見出し画像

映画『mid90’s ミッドナインティーズ』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


Kids Returnとか思い出したりして


 たまには先に述べてしまおうか。……この映画、大好きです♡


 舞台はアメリカのロサンゼルス。時代設定はタイトルの通り、90年代後半。共通項なんて皆無かと思われるかもしれないですけど、目に映る何もかもが心に突き刺さったんです。なんでだろう。っていうか、なんでこんなにも上映館が少ないのか。


 子供が危なっかしい真似をするのは、分別がつかないからとか、危険性を知らないからとか、そんな理由以上に、“危うさ” という、自身では制御できない力に対する興味本位みたいなものなんじゃないかと思うんです。火遊びも、悪そうな人達とつるむのも、アルコールやドラッグに手を出してしまうのも、自分以上の力に対しての憧れが隠されているんじゃないかな、と思っている節があるんです。

 だからって子供がやりたいことを何でもかんでもアリにするわけにはいかないでしょうけど笑、本作の主人公、13歳のスティーヴィー(サニー・スリッチ)が経験する様々な出来事には、共感できることが幾つもある。そもそも彼は、兄のイアン(ルーカス・ヘッジス)から暴力的な扱いを受けていながらも、イアンの持っている物への好奇心が強く、イアンのためにプレゼントを買ったり、ご機嫌伺いをするような男の子。酷い扱いをされていること以上に、自分では敵わない=自分より強い力を持つ兄への憧れを持っていました。

 そんな彼がある時、自分のこれまでの日常とは全く異なる日々を送る年上の男の子たちのグループに入る。彼らが乗りこなすスケボー、自慢気に語るヤバそうな武勇伝、下世話な話、女性経験…etc. 自分じゃ届かない気がする話に憧れのような羨望のような不思議な想いを募らせ、次第に好奇心の対象が変化していく。

つっぱって大怪我をしてしまったからかな? アルコールに酔う感覚を覚えてしまったからかな? 性行為を経験してしまったからかな?

スケボーの技を一つだけ、それもたった一回成功しただけで大はしゃぎするスティーヴィーのことだから、アルコールにせよ大怪我にせよ、何かしらの “人生初” を経験する度に、自分が大きくなったように感じたに違いない。僕もそうだったし作中でも描かれているけど、男子ってのは初めて性行為をした後は、何故か肩で風を切るような素振りをしてしまうものなのかもしれません笑。

 後からグループに入ってきたスティーヴィーに色んな事を追い越され居場所を奪われたように感じるメンバーとか、主人公とは反対に、周囲の人間の目線も挟んでいるのも本作の見どころの一つです。


 まぁ “そういうのが流行っていたから” って言われちゃそれまでなんですけども、彼らが興じているのが “スケボー” っていうのも凄く良いと思うんです。スティーヴィーはともかく、あの年齢の子たちならバイクとか乗り回しても不自然ではない中、自分の足で、要するに “自分の力で” 地面を蹴って走るというスケボーの性質が、若者の溢れんばかりのエネルギーとかパワーを象徴しているような気がするんです。そういう点で言えば本作はどこか『Kids Return』みたいな魅力もあるのかもしれません。

 もっと言えば、身体の小さいスティーヴィーが今まで持っていた子供用のスケボーから大きめのスケボーに変えるからこそ、“大きい” とか “強い” に対して彼が憧れを抱く(或いは執着している?)ことが浮き彫りになっているようにすら感じられます。



 この映画は、音がとても印象的。先述した兄の暴力的な描写から始まる本作は、殴る時や何かにぶつかった時の衝撃音が、異様に大きい。「痛い」と感じる、即ち自分の受け止めきれる容量以上の刺激が、イコール “自分以上の強さ” から及ぼされるものだとするならば、必要以上に痛みを連想させる大きな音が示すのは、これまたある種の “強さ” なのかもしれません。もしそうであるなら、後半、スティーヴィーが母親に鋭い口調で暴言を吐くシーンで、彼の地声以上にセリフの音が大きくなっていたように聞こえたのは、彼が強くなった(つもりになっていた)ことを表していたとも取れる。

 逆に最期の最後、一番痛々しいところでは無音にしているのも上手い。しかもこのシーンで、今までスティーヴィーのことをあだ名でしか呼んでなかったファックシット(オーラン・プレナット)が名前で呼びかけるのも非常に印象的。最初は小僧扱いだったけど、色んなことを共に経験していくうちに仲間として彼を想っていたことが垣間見える。だからこそ無言のラストシーンも活きるんじゃないかな。


 この映画は、色んな感想が出ると思います。悪いことだらけだし、そもそも文化背景も違うけど、何故か青春時代の郷愁を感じてしまう不思議な物語。あくまで個人的にね。

 色んなトラブルもあった中で、誰が良くて誰が悪いとか、否定も肯定もせずに受け入れているような着地まで含めて、繰り返しになりますけど、この映画が大好き。これがジョナ・ヒル氏の映画監督デビューっつーんだから、末恐ろしいよ。


#映画 #映画感想 #映画レビュー #映画感想文 #コンテンツ会議 #ミッドナインティーズ

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?