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賽を振るは、神か人か -10-

「ようやく、最初の人間か……」
「死んでる、けどな」

果たしてどれほど放置されていたのだろうか。一際注意を払って建築された中央ビルをあがり、如何にも街を見下ろすのにうってつけの造りをした軍艦の艦橋にも似た部屋。

そこを訪れた俺達は初めて、この地下施設で人間の痕跡を発見した。完全に白骨化した遺体という形で。遺体は上等な誂えの椅子に身をゆだねるように腰掛けたままクッションに埋まって街を一面ガラス張りの窓辺より見下ろしている。

「例のここの主人、かいな?」
「おそらくは」

部屋を見回し中の設備を見定めると、モニターこそ点灯していない物の、多様なUNIXサーバー類が静粛にLEDランプによる追悼めいた輝きをともしている。赤、緑、青。取り合わせだけなら聖夜のようだが、遺憾ながらここは地の底の霊廟もどきであった。

俺が並列接続されたUNIXデッキよりも先に亡骸へ手を差し出した矢先、音もなく現れた闖入者より制止の声がかかった。

「どうか、そのお方に手を触れないでくださいますか」
「そのままにしておきたいのはわかるが、ちゃんと弔ってやらないのは気の毒だぞ、と」

入り口側ドアに振り向くと、そこには玄関で俺達を出迎えたあの侍従の姿があった。今の彼女には表情はなく、その瞳は機械その物の怜悧さがある。

6・Dはと言うと一足先にアサルトライフルをセレンへと向けて威嚇。罠に嵌められたのもあって既に油断せずに相対していた。

「セレンさん、アンタがこの施設のあるじってわけかい?」
「いいえ、いいえ、手強きお客様。私はあくまでマスターの望みを実現するために使える一介の従者でございます」
「侍従って、その、なんだ。アンタの主人はもうとっくに亡くなってるじゃないか」
「マスターとの死別は、私に与えられた命令を反故にする理由には不十分でございます」

厳かにすらみえる所作のもとカテーシを披露するセレン。彼女は主人に託された命令の元に淡々とシェルターの構築と維持のための行動を繰り返していたのだ。だが……

「お言葉ですが、セレン。貴女にはメンテナンスが必要です」
「不要です。私の自己診断機能は正常と判断しています」
「そうでしょうか。私の診断機能では貴女は自身のハードウェアスペックを逸脱したマルチタスクを継続し続けた結果、論理処理に齟齬を生じさせています。もしリソースを最適な割り振り方をしていれば、私達がここにたどり着く事はなかったでしょう」

変わらぬ様子で暗がりの中浮遊するクリスは淡々とセレンへ指摘した。実際の所、彼女の行動には整合性が合わない点が多いのは事実だ。隠したい場所を監禁部屋に選んでしまった所などは最たるところだろう。おそらくはここまでたどり着く結末を既に演算できる余力がなかったのか。

「仮に、そうだとしても私は私の存在意義を手放せません。マスターの望みを実現することが私に与えられた最後の役目なのですから」

セレンの論理は歪んでいても、決して撤回される方向へ行く事はないのがうかがい知れた。押し黙ったまま静かに彼女の弁を聞いていた6・Dは、手のひらで転がしていたダイスのうち一つを指先で天へと跳ね上げては、自身の手で受け止めた。

出た目は……”一”。

「それでは、おさらばです。お客様。どうか疾くマスターの夢の痕からご退場ください」

顔を上げた機械仕掛けの侍従の瞳は、わずかに哀しんでいるようにも見えた。

【賽を振るは、神か人か -10-:終わり:-11-へ続く

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