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『ザ・ゴール』~17年間も日本での出版だけが禁じられた「幻のビジネス書」~

これまで、影響を受けたビジネス書はたくさんありますが、エリヤフ・ゴールドラット博士の「ザ・ゴール 」は、読了後、不可逆的な行動変容が生じたという意味で、かなりインパクトのある本でした。

ビジネス書にしては珍しく、小説仕立てで、とある工場に務めている主人公が、工場の経営を立て直すという内容です。
物語はさておき、この本が伝えたい内容は、制約条件の理論 (Theory of Constraints:TOC)と呼ばれる、製造プロセスに関する理論です。
かなりメジャーな本なので、すでに内容をご存じの方も多いかと思いますが、復習がてら簡単に述べたいと思います。

TOCとは、製造プロセスにおける制約条件(ボトルネック)に着目して、プロセス全体の生産性を向上させる方法を体系的にまとめた理論です。
以下のような、形が不ぞろいないくつかの砂時計をつなげて作った、大きな砂時計を想像すると、ボトルネックのイメージが付きやすいです。

図:筆者作成

一瞥してわかることは、砂時計の上から下へ砂が落ちる速度は、一番小さい穴を砂が通過する速度と同じになるということです。
この一番小さい穴がボトルネックと呼ばれるものです。

往々にして工場の生産現場などでは、各プロセスの担当者が、それぞれのプロセスの通過速度を上げるための工夫や最適化を行いがちです。
しかし、ボトルネック以外の穴のサイズを広げる努力をしても、全体のスループット向上には寄与しません。むしろ、ボトルネックの上に溜まる砂を増やすこと(つまり仕掛在庫が増えること)になり、全体の生産性を下げることになってしまいます。

TOCでは、以下のような手順で、製造プロセスの最適化とスループットの増大を目指します。

  1. まず、全体を見渡して、ボトルネック工程を特定する

  2. ボトルネック以外の工程の速度を下げて、ボトルネックの通過速度と同じにする(つまり、滞留をできるだけ少なくする)

  3. 設備投資などを行い、ボトルネックの通過速度を改善し、ボトルネックを解消する

  4. 3を行った瞬間、ボトルネックは別工程に移行するので、次のボトルネックを同定し、上述の作業を繰り返す

こうすることで、常に仕掛在庫を最小化しつつ、無駄な作業を減らし、全体のスループットを向上させていくわけです。

さて、この理論のミソは、いわゆるモノづくりの製造工程だけにとどまらず、営業、プロジェクト管理、研究開発から、家事に至るまで、何かしらの「複数の工程をつなげて行われる活動」に対して、あまねく適用できることにあります。

この本を読了した当時は、研究者として、毎日、数百本のフラスコを回してひたすら実験をしていました。
この本を読んで、全体の実験量を増やすために、実験工程のボトルネックを見つけ、わずかに改善するだけで、20%程度スループットを上げることができたことを、今でもよく覚えています。

その後、実験業務から離れ、投資評価を行うようになった際も、評価プロセスを、工程ごとに分けて、どこがボトルネックになるかを考えることで、かなり楽にさばけるようになりました。

将来、他の仕事を行うことになっても、きっとまず初めに、プロセス全体を描いた後、TOCに基づいてボトルネックを探し続けることになるでしょう。

モノづくり、企画、営業、実験から家事に至るまで、あらゆる仕事に適用可能な理論が書かれていますので、すべての働く人に、ぜひともお勧めしたいビジネス書の1つです。
よろしければ、ご参照ください。

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