走れ、穿て、守れ -10-
異世界キメラ兵器が粒子崩壊消滅した後、穴と瓦礫まみれになった元高速道路の上で呆けている冴えない感じの背広のおっさんへと俺達二人は歩み寄った。
周囲にはあの異世界キメラ兵器の起動キー扱いで組み込まれていたらしきバリエーション豊かな面々が困惑しつつもおっさんを取り囲んでいた。
その中から一人、いかにも奥ゆかしい感じの、ブラウンの髪をショートに切りそろえ、精いっぱいのおめかしなのが見て取れる女性がS・Rの方へ駆け寄ってきて無言のままに抱き着いた。
「よしよし、全部片付いたからもう怖くないよ」
初の即売イベントでこの有様ではトラウマになっても致し方ない。そういう意味でもこのアリサマ団だかなんだかの罪は重い訳だが、それはそれとして俺達はこいつにやらなければならない事がある。
しがみついて離れない友人を引きずったままにS・Rはおっさんの前までやってきて腕を突き出す。殴られると思って身構えるおっさんだが、特に打撃音などは響かない。
「あの、コレはいったい」
「アタシのパルプだ。どうせ留置場で暇だろうから持ってきな」
彼女に合わせて俺もパルプを取り出しては、殺人雑誌並みの分厚さのそれで思いっきりおっさんの横っ面を張り倒した。
「ぶべらっ!」
「俺からもくれてやる。せーぜぇ牢屋で反省しろ」
未だ状況が呑み込めてないおっさんに警官達がにじり寄って拘束し、被害者達をどけてパトカーへ連れ去っていく。
「さ、その人会場に送って帰ろーぜ」
「あいよ」
ぎゅっと抱き着いたままの友人を苦笑しつつ引っ張りながら、S・Rは擱座したままのガン・フロッガー、その灰色に焼け付いたままの装甲にそっと触れた。
「アンガトな、相棒」
ーーーーー
「姐さん!今日は続きありますか!」
「あいよー」
バーメキシコにて、朝一で元気よく駆け込んできたのはS・Rに強かにぶん殴られたあのナンパ男だ。最近は毎日姿を見るようになったがお目当ては彼女の作品らしい。ちゃんと読みこんで続きを読みに来るとは中々殊勝な事である。
「あー、R・V、あのアンダケ団のおっさんからなんかあった?」
「続き、頼む。だそうだ」
「あーいよー。つかアンタのは?」
「自分がボコボコにされたのを露骨に刺激されるから俺のは読みたくないそうだ」
大げさに肩をすくめて俺が出した回答に仰け反るほど爆笑してCORONA呷るS・R。バー・メキシコは今日は珍しく平和であった。
そして誰が如何なる邪魔をしてきてもパルプを書き続けるのが俺達パルプスリンガーだが、ここに来て俺は最大の難敵と対峙する事になってしまっていた。
「知らない人からアサシンブレードが送られてくるってなんだよ……」
時に現実は俺の想像力を簡単に逸脱して殴ってくる。現実に起こった面白すぎるイベントを前にし、俺はそれを越える書き出しを考えるのに苦悩するのであった。
【走れ、穿て、守れ -10-:終わり】
作者注記
本作はNoteに投稿しているパルプスリンガーをモチーフに小説を書く、という企画の七作目だ。参加者は23人?いるので後16本だ、ガンバレ俺。
と言う訳で今回の主役はこちらの方。
パルプスリンガーの中でも死人の量は随一!榊亮の姐さんだー!ウィーピピー!!あ、俺の作品とは比較にならないくらいバンバン人が死ぬぞ、マジでな。
作品の方向性が明確なのと、ご本人様の好みがしっかり把握できたおかげて大まかなプロットが組みあがり、はやめのご登場と相成ったのでした。
カーチェイスと銃に拘りが見て取れるので、必然的に本人もガンスリンガーのタフレディな感じに。誰が相手でも譲らない気骨は他のパルプスリンガーの方々にも好評な感じで実にありがたかったです。
機体であるガン・フロッガーもご本人様のイメージに合わせて、カエルっぽい、自動車から変形、通常は実弾兵器での軽快なるガンカタで戦う機体としてデザインさせていただきました。
以上、ご参加、ありがとうございました。
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