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映画『スリー・ビルボード』感想

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過去の感想文を投稿する記事【98】

 昨日、映画『ディアーディアー』感想文を投稿したのですが、それが鹿についての話でして……。細かいところは覚えていなかったのですが、本作『スリー・ビルボード』でも鹿が出てきていて、しかも割と重要っぽい存在だったのだけは印象に残ってまして……。

 そんな思い付きで投稿しようかと。っていうか、もう五年以上前の映画なんですね。意外と最近の作品だと勘違いしていました。どうりでフワッとしか覚えていないわけです。

 よければ読んでくださいー。


みんながみんな敵じゃない


 あの鹿は偶然に居合わせただけなのか、或いは本当に……。人通りがほとんど無いその場所は、そこに立てられた三枚の大きな看板を囲うように木々に覆われていて、まるで外界と隔絶されたような空間にも見えてしまい、もしかしたら鹿の存在は、主人公・ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)の妄想や幻覚なのではないかとすら思わせ得る。

 しかし、最期には鹿は姿を現してはくれなかった。きっと、仮に娘だろうと幻覚だろうと、自分一人ぼっちではないのだと、“みんながみんな敵じゃない” のだと気付けた彼女の前には、もうそれは必要なかったから。そう、きっとこれは復讐ではなく再生の物語。まあ彼女は登場人物たちの中でも気付くのが最も遅かったわけなのですが。



 青々とした広い芝に並ぶ、真っ赤な下地にインパクトの強い文言を載せた看板は、ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)の言う通り名案で且つ、攻めの一手になっていました。あれに驚かされたのはエビング署員ばかりではなく、おそらく本作を観ていた者も同様。ドラマ、サスペンス、クライム……。そんなジャンル分けがされていた本作には、なんと良く出来た掴みかと思わされました。

 しかしながら、この看板によって真っ先に矢面に立たされていたウィロビーからの手紙が、物語の毛色を変え始めていきます。

 元夫から受けていたDV、例の事件、そして看板広告を出してから始まった周囲からの反対意見。時には危険な目に遭う事だってあった。そんな彼女が、変わるために時間を要したのは仕方のないことだったのかもしれません。ついつい物語にエンタメ的要素を求めてしまうと、歯医者の男への反撃や、どんな脅しにも屈しない彼女の強気な姿勢を面白く楽しんでしまいがちですけど、そんなことのために彼女は憔悴していく。署長が体調を崩した時には動揺もしていた。思い悩んだ末に感情が毛羽立っていただけで、本来彼女も心優しい女性なのだと匂わせることによって、どうか救われて欲しいと思わされる。だからこそ先述の手紙や、ある男の変化が心に刺さる。



 この物語にはもう一人、再生する者がいます。このきっかけもまたウィロビーの手紙から。差別、暴力、職務怠慢——アカデミーを落第したことには納得できても警官になれたことには首を傾げずにはいられない、そんな要素てんこ盛りの警官・ディクソン(サム・ロックウェル)。署長の手紙やレッドからのオレンジジュースなどによってなのか、彼もまた “気付く”。傷付けたり蔑んだりばかりだったのは、彼の弱さの裏返しなのかもしれません。いい歳こいてママに世話になっているような男ですから、ミルドレッド同様に自分に味方が居るだなんて考えたことも無かったのかもしれません。

 でも気付くことが出来た彼は、ミルドレッドを想ってか、署長の言葉に動かされてか、彼女にも影響を与え始めていく。この過程が音楽も相俟って美しい。ウィロビーを演じたウディ・ハレルソンではなくディクソン役のサム・ロックウェルがオスカーの助演賞を貰ったのはそんな理由からなのかもしれません。


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