも世界を変えていくという覚悟が。そうまで思えてしまうのは過去二作、つまりはこの物語の未来となる物語を知っているからこそなのかもしれません。


 まぁ色々能書きを垂れましたけど、僕は単純に映画『キングスマン』がとても好きなんです。ただのファン。しかもある意味歴史劇である本作で、これまた個人的に大好きな「実は裏であの歴史に関わっていた」みたいな設定が入ってくる。チャイコフスキーが流れるラスプーチン(リス・エバンス)とのバトルシーンなど、形は違えど相変わらずの華麗なアクション×音楽の組み合わせも観ていて最高に楽しい。他にも、ステイツマンを匂わせるような何気ない言葉や、靴のつま先からナイフを出すといった、過去二作に繋がるかのような小ネタもあるし、わかっちゃいたけど隠し扉の奥でポリー(ジェマ・アータートン)とショーラ(ジャイモン・フンスー)が待っているという王道の展開も、何もかもが堪らない。また、鏡の前でスーツを仕立てられるコンラッド(ハリス・ディキンソン)と、それを少し後ろで見ているオーランドの姿という、まるで一作目のエグジー(タロン・エジャトン)とガラハドを想起させるシーンのような、興奮とは反対にエモーショナルな瞬間があるのもまた憎い。

 ……まぁ前作とは異なりIMAX上映じゃなかったのは残念でしたけど、別に迫力が無かったわけじゃない。相変わらず超楽しかったし、これまでのものに、また新たな魅力が合わさった一本でした。


#映画 #映画感想 #映画レビュー #映画感想文 #コンテンツ会議 #キングスマン

この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,708件

#映画感想文

66,330件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?