走れ、穿て、守れ -9-
「フロッギー、ガン・フロッガーの搭乗者保護機能を全て解除。機体の全リソースをジョーカーに回して」
ソウルアバターにおける搭乗者保護機能を全てカットするという事はつまり、自分の命を賭けるのと同義だ。
俺の乗機の目の前でガン・フロッガーはあたかも夜闇に鳴くカエルの様に路面に延長した両腕を引っ掛け、胸部前面装甲を口を開くように展開。露出した内部機構はまるで懐中電灯の投光部を大きくしたような構造に見える。
「バカめっ!そう易々と撃たせるも、の……ナニィ!?」
各世界観ブロックからそれぞれ攻撃を加える予兆を見せた異世界キメラだが、残念ながら俺の一手の方が早い。
この地表全体より異世界キメラに向かって、蒼光の楔付き鎖が四方八方から撃ち出されその異形の塔を貫き固定していく。
下部の巨木部位が根を暴れさせアスファルトを砕き、最下部の車輪が猛回転して脱出しようと暴れるが俺はなおも拘束縛鎖の数を増やして異世界キメラ兵器をこの場所に縫い留め、逃がさない。
「よーしよし、いい子だ。しんどいだろうが気張っておくれよ!」
ガン・フロッガーはいつしかその機体色を緑から燃える紅蓮のごとき赤へと塗り替え、ガマが大口を開けた姿にも似れば口腔にはまばゆいばかりの光が収束しつつある。
窮地に陥っているのは自分の方だと理解した異世界キメラ兵器は、先にこちらを破壊せんと種々多様な攻撃を放ってくるが、甘い。種子グレネード、殺戮歯車、石柱メテオ、水晶花弁クナイ、その全てはガン・フロッガー前面に張られた光波障壁によって原子レベルまで分解される。
「グッドだR・V。アンタが居なかったらこいつは撃てなかったねぇ」
「持ちつ持たれつさ、こういうのは」
こちらのコクピットモニタに、ガン・フロッガーの武装チャージが完了した事を知らせるサインが点灯した。
「コイツがアタシとフロッギーの切り札、ラストシンガー……いっけえええええええええ!!!!」
ガチリ、とガン・フロッガーのコクピットで弾かれた引き金の音がこちらのコクピットにまで聞こえた気がした。刹那、ガン・フロッガーの機体全高を遥かに上回る極大のビーム閃光が、辺り一面を光で塗りつぶした。
「チッチッチ、チクショウメエエエエエエッ!!!?」
異世界キメラ兵器は最後の悪足掻きとして塔中央部のレーザー砲を起動しようと身動ぎしたように見えたが、何もかもが遅かった。
視界の中央を埋めるほどに膨張していたはずの異世界キメラ兵器はその質量の大部分を消失。わずかばかりに残った基部ももはや機体を再生する余力はなく、粒子となり物質構成崩壊を起こして消え去っていく。
持てる力の全てを振り絞ったガン・フロッガーはその身のカラーリングを灰色に焼き付かせ、擱座。俺の乗機も出力の過負荷で一時的な機能低下が生じていた。
だが、外部マイクが拾ったサイレンの音でこれ以上俺達がやる事はなくなったかの様に……いや、最後に一つだけやらなければならない事があった。
【走れ、穿て、守れ -9-:終わり:-10-へ続く】
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