#ファンタジー
魔人清志郎大いに湯欲む
段々を一つ上る度に、落とした指の痛みが増し、人の領域から一歩外れる。何段上ればそこはお山か。気づいたときはもう遅い。 祖母の歌で聞いた通り、あちらとこちらを区切る境界線は不明確で、ゆえに誰でも踏み越えられる。超えたとわかるのは、こちらを値踏みする者たちの目の数がいずれも二つではないと気づいた時だ。
「あんたの腐れた指なんて何本あっても足りゃしない」
「……責任はとります」
「湿気た鉄砲玉に何が
ミルクランチ家の女たち
願えば音より早く走り、信じれば空だって飛んで見せる。魔女ってそういうものなのよ。もういない妹の言葉を思い出しながら、私はフィゼリ通りの上空を跳んでいた。目標は跳ね回るカカシ。パン婆さんのところの商品だ。起き上がったのは今朝。屋根から屋根へ跳んで逃げ、洗濯物をひっくり返し、通りすがりのカラスを驚かした。
「こっちだよ!」
叫んだのは母だ。カカシが慌てて跳ねる。隙。私は全身を縮め駅の屋根を蹴っ
剣士ニールと鍵師ヨランダ
暗闇の中で、華奢な体格の何者かが尻を揺らした。
「ほほぅ、これは一見して単純な構造の針筒式魔導錠……」
夜。都市郊外の邸宅。塀で覆われた敷地内。
尖頭めいて聳える屋敷の裏側。勝手口の前で灯る明かり。
「と言いたいところだが、違うんだなァこれが。頭文字の透かし彫りだ」
両のもみあげから垂れた2つの三つ編み。その先端が光り、手元を照らす。
扉に備えられた、時計めいた機構『錠盤』の表面に、隠し文字が光っ
『HELL・ラ・ラ・LIFE』:1話 地獄の朝は遅い
【前回の話】
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地獄の朝は遅い。いや、そもそも朝なんてない。地獄には夜というものが存在しない。
起きていたければいつまででも、起きていられる。しかし、大抵の奴は自分の中で時間を決めて活動する。
そうしないと『頭』がおかしくなるからだ。
「朝だ~~! 起きろ~~‼ 朝だぞ、キッド‼」
にもかかわらず、朝だと言って俺を起こそうとする奴がいる。
そいつはパタパ
『HELL・ラ・ラ・LIFE』(月マガネーム賞投稿用作品)
まずは、鼻だ……。
一番最初に鼻がおかしくなる。
道端に落ちているゴミ。
地面から発する熱により男も女も常に汗をかき汗の臭いが離れない。
街のいたるところから発せられる酒やタバコ、クスリの臭い。
どこからともなくやってくる何かが燃やされる臭い。
道端に倒れている奴らの血の臭い。
いたるところから、悪臭という悪臭が集まって鼻に襲いかかってくる。
そして、鼻が使い物に