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映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』感想 

予告編
 ↓ 


プリズム


 名前は聞いた事があるような無いような……。でもその絵は目にしたことがある。間違いなく。僕に限らず、多くの人がそうかもしれません。

そんな男の半生を描いた伝記映画なんだけども、たしかに素敵な映画だと思うし、感想も色々ある。

だがしかし!!  とにかく一番の驚きはさ、たかだか100年ほど前のことでしょ? まさか猫がこんな扱いだったなんて!!

いやマジでマジで。ネズミを獲る汚らわしい動物、っておいおい。別に他の動物がどーのこーのまでは言わんけども、猫に限っては、そんな扱いは俄かには信じがたいというか何というか……。現代に生きているからなんでしょうか? それとも猫好きの勝手な思い込み? ネットミームにもよく挙がる存在だというのに……。

いや、逆に考えよう。そんな猫の魅力を世に広めてくれてどうもありがとう!笑


 とはいえ、そんな猫以上に、主人公ルイス・ウェイン(ベネディクト・カンバーバッチ)と、彼が愛した妻エミリー(クレア・フォイ)との物語がとても素敵な映画でした。




 序盤、帰宅したルイスが家の階段を上っている時に、家族から声を掛けられる。話の内容は、”家庭教師(エミリー)を雇う” というもの。

その一連のシーンの中で、(あくまで字幕上でのことなので、原音がどうかはわかりませんが)”家庭教師” というワードが出てきた時の画角が斜めになっていて、どこか前後のシーンとの違和感を覚える絵面(えづら)になっている。

それともう一つ。キャロラインがエミリーの部屋の前でヒソヒソ話をしているのが、ルイスに聞こえてしまっている(敢えて聞こえるように話していた?)シーンでも画角が斜めになっていた。

別部屋とはいえ、男性(ルイス)と同フロアになっていることへの心配を投げ掛けたキャロラインに対して、エミリーは「だから何でしょうか?」とでも言わんばかりに平然と返す。


前者のシーンは、「学識のある自分がいるのに家庭教師だなんて」というルイスの驚きの心情を。

そして後者のシーンは、女性経験の少ない純粋なルイスにとって、「こんな反応をする女性がいるのか」みたいな驚きの気持ちを表現するために、前後のシーンとのギャップを作り出す斜めの画角が用いられたのかな?

……とも思いましたが、作品全体を通して考えると、彼の半生を描く伝記映画の中で、ピンポイントで存在する異質な画角は、まるでこれからの彼の人生においてエミリーが如何に大きな存在であったか、彼に如何に多大な影響を与え得るほどの存在だったのかを予感させる瞬間だったとも見て取れる。

特に前半、それこそ猫のように滑稽でユーモラスな彼の日常の中に、突如として現れたエミリーという女性に対するルイスの驚き、或いは動揺という、“その瞬間だけの心理描写” ではなく、彼の人生全体におけるインパクトをも窺わせてくれる表現だったと思います。



 まぁ斜めの画角が云々という部分も良かったなぁと思いますが、何よりも作中で出てきた絵画のようなシーンがとにかく綺麗。調光というか効果というか、言葉だけで説明するのが難しいんだけど、スクリーンの横の長さが若干短くなっているスクリプト比も相俟って、本当にまんま絵画のようになっているカット。

もしかすると、これには深い意味など持ち込まずに、「とにかく綺麗で美しい瞬間であることをシンプルに描いたのだ」と思って観るのが一番良いのかもしれません。この夫婦の人生の中の素敵な一瞬の光景を切り取っただけなのだと。


 でもやっぱり考えちゃうよね笑。例えばルイスがメアリーにだけ共有した「見る事」という絵を描く時のコツに準えてみれば、その光景だけが絵画のようになっているのは、彼らがその瞬間・光景を “よく見ていた” とも思える。

延いてはそれは、物語の中で彼女が説いていたとおり、世界は美しさで満ちていて、それを捉えること、見つめて他者と分かち合う事の価値をより強く印象付ける事にもなる。



 また、そういった「見る」「見つめる」という視点は、あの光り輝くシーンの見え方さえも、より美しく昇華してくれる気さえします。

実際に輝いていたかではなく、ルイスにはそう見えていたということ。それは彼女の言う通り、元から美しい世界の美しさを、ルイスがちゃんと “見つめている” 証拠。と同時に、 エミリーの「あなたはプリズム」という台詞が呼応する瞬間でもある。非常に素晴らしいラストシーン。



 髭の有無や電気についての話、口唇裂、身分の違いなどなど。色んな要素があるように見え、ある種のコンプレックスだとか、他者との差異だとか、愛や人生についてだとか、 実はそれぞれが様々なものと呼応するメタファーのようにも描かれています。

また、相も変わらず相貌の変化が激しいカンバーバッチの演技も然ることながら、猫の愛くるしさも堪りません。終始飽きることなく味わうことができる、とても素敵な作品でした。


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