Raupe

さまざまな事象について自分の備忘録を兼ねて駄文を綴っていこうと思います。

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さまざまな事象について自分の備忘録を兼ねて駄文を綴っていこうと思います。

最近の記事

『闇の奥』と『闇の奥の奥』

『闇の奥』 ジョゼフ・コンラッド著 藤永茂訳 三交社刊 2016年4月 『「闇の奥」の奥: コンラッド・植民地主義・アフリカの重荷』 藤永茂著 三交社刊 2016年12月 『闇の奥(Heart Of Darkness)』は映画『地獄の黙示録』の原作にあたるジョゼフ・コンラッドの小説で、1900年頃のコンゴの奥地で象牙を集める貿易会社の代理人が現地人を支配下に置き、王のごとく振舞っているらしい・・・という物語。 物語は現地から帰還したマーロウという男が当時の回想をテムズ河

    • 「21世紀の資本」

      トマ・ピケティ著 山形浩生・守岡桜・森本正史訳 みすず書房 2014年12月 経済学書としては異例の累計100万部以上の大ベストセラー、この分野に詳しいわけではありませんが、経済学書としては21世紀前半においておそらく最も重要な書籍ではないかと思われます。 国語辞典のように分厚く、本文だけで600ページを超す大著ですが、当初予想していたより平易な文章で書かれ、また数式なども必要最小限に纏められ、落ち着いて読めば誰でも理解できる書籍だと思います。 2020年に一度読んでいます

      • 長崎平和祈念式典の西側6か国+EUの欠席について

        長崎の原爆の日の平和祈念式典へのイスラエル招待の見合わせに対し、米、英、仏、カナダ、ドイツ、イタリアとEUの大使が出席を見合わせる、との書簡を送ってきたとのこと。 その理由としては“イスラエルをロシア、ベラルーシと同列に扱うことは「誤解を招く」”というもの。 長崎のイスラエル大使の招待見合わせは長崎市長の説明によると「政治的な判断ではなく、式典を平穏かつ厳粛に、円滑に行いたいという考えからの判断だ」それは「式典での不測の事態のリスク」を理由にイスラエルの招待を保留したもので

        • 「HHhH (プラハ、1942年)」

          ローラン・ビネ著 高橋啓訳 東京創元社 2013年6月 本屋大賞2014年翻訳小説部門第1位。 ハイドリヒ暗殺を扱った4本目の映画「ナチス第三の男」の原作にあたる小説。 映画の方は2017年製作で日本公開は2019年、ただし、評判はどうも芳しくないようです。 私は以下に掲げる理由により未見。 小説の方は2010年に発表されたもので、HHhHとは“Himmlers Hirn heißt Heydrich”「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」の略号だとのこと。 こちらは著

          「おおエルサレム!」

          ドミニク・ラピエール&ラリー・コリンズ共著 松村剛訳 1980年2月 ハヤカワ文庫NF 『パリは燃えているか?』『今夜、自由を』等のドミニク・ラピエールとラリー・コリンズの共著による第一次中東戦争の顛末を描いたノンフィクションノベル。 内容はあくまで第一次中東戦争に至るまでの出来事と停戦に至るまでの推移を描いたノンフィクションノベルですが、今日まで続く中東戦争の直接的原因となるイスラエル建国に纏わる諸問題を非常に分かりやすく、なおかつ広範にわたり言及することで、この問題に

          「おおエルサレム!」

          フルトヴェングラー1951年バイロイトの“第9”

          古今のあらゆるクラシック音楽の中でこれほど有名な楽曲は他になく、ベートーヴェンが独自に発展させてきた交響曲の集大成であり、終楽章に声楽を導入した画期的な独創性もさることながら、世間のあらゆる暗黒面に対するまさに万能の対抗力を発揮するその崇高な理念を正面から謳い上げることで、単なるクラシック音楽の領域を超えて、その威光は人類が存続する限り、永久に光を保ち続けるであろう格別の楽曲として、その存在は唯一無二といってよいと思います。 そうしたわけで、この特別の機会に第9について何か

          フルトヴェングラー1951年バイロイトの“第9”

          「イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告」

          ハンナ・アーレント著 大久保和郎訳 1994年 みすず書房刊     「アイヒマン調書」の感想にも書きましたが、アイヒマンの名前とその後のイメージを固定化したのは裁判そのものの認知度に加え、アーレントの「悪の凡庸さ」という言葉が定着したことが大きかったと思われます。 そうした意味において、本書の持つ意味は極めて重要であるのは間違いありませんが、実際に読んでみると、これがなかなかの難読書であることが分かりました。   原著は1969年の出版で、いま読めるのは2017年の新装板

          「イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告」

          「アイヒマン調書 イスラエル警察尋問録音記録」

          ヨッヘン・フォン・ラング編 小俣和一郎訳 2009年3月 岩波書店刊 https://www.amazon.co.jp/dp/4000220500   アドルフ・アイヒマンは終戦前後に死亡もしくは戦後ニュールンベルク裁判で有罪とされ処刑されたナチスのホロコースト関係者を除くと、戦後逃亡していた主要な関係者としては最重要人物であり、ホロコーストの実行が行政施策としてどのように実行・処理されていったのかを知るキーパーソンでもあった。 1960年にモサドにアイヒマンが拘束され、

          「アイヒマン調書 イスラエル警察尋問録音記録」

          「ヘルベルト・フォン・カラヤン」

          リチャード・オズボーン著 白水社刊 2001年7月 カラヤンの生涯についての本は数多とあるなかで、比較的中立で、おそらくもっとも詳しいと思われる書籍。 上下2巻、本文のみで900ページほどあります。 著者は英国の批評家で、カラヤンとの対談を綴った書籍「カラヤンの遺言」を死の直後に出版し、基本的には中立的立場ながら、批判的な立場に立つ人には批判的な姿勢が見え隠れする、というスタンス。原著の出版は1998年。       大著なので幼少期の記述が非常に充実していることのほかに

          「ヘルベルト・フォン・カラヤン」

          「捕虜 誰も書かなかった第二次大戦ドイツ人虜囚の末路」

          パウル・カレル  ギュンター・ベデカー共著 2007年9月 学研M文庫 第二次大戦の戦中・戦後にドイツの捕虜が辿った過酷な運命についての驚くべき書籍。 著者は古くからのミリタリーオタクにはお馴染みのパウル・カレルともう一人の共著で、独ソ戦の3巻目が未完となったので、共著者がいるとはいえ本書が最後の著作となります。 初版は1986年、かのフジ出版社。 文庫とはいえ、本文だけで650ページ超の大著ですが、平易な文章で大変読みやすい部類に入るのはパウル・カレルの他の著作と共通す

          「捕虜 誰も書かなかった第二次大戦ドイツ人虜囚の末路」

          「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」

          小野寺拓也、田野大輔著 2023年7月 岩波ブックレット1080 ネット界隈を徘徊していると、たまに出くわすのが本書のテーマでもある“ナチスも良いこともした”論です。このような主張にはナチスの根本的な行動原理を矮小化あるは無視して、事の表層のみで一見普通の行政組織で行われているような「良いこと」もした、といった論法で展開される。常々こうしたコトの本質を見ない物言いには苦々しく感じていたところですが、本書はまさにこうした議論の根本的な部分で論破するための考え方が、理路整然と、

          「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」

          「11/22/63」

          スティーヴン・キング著 白石朗訳 2013年9月 文藝春秋刊   “11/22/63”とはケネディ大統領が暗殺された日の英語表記のこと。 2023年11月22日は丁度60年目にあたります。   主人公の英語教師ジェイク・エピングはメイン州のちいさなダイナーの地下の「穴」から1958年9月9日にタイムトラベルできることを知る。ダイナーの主人アルからケネディ暗殺を阻止するように依頼され、主人公はオズワルドの監視を始める・・・   単行本で上下巻1000ページ強という大ボリューム、

          「11/22/63」

          2023年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃について

          ハマスによるイスラエルへの攻撃で双方の死者は合計900人を超えている、とのこと。 ハマスはパレスチナ自治政府の公的の政府代表となったファタハとは折り合いが悪く、1994年の自治政府発足後、2007年6月にガザ地区を武力制圧して以後、ガザ地区を実効支配してます。 2008年初頭にはハマスがイスラエルにロケット攻撃を行ったことで、イスラエルはガザ地区を封鎖、以後今日に至るまでガザ地区の封鎖は解かれていません。 1994年の自治政府の成立以降、イスラエル側の右傾化が一層顕著になっ

          2023年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃について

          「ヨムキプール戦争全史」

          アブラハム・ラビノビッチ著 滝川義人訳 2008年12月 並木書房刊   10月6日は第四次中東戦争の開戦からちょうど50周年にあたります。 前回の「第三次中東戦争全史」の続きとして今回は第四次中東戦争について。   ヨム・キプール戦争(書名や本文中に中黒「・」はありませんが、中黒は入れるべきと考えます)は第四次中東戦争のイスラエル側の呼称で、著者はイスラエルのジャーナリスト、2004年刊行の本書は第四次中東戦争についての最も新しく詳細かつ包括的な書籍かと思います。   ht

          「ヨムキプール戦争全史」

          「第三次中東戦争全史」

          マイケル・B. オレン著 滝川義人訳 原書房 2012年2月   1967年6月5日から10日にかけて勃発した第三次中東戦争(六日戦争)について現時点ではもっとも詳しいと思われる書籍。  著者はイスラエルの元駐米大使で原著は2002年の刊行。本文で600ページ弱ほどの大著ですが、戦後約40年弱の期間を経て、各国の情報公開とインタビューなどから、戦争の全体像を多面的に描くことが可能になったとのことです。 全体の約半分ほどをかけて開戦に至るプロセスを詳述することで、些細な衝突か

          「第三次中東戦争全史」

          「第三帝国のオーケストラ ベルリン・フィルとナチスの影」

          ミーシャ・アスター著 松永美穂・佐藤英訳 2009年12月 早川書房 ベルリン・フィルはナチスが政権を握った1933年、政権のプロパガンダに利用するため、ゲッベルスの宣伝省の管轄下に置かれ、「帝国オーケストラ」として特別の地位を与えられた。ナチスの公的な機関として様々な役割を担わされると同時に、戦時下で破格の扱いを受けながら終戦まで活動を続けたベルリン・フィルの様子を綴ったノンフィクション。 本書は2015年頃かそれ以前に1回読んでいるのですが、感想を記録していなかったた

          「第三帝国のオーケストラ ベルリン・フィルとナチスの影」