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日本語が話せない外国人の患者さんの不安を取り除こうとした話

精神科の患者さんをイメージした時に
あまり海外の患者さんを
思い浮かべることってないと思いますが
風邪や骨折と一緒で
白人や黒人
アジア人やアフリカ人など
どの国の方も
当たり前ですが精神病を患います。


私が働いている精神科病院にも
海外の留学生や社会人が
突如、精神病を発症して
救急で運ばれてきます。


気分が落ち込んで
自ら受診される場合もあれば
統合失調症や双極性障害を発症して
周りの人が救急車を呼んだり
警察に保護されて
入院してくる場合もあります。


長年日本に住んでいる人もいれば
日本に来て間もなく
来日や就職、日本の大学に入学したストレスが
引き金となって
発症する場合も少なくない。


そうなると日本語をほとんど話せない
海外の患者さんもいるわけです。

精神科看護において
言葉でコミュニケーションを取れないのは
非常にハードなんですよね。

我々はコミュニケーションが
商売道具
みたいなものですが
言葉が通じないというのは
もうめちゃくちゃ大変。

病院には翻訳機があったりしますが
海外の方の母国語がスワヒリ語とかだと
翻訳機の精度もあまり高くない印象で
全然意図しない翻訳がされて
お互いに余計にストレスだったりします。


隔離、拘束の重要性を伝えられないから信頼関係が築けず不信感がたまる

先日ある海外の方が入院されました。
20代男性で
日本語がほとんど話せず
英語は話せるがそれも不十分という方。

隔離や拘束をせざるを得なかったり
保護室ではマットや枕以外は入れ込めないのですが

急にそういった状況に置かれると
たぶん刑務所に入れられたような
気分になると思うんですよね。

もちろん日本の患者さんもそうですが
「こんなところから早く出せー!!」
と言われるわけです。

そこで
しっかりと説明をしたり
相手の訴えを聞いていく過程で
信頼関係を築けるのですが
言葉が通じないから
相手の要求に対して
YesかNo
でまず答えるわけですが
その理由などをうまく伝えられない。

「なんで家に帰れないのか!?」
「聖書を読ませてくれ!」
「スマホを使わせろ!」

と英語で言われても
Noとしか言えない。

「それはドクターのジャッジだ」
ぐらいしか言えないわけです。

その海外の患者さんからすれば
日本という国に来たと思ったら
こんな地獄のような環境に置かれて
自分の想いを伝えることもできないし
自分が要求したことは
理由も伝えられず
No
と言われるだけ。

精神病の病状にもよりますが
状況が把握できる状態であれば
これほどの苦痛もなかなか無いかもしれません。

異国の地で隔離されて制限されている人の立場を考える

共感能力を上げるためには
その人の置かれている立場を
考えた方がいいよね

と思っているのですが

患者さんと関係を築く上でも同様で
患者さんの置かれた立場をまず考える。

全然馴染みのない国に来て
その国の言葉や文化も知らず
遠く離れた場所で
家族や兄弟もいない場所で

たった1人で
病室で過ごす。

自分がその立場だったら
たぶん病気になった自分を恨んだり
その運命を受け入れられなかったり
とても前向きになれないでしょう。


そう考えると
他の患者さんと区別するわけではないですが
何ができるか?
を考え直した方がいいなと思いました。


まずは相手の国のことを知る。

患者さんの母国について
YouTubeやネットで情報を集めました。

すると内戦や紛争
宗教争い、貧困など
過酷な環境で育った可能性があることや
そんな環境から飛び出して
日本で頑張ろうとしていた背景を
想像することができました。

そして食事や文化など知ることも
コミュニケーションを取る上で
大事な情報になりますし
雑談を円滑にするために
様々な情報を集めました。

英語を学んで積極的にコミュニケーションを図る

元々英語は嫌いじゃなかったので
改めて英語を学び始めました。

スマホは勤務中使えないですし
スムーズにコミュニケーションを取るには
カタコトでも自分で話せた方がいいので
英会話動画を見たり
発音がよく聞こえる工夫など学び
積極的にコミュニケーションを
図るようにしました。


いつしか私の名前も覚えてくれるようになり
その方の民族の話など
その方の核になるような話まで
してくれるようになりました。

私は病気や症状の話も大事ですが
その人の背景やパーソナリティな部分を
知ろうとします。

患者さんの
治療しようという意欲
正しい医療の知識よりも

自分のことを知ろうとしてくれる人の存在
だと思うからです。

それ以外にも
その方は血だらけで入院してきたので
真っ赤に染まった白シャツを
病院の洗剤で洗ったり
アメニティで余っていた
歯ブラシをあげたり
困っていることを
一つ一つ潰していく努力をしてみました。

少しずつではありますが
穏やかに話せるようになり
不思議なことに
その海外の患者さんも
日本語を上手に使うようになって
いろんなスタッフと冗談を言えるぐらい
治療は進んできました。

今では病状は落ち着いて
むしろ状況がわかってきて
退院後の不安など
今は新たな不安が出始めてきたりしましたが

異国の地で頑張っている青年に
大きな特効薬はないんですよ。

ちょっとしたことの積み重ねしかない
関係を築けるための必殺技みたいなものはない。

あれやこれやと
ちょっとずつ手を打ってみて
相手を知ろうとすることで
たまーに相手の心が開けることがある。

異なる言語
異なる文化で育った人と
どうやって信頼を築いて
人一倍不安を感じやすい状況に置かれた
海外の青年の立場を
どれだけ考えられたか。

掛け算はなくて
ちょっとずつの足し算しか無いんですよね。

なんだか改めてそういう大事なことを
身をもって感じたような気がします。

また他に打てる手がないか
考えて実践してみます☺️

サポートしていただけると相当喜びます😭