走れ、穿て、守れ -8-

　矢の雨ならぬ、古代ローマ様式石柱の雨が周囲の高速道路敷設山脈環境を巻き添えに降り注ぎ、その合間をハリウッドスターの様にガン・フロッガーが縫って食らいつく。

　新たに生肉を積み重ねた様なグロテスク世界観を増築した異世界キメラから、どうにも接触をお断りしたい印象の触手槍が何本も突出してはガン・フロッガーへと迫った。

「させん！」

　機動力が武器のガン・フロッガーにとって一瞬でも拘束を受けるのは脅威！俺は迷わず上空からカワセミ急降下居合によって迫りくる触手の群れを両断！

　さらには左腕掌底より機体大サイズの波導スフィアを出力からの射出！追加で増産襲来してくる肉触手を焼き尽くしながら天を衝く塔となった異世界キメラ兵器中央に着弾！光爆によって生肉生体ブロックを消滅させる！

　だが消滅した部位は今度は赤錆にまみれた装甲が埋めれば、表面にバラの棘の様に増設された小規模砲塔から血色の砲撃火線が降り注いだ。火矢の雨の如く隙間なく撃ち放たれる砲撃を前に回避は困難とみてガン・フロッガーの前へ出て光波蒼壁を展開、これを防ぐ。

「R・V、気づいているかい？」
「ああ、こいつは通常のSAの耐久力を大きく逸脱してる。クリエイター100人数珠繋ぎは伊達じゃないようだ」

　通常、ソウルアバターはダメージを負うほど騎手の精神力を削って機体の物質化を維持する。つまり、機体を維持できないほど騎手が摩耗した場合には物質転換が解除される仕組みだ。そのボーダーは騎手の生命保護の観点から過剰なダメージにならない様設計されている。

　一方でこの異世界キメラは受けたダメージを超えるほどに増殖規模増大を繰り返し、異なる世界観を増築している。この現象は機動兵器の機体構成を事前にデザインせずに、そのまま騎手のイメージを出力してしまった物によるものだ。SA初心者がやらかしガチなミスだが、ここまで物量で押してくるのは実際脅威ではある。

「ヌッハッハッハハハハ！！どうした！所詮貴様ら個人の力などその程度か！」

　勝ち誇ったがごとく共用通信に威圧的な哄笑を送ってくるアンクリ団員。とはいえ持久戦になればこちら二機が息切れする方が速いのは目に見えている。その為無策でダラダラと戦い続けるわけにはいかないが……

「なあアンカケ団よ、そのご自慢のオモチャにゃ搭乗者保護機能はかかってんのかい？」
「当たり前だろう！だがそれが実効する事はない！貴様らの方が敗れるからだ！」

　こちらのコクピット内モニタを通してS・Rが口の端吊り上げて笑ったのが視界に入る。ソウルアバターには極めて強力な搭乗者保護機能が備わっている。故に例え機体が全損しても一部の例外か事故を除けば、搭乗者まで死ぬことはまずない。

「それを聞いて安心したよアンパン団、今からとっておきを見せてやるからその節穴目をかっぽじってよーくおがみな！」

　巨大な敵を前にしてはアマガエル並みに小さいスケール比のガン・フロッガーが歌舞伎役者めいて見栄を切る。彼女の秘策に察しが着いた俺は即座にイクサ・プロウラの出力を機体の限界を超えるレベルに引き上げた。

【走れ、穿て、守れ -8-：終わり：-9-へ続く】

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