Raupe

さまざまな事象について自分の備忘録を兼ねて駄文を綴っていこうと思います。

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最近の記事

「イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告」

ハンナ・アーレント著 大久保和郎訳 1994年 みすず書房刊 「アイヒマン調書」の感想にも書きましたが、アイヒマンの名前とその後のイメージを固定化したのは裁判そのものの認知度に加え、アーレントの「悪の凡庸さ」という言葉が定着したことが大きかったと思われます。 そうした意味において、本書の持つ意味は極めて重要であるのは間違いありませんが、実際に読んでみると、これがなかなかの難読書であることが分かりました。 原著は1969年の出版で、いま読めるのは2017年の新装板

    • 「アイヒマン調書 イスラエル警察尋問録音記録」

      ヨッヘン・フォン・ラング編 小俣和一郎訳 2009年3月 岩波書店刊 https://www.amazon.co.jp/dp/4000220500 アドルフ・アイヒマンは終戦前後に死亡もしくは戦後ニュールンベルク裁判で有罪とされ処刑されたナチスのホロコースト関係者を除くと、戦後逃亡していた主要な関係者としては最重要人物であり、ホロコーストの実行が行政施策としてどのように実行・処理されていったのかを知るキーパーソンでもあった。 1960年にモサドにアイヒマンが拘束され、

      • 「ヘルベルト・フォン・カラヤン」

        リチャード・オズボーン著 白水社刊 2001年7月 カラヤンの生涯についての本は数多とあるなかで、比較的中立で、おそらくもっとも詳しいと思われる書籍。 上下2巻、本文のみで900ページほどあります。 著者は英国の批評家で、カラヤンとの対談を綴った書籍「カラヤンの遺言」を死の直後に出版し、基本的には中立的立場ながら、批判的な立場に立つ人には批判的な姿勢が見え隠れする、というスタンス。原著の出版は1998年。 大著なので幼少期の記述が非常に充実していることのほかに

        • 「捕虜 誰も書かなかった第二次大戦ドイツ人虜囚の末路」

          パウル・カレル  ギュンター・ベデカー共著 2007年9月 学研M文庫 第二次大戦の戦中・戦後にドイツの捕虜が辿った過酷な運命についての驚くべき書籍。 著者は古くからのミリタリーオタクにはお馴染みのパウル・カレルともう一人の共著で、独ソ戦の3巻目が未完となったので、共著者がいるとはいえ本書が最後の著作となります。 初版は1986年、かのフジ出版社。 文庫とはいえ、本文だけで650ページ超の大著ですが、平易な文章で大変読みやすい部類に入るのはパウル・カレルの他の著作と共通す

        「イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告」

          「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」

          小野寺拓也、田野大輔著 2023年7月 岩波ブックレット1080 ネット界隈を徘徊していると、たまに出くわすのが本書のテーマでもある“ナチスも良いこともした”論です。このような主張にはナチスの根本的な行動原理を矮小化あるは無視して、事の表層のみで一見普通の行政組織で行われているような「良いこと」もした、といった論法で展開される。常々こうしたコトの本質を見ない物言いには苦々しく感じていたところですが、本書はまさにこうした議論の根本的な部分で論破するための考え方が、理路整然と、

          「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」

          「11/22/63」

          スティーヴン・キング著 白石朗訳 2013年9月 文藝春秋刊 “11/22/63”とはケネディ大統領が暗殺された日の英語表記のこと。 2023年11月22日は丁度60年目にあたります。 主人公の英語教師ジェイク・エピングはメイン州のちいさなダイナーの地下の「穴」から1958年9月9日にタイムトラベルできることを知る。ダイナーの主人アルからケネディ暗殺を阻止するように依頼され、主人公はオズワルドの監視を始める・・・ 単行本で上下巻1000ページ強という大ボリューム、

          「11/22/63」

          2023年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃について

          ハマスによるイスラエルへの攻撃で双方の死者は合計900人を超えている、とのこと。 ハマスはパレスチナ自治政府の公的の政府代表となったファタハとは折り合いが悪く、1994年の自治政府発足後、2007年6月にガザ地区を武力制圧して以後、ガザ地区を実効支配してます。 2008年初頭にはハマスがイスラエルにロケット攻撃を行ったことで、イスラエルはガザ地区を封鎖、以後今日に至るまでガザ地区の封鎖は解かれていません。 1994年の自治政府の成立以降、イスラエル側の右傾化が一層顕著になっ

          2023年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃について

          「ヨムキプール戦争全史」

          アブラハム・ラビノビッチ著 滝川義人訳 2008年12月 並木書房刊 10月6日は第四次中東戦争の開戦からちょうど50周年にあたります。 前回の「第三次中東戦争全史」の続きとして今回は第四次中東戦争について。 ヨム・キプール戦争(書名や本文中に中黒「・」はありませんが、中黒は入れるべきと考えます)は第四次中東戦争のイスラエル側の呼称で、著者はイスラエルのジャーナリスト、2004年刊行の本書は第四次中東戦争についての最も新しく詳細かつ包括的な書籍かと思います。 ht

          「ヨムキプール戦争全史」

          「第三次中東戦争全史」

          マイケル・B. オレン著 滝川義人訳 原書房 2012年2月 1967年6月5日から10日にかけて勃発した第三次中東戦争(六日戦争)について現時点ではもっとも詳しいと思われる書籍。 著者はイスラエルの元駐米大使で原著は2002年の刊行。本文で600ページ弱ほどの大著ですが、戦後約40年弱の期間を経て、各国の情報公開とインタビューなどから、戦争の全体像を多面的に描くことが可能になったとのことです。 全体の約半分ほどをかけて開戦に至るプロセスを詳述することで、些細な衝突か

          「第三次中東戦争全史」

          「第三帝国のオーケストラ ベルリン・フィルとナチスの影」

          ミーシャ・アスター著 松永美穂・佐藤英訳 2009年12月 早川書房 ベルリン・フィルはナチスが政権を握った1933年、政権のプロパガンダに利用するため、ゲッベルスの宣伝省の管轄下に置かれ、「帝国オーケストラ」として特別の地位を与えられた。ナチスの公的な機関として様々な役割を担わされると同時に、戦時下で破格の扱いを受けながら終戦まで活動を続けたベルリン・フィルの様子を綴ったノンフィクション。 本書は2015年頃かそれ以前に1回読んでいるのですが、感想を記録していなかったた

          「第三帝国のオーケストラ ベルリン・フィルとナチスの影」

          『薔薇の名前』

          映画版を最初の日本公開の時(1987年)に観て以来、この重厚で多様なテーマを内包した本格ミステリーのことは片時も忘れることはありませんでしたが、原作本が出た際に上下2巻それぞれ3cmほどもあるボリュームに恐れをなして原作には挑戦せずに済ませてきました。 「12ヶ月のシネマリレー」でレストア版がラインナップされたのを機に、罪深い我が人生もとうに折り返しを過ぎ、頭に白いものが目立つこの歳になって、ようやくこの驚くべき書物を手にする機会を得たのでした。 原作を読み始めてまず実感し

          『薔薇の名前』

          「第三帝国のR.シュトラウス 音楽家の〈喜劇的〉闘争」

          山田由美子著 世界思想社 2004年4月 タイトルどおり第二次大戦中のリヒャルト・シュトラウスのナチスのとの関わりについて独自の視点も交えつつ詳述した書籍。 モーツァルトですらナチスの宣伝活動に利用され、その活動に相応しい形にイメージが歪曲されていたことは、先の書籍の感想で書いた通りですが、それ以上に“現役の”作曲家であり、ドイツ音楽界の重鎮であったR・シュトラウスの場合はどうだったのか? R・シュトラウスのナチスとの関わりについての評価は終戦後まもなくから今日に至るまで

          「第三帝国のR.シュトラウス 音楽家の〈喜劇的〉闘争」

          「モーツァルトとナチス 第三帝国による芸術の歪曲」

          エリック・リーヴィー著 高橋宣也訳 白水社刊 2012年12月 ナチスによる作曲家の政治利用といえば、まずワーグナー、R・シュトラウスといったところが思い浮かびますが、モーツァルトとなると、むしろナチスとは最も遠い位置にある作曲家としてのイメージです。 こうしたイメージに対し、実際のところ、ナチスとの関わりはどうだったのか、詳細を知ることができる良書。 本書でも述べられていますが、モーツァルトのイメージとはその音楽の普遍的魅力と故郷のザルツブルクから離れ、ウィーン、パリ、

          「モーツァルトとナチス 第三帝国による芸術の歪曲」

          「ホロコーストを知らなかったという嘘 ドイツ市民はどこまで知っていたのか」

          フランク・バヨール/ディータァ・ポール著 中村浩平訳 現代書館 2011年4月 ブルンヒルデ・ポムゼルがホロコーストのことを知らなかった、という点について書籍版の著者(=解説者)は非常に強い疑念を呈していましたが、こちらの書籍にも触れられている戦後まもなくの1946年に行われた調査結果によれば、ドイツ国民の40%から32%が何らかの形でホロコーストを知っていた、とのこと。 この書籍は二人の著者による共著ですが、本文は前後2編に分かれていて、第1部がナチスが政権に就いた19

          「ホロコーストを知らなかったという嘘 ドイツ市民はどこまで知っていたのか」

          「ゲッベルスと私──ナチ宣伝相秘書の独白」

          ブルンヒルデ・ポムゼル/トーレ・D・ハンゼン著 森内薫/赤坂桃子訳 紀伊国屋書店 2018年6月 本書はゲッベルスの秘書だったブルンヒルデ・ポムゼルが2013年(当時103歳)に語った30時間に及ぶインタビュー+解説を収録したもの。 同名の映画の日本公開に併せ、日本語訳の書籍版が出版されたものです。 映画はこれに当時のニュース映像などを加えて113分に収めたものなので、当然書籍版のほうがポムゼルの発言の収録量は多いということになります。 彼女はベルリン郊外の普通の家庭に育

          「ゲッベルスと私──ナチ宣伝相秘書の独白」

          「カタロニア讃歌」

          ジョージ・オーウェル著 都築忠七訳 岩波文庫 1992年5月 ジョージ・オーウェルがスペイン内戦に際し、POUM(マルクス主義統一労働者党)の義勇兵として参加した記録。 強烈な反共主義的小説として名高い「動物農場」「1984年」の著者がスペイン内戦で共和国側の共産主義政党の民兵として参加していたことは以前から不思議に思っていましたが、その鍵は本書の中にあるのではないか、と思い、読んでみることにしたのでした。 ジョージ・オーウェルは1936年12月から1937年6月までスペ

          「カタロニア讃歌」