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映画『最高の花婿 ファイナル』感想

予告編
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 映画『最高の花婿』シリーズの最終作。ちなみにですが、一作目と二作目の感想文もあるので、よければどうぞー。

映画『最高の花婿』感想|どいひー映画日記 (note.com)
映画『最高の花婿 アンコール』感想|どいひー映画日記 (note.com)


似た者同士


 冒頭、タイトルが映し出されるまでの数分間。娘婿たちの多国籍感・異文化感、そして娘それぞれの特徴などなど、登場人物たちの情報が提示されつつ、同時に主人公(?)である父親・クロード(クリスチャン・クラビエ)がそれらの個性を厄介ごとのように面倒くさく思っていることが、非常に端的に描かれていきます。

 シリーズ(まさかの)三作目となる本作ですが、いわゆる「これまでのあらすじは…」「前回までは…」のようなプロローグでもあるこのアバンパートは、単なるあらすじ紹介という役割以上の意味があると思います。

本シリーズの一見さんにとっては、前作・前々作の雰囲気を観客に伝え、一方でシリーズのファンには「おなじみの面白さは変わっていませんよ」と理解させてくれる。相変わらずテンポの良い面白さ。これだけでニヤニヤが止まりません笑。なので、本作だけでも十分面白い……けど、やっぱり一作目から観た方が良いと思います。一作目が好きだったら、多分ずーっと笑って観ていられるはず




 シニカルなユーモアながらも、トゲが強過ぎないのが本シリーズの魅力の一つ。前作・前々作評でも似たようなことを述べましたが、あくまで一つの家族の中だけの物語だからこそのユーモア。

笑ってしまうポイントはいくつもありますが、個人的に特に好きなのが、本音と建前のズレ。そこには葛藤のような高尚なものがあるわけではなく、その場しのぎで体裁を繕おうとする姑息な精神ばかり。相変わらず差別や偏見は拭い切れていないけれど、それを受け入れる労苦なんかよりも、そんな内心を表に出して自分が悪者になることの方がよっぽどイヤだ……という心情があちこちで窺い知れます。

ついさっきまで悪態をついていたのに、本人を目の前にした途端、意見が180度変わる。目的のためには綺麗な言葉で嘘をつくが、当人には一切の悪気が無い。「愛のため」だったり「被害者意識」だったりするので、全員(主に男性諸氏)が、滑稽に見えて仕方がない。本作は、これまで以上にそんな醜態のオンパレード。



 そんな諸々を「これまで以上に」と述べたのは、確実にパワーアップしているから。たしか前作評でも述べましたが、主義・主張の正誤や是非はともかくとして、頑固オヤジ感が面白い本シリーズ。そして本作では、そんな頑固オヤジの数が増えている笑。もう手に負えない感じ。そりゃあ笑いが止まりませんわ。

 また、例に漏れずというか、そんな頑固オヤジと長年連れ添ってきた奥様方の「やれやれ」感も面白い。本作は、不謹慎だったり失礼だったり我が侭な言動があると、呆れていたり引いていたりする誰かしらの表情のカットが挟まれ、セリフや言葉での説明を省いた、そういったテンポの良さが笑いに繋がっていきます。であればこそ、言葉など用いらずともその表情や間だけで「やれやれ」感を生み出せる奥様方は、紛れもなく本作の面白さを醸成する名バイプレイヤー。

時には一喝し、頑固オヤジをシュンとさせる力もあって、それもまた頑固オヤジが情けなくて面白い。ずーっと述べてきた「頑固オヤジ感が面白い」とは要するに、その奥様の存在も同様に面白いと捉えて相違ありません。そして、頑固オヤジの数が増えているということは、そんなオヤジの相手をする肝っ玉母ちゃんの数も増えているということ。そりゃあ笑いが止まりませんわ。(二度目)




 物語のラストに、ある楽曲が演奏されます。娘婿の一人、ラシッド(メディ・サドゥン)へ、彼の父親から贈られるメッセージソング。その曲の歌詞は正に、本作の人々を象徴するような歌詞。この歌詞の意味を噛み締めてから本作をもう一度鑑賞するのも面白いかもしれません。

自分たちにはそれぞれに違いがあり、長い間で色んなことを経て、それでも「私たちは似ている。同じ血が流れている」という歌。頑固オヤジと肝っ玉母ちゃん(という形容が適当かは疑問ですが)の子供たちもまた、同じような関係性の夫婦・家族を築いている。本作の登場人物たちは、国籍、宗教、文化、その他諸々の価値観、その全てが異なっていて、且つ、交じり合うことが無さそうに見えるものの、それでも「私たちは似ている。同じ血が流れている」と締め括ることで、〈家族〉という自明ではないはずの繋がりの強さを再認識できるラスト。なんだかんだで最後はほっこりさせられる、温かい気持ちになれる、これもまた本作の大きな魅力の一つなんじゃないかな。




 前々作評だったかな?(まぁ前作評でもどちらでも良いんですが)で述べたことでもあるのですが、〈家族〉というコミュニティの中の話だからこそ笑えて面白い『最高の花婿』は、一方で、どこか世界の縮図のようにも見ることが出来るように思えます。

〈家族〉はある種、一つの国。結婚することで、異なる法律や文化を携えた国同士が一つになり、また新たな国が生まれる。本作で描かれる国々は、それぞれが自国の問題を抱えまくっていて、中には内紛状態の国もある。おまけに集まって会談(会食)が始まろうものなら、これでもかというほど外交下手が露呈する。

本作で描かれる揉め事の多くは、ほんの些細な認識のズレだったりする。小突き合っていただけが、大きな事態になっていく。婿たちの争いが苛烈さを増していく最中、ある時、姉妹らによるお説教が始まる——「エスカレートしてる」「次は何する気?」「二人は仲の良いお隣さんのはず」——と。

このセリフもそうだし、これまでに述べたこともそう。違っていたり諍いもあるけれど、同じ血が流れている似た者同士、平和を築けないわけがない。そんなことまで考えさせられました。



 〈家族〉の話とも〈世界〉の話とも見て取れる。どちらで味わっても面白い。これで遂に正真正銘、最終作だと思うと、やっぱりちょっと寂しいなぁ。


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