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映画『竜とそばかすの姫』感想

予告編
 

 IMAXが何だとか述べちゃっていますが、相変わらず公開当時の話なのでご容赦くださいー。


修羅の道とは


 『サマーウォーズ』以降の細田作品は、過去に監督御自身が明言していた通りの仕上がりになっており、それ故に好き嫌いが別れてしまうようになってしまった印象。ちょっと無理やりな言い方をすると、実のところ「好き」と言っている人も「嫌い」と言っている人も、ほぼ同じ理由で好きだの嫌いだの言っている笑。そういう点で言うと、本作は、良くも悪くも細田守監督らしさがいっぱい詰まった映画。僕個人としてはどちらの意見も充分わかるし納得できるなぁ、なんて思います。「楽しもう!」と思えば本作は面白いし、本作に限らずですが「どんなもんか見せてもらおうか?」という斜に構えたような姿勢で観てしまったら、楽しみづらくなって仕方ないだけだと思気がします。そういう映画ですし。まぁ話題作故に賛否両論激しいと思うけれど、アンチの声に怯えて「好き」「面白い」の気持ちに嘘をつくのだけはやめたい。本作を最期まで観た方なら、その理由がきっとわかるはず。



 まぁ色々ありますけど、一番は楽曲よね。ミレニアム・パレードが本作のために新曲を書き下ろしたって聞いていたので、初めから音楽を楽しむ気満々でIMAXで観に行ったんですけども、いやはや、主演の中村佳穂さんの歌声の素晴らしさよ。僕は音楽の趣味が偏っていて、流行りの知識には非常に疎いもんで……汗。中村さんの歌声は本作で初めて拝聴いたしましたが、んまぁーーーっ、美しいのなんの! 冒頭、作品の舞台の一つである仮想世界をAIが案内してくれるシーン。物語のド頭から流れる音楽(多分『U』かな? 曲名間違っていたらごめんなさい)で心を鷲掴みにされます。

 冒頭に仮想世界のアナウンスが流れるのは『サマーウォーズ』と一緒の展開だけど、およそ10年前とは違い、SNSが普及してVR(仮想現実)も当たり前となった現代だからなのか、『サマーウォーズ』のそれとは比べて説明がコンパクトになっていた印象です。何より、地上波放送で初めて『サマーウォーズ』を観た時、そして本作を鑑賞するにあたってもう一度観直した時とは異なり、IMAXというバカでかいスクリーンで観たことによる効果が非常に大きい。仮想空間を体験するのに、視界いっぱいに(座席によっては視界に収まらないほどに)広がる映像が、作品への没入感を一気に高めてくれる。そして、あの音響。勿論、迫力という点でもIMAX、ないしは劇場の音響は最高なんだけども、ここでの音響の本当の醍醐味は、無音や小さい音。爆音や轟音との振り幅が大きければ大きい程に活きてくる。つまり僕が言いたいのは、本作で一番好きな曲は『歌よ』だということ笑。歌い出しの「こんな小さなメロディーが」の部分。小さな波一つ立っていない静かな水面にピチョンと水滴が落ちたような、透き通った音の連なり……ああ! 上手く言えない! 歌の素晴らしさが際立つ本作は、歌声からキャラクターの感情が窺い知れるものの、ミュージカルとはまた違った魅力があるように感じられました。



 人口の少ない田舎、欠けた湯呑み、前足を怪我した犬、学園の人気者や美女、イケメン、夢に向かって頑張る者、月と太陽……。どう転んでも自身のコンプレックスが気になってしまうようなものばかりが、まるで匂わせるように目に入ってくる。本当の自分——オリジン――を隠す仮想世界は、現実のネット社会同様、おびただしい数のルサンチマンが蔓延っているように思えます。(……「ルサンチマン」の使い方合ってるかな?笑)

ルサンチマン(仏:ressentiment)は、弱者が敵わない強者に対して内面に抱く、「憤り・怨恨・憎悪・非難・嫉妬」といった感情。そこから、弱い自分は「善」であり、強者は「悪」だという「価値の転倒」のこと。

出典:ルサンチマン - Wikipedia

 こういった目に見えたメタファーやメッセージみたいなものが苦手な方も居るかもしれないけど、マイナスの要素ばかりを描いているように見えて、実は本作ではネットのプラスの可能性を描いている節もあるかもしれません。もっと言うと『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』『サマーウォーズ』を含めた三部作かのように、時代の変化と共に、ネット社会についての監督の想いが綴られているのかも。希望に溢れ、様々な可能性があったネット社会。いつしか現代人にとっては当たり前のツールとなり、そのうち切り離せなくなり、今となっては人間の負の部分、特にルサンチマンにも似た感情が浮き彫りになってしまった印象。それでもなお、ネット世界をディストピアとしては描かず、(これどっかの記事に書いてあった言葉かも……。多分誰かしらの受け売りです。すみません。→)常に明るいもの、希望のあるものとして描き、ネット世界を肯定しているよう。細田作品らしいというのかな? 登場人物たちのドラマを描くという点で言えばちょっと物足りなかったかも……。でもそういうことよりは、アイコンとしてキャラクターが存在している感じがあるから、ドラマ部分以上に作品が持つメッセージ性について考えを巡らすことができます。そんな楽しみ方が丁度良いのかもしれません。

 色々思う所はありましたが、明確なメッセージ性、青春、エモい展開等々、王道でわかりやすいし、異世界のワクワクする感じの映像表現も良い。何より本当に音楽・歌が素晴らしい映画です。『美女と野獣』のオマージュはインタビューなどでも述べられていましたが、他にも『眠れる森の美女』なんかを想起させるような瞬間もあったり、観易さと楽しさがある一本でした。


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