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パンドラ・イン・ジ・オーシャン -2-

上方を見上げると、海面の光が早急に遠ざかっていく。もちろん、生身で素潜りしている訳ではなく、俺は今海中に沈みこむ黒色の騎士めいた人型機動兵器のコクピットの中だ。

宇宙、高空、地上辺りであれば場所を選ばないソウルアバターではあるが、流石に海中となると全く影響なしと言う訳ではいかない。機体を覆う見えざる慣性偏向の壁に遮られて水圧がかかっている事がモニター越しにも伝わってきた。

「R・V、いける?」
「性能上は。深海に潜るのは初めてだがな」

潜るだけなら、マリアナ海溝探索でもこなせるだろうが、戦闘するとなると十全にとはいかない。元凶所在地が海のどん底でない事を祈るばかりだ。

光源が徐々に愛機がまとう蒼光に限定されてくる頃、白く巨大な物体が眼下を遮る。敵ではない、味方だ。一見巨大なアルビノのクジラめいたその物体はよくよく見るとメカニカルなディテールが細部にまで走り、側面や上面には水晶レンズにも似たカメラが確認できる。

「やはり、こういうのは専門家が勝るな。こっちが足手まといにならないといいが」
「大丈夫、アシストするから」

まほろばの海獣そのものの機体を操りながら、彼女はそう断言して見せる。そしてすぐに、俺の機体にかかる水圧負荷が軽減されているのがコンソールの数値表示から見て取れた。

「助かる」
「どういたしまして。でも妙だわ、この深度にしては余りにも魚たちが少ないというか……止まって」

彼女の制止より若干遅れて、こちらのソナーにも何等かの影が映る。ソナーは見慣れていないが、少なくとも魚類のたぐいではない。

「敵、でも見たことない形状……この海域で一体何が起きてるの?」

こちらの機体がうっすらと放つ光が夜の闇より深い海の暗さの中照らし出したのは、まるで光によって引き伸ばされた子供の影だ。しかし姿を見せた影は明らかに質量を持っている。

俺とM・Hは同時に動いたが、両者の運動性は雲泥の差だ。何倍も大きいあのアルビノクジラめいた機体はまるで空でも舞っているかの如く悠々と身をひねり水中を回遊。謎めいた影が伸ばした両腕の触腕を優雅に回避する。

その一方で俺と言えば何とかどうにかスライド移動し伸びてきた頭部らしき部位を回避した。普段のイクサ・プロウラの速度とは程遠いが深度を考えれば何とか動き回れるだけでも胸を張りたくなるものだ。

四苦八苦して機体を制御し攻撃を仕掛けようと太刀の柄に手をかけるが、モチの様に水が絡みつく感触がセンサーからニューロンを通して俺にまで伝わってきた。それでも何とか居合抜刀によって迫りくるブラック海坊主の干渉を斬りはらう。その感触は砂めいていて、やはり水のそれとは全く異なっている。

「そこね!」

俺が二の太刀を振りかぶるよりも早く、M・Hの気合と共に彼女の乗機頭部より集約された振動が海中を強かに打つ。まるで太鼓の轟のようなその衝撃波はおぼろげに揺蕩うブラック海坊主を真正面に貫いた。

ゆめまぼろしだったかのように掻き消えるブラック海坊主。少なくとも一般に知られている海の生物ではない。一瞬クラゲがよぎったが、すぐに否定する。明らかに異なる存在だ。

「M・H、君はアレについて心当たりは?」
「ないわ、全然ね」
「フムン」

どうやら今回は密漁団とは違う、もっと名状しがたい存在が絡んでいるようだ。

【パンドラ・イン・ジ・オーシャン -2-:終わり:-3-へと続く

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