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体癖を背景とした小説&三題噺小説「窓を開ける」

 目が覚めて、時計を見たら6時を少し過ぎていた。……ほら、起きなきゃ、……えっと、なんだっけ……眠いよ~…そうだ……!みんなの部屋を回ることになってるんだった!はあ~…絶対にやらなきゃいけないことではないけど、とにかく8種はもう起きてるかもしれないし!

 ベッドから出て、まずはスマホで、モーツァルトのディベルティメントをかける。洗面所に向かい、を見た。少し目が腫れぼったいかなぁ。顔を洗って、歯を磨く。いま何時だろ?一度部屋に戻って時計を見る。6時23分くらい?早くしなきゃ。

 トイレに行ったら生理が始まったようだった。……はぁ~、やっぱりね……。せっかくの旅行なのに…とユウウツになる。するとノックの音がして、「おはようございます」と8種の声がした。わたしはドアを開けて、「おはよう」と言った。「これ飲む?あったかい紅茶持ってきたんだけど」手渡された缶は、ほどよく暖かかった。「わぁ、ありがと~~。…今朝から生理始まっちゃってユウウツだったけど、これで頑張れそう!」わたしはそう言いながら思わず目をつむって、缶を頬にあてた。「それはツライねぇ。体調は大丈夫?」「うん、今日はまだ一日目だから、なんとか大丈夫!」「どうしてもツラかったら言ってね。じゃ、さっそく換気しましょうか」「だねー、5分くらいでいいよね」

 窓を開けると、冷たいが部屋に入ってくる。その清々しさに驚いたけど、12月の風は、やはりすぐに部屋中を寒くする。今年のクリスマスはどれくらい寒くなるだろう。ラストクリスマスのメロディーと鈴の音が、頭の中で響いた。「いただきます。紅茶持ってきてくれて、ほんと正解だよ!ありがとうっ!」「うん」8種は少し笑ってうなずいた。しばらくふたりで何も話さず紅茶をすすった。「もう6時45分だ」「じゃあ1種のとこ行ってみよ」わたしたちは部屋を出て廊下を歩いた。頭の中に、展覧会の絵のプロムナードが流れてきて、ちょっと可笑しかった。ちゃんとしなきゃ、と思い、「1種2種は睡眠が長い傾向にあるからまだ眠ってるかもね…」と言った。「だよね、そしたらノックしても起きないかも」

 1種と2種の部屋に着き、ノックをしてみると、返事がない。「やっぱまだ寝てるかー」わたしはひとりごとのように言った。「はいはい、おはようございます」「おはよ~、換気、大丈夫?」「メール読んだので了解してますよ」と1種が言い、「換気ってふつうに気持ちいいですよね~」と2種が言った。「はーい、こちらこそ了解しました」わたしと8種はドアを閉めて、次の部屋へと向かった。

 3種と4種の部屋に着き、ノックする。「…は~い!…いま、開けるね!」という声と、部屋で動き回っている物音がする。ほどなくしてドアが開いた。「換気だけど…」とわたしは言った。「イヤだあ!だって寒いもん!」「………」押し黙ってしまったわたしをよそに、「っていうか、いつまでもそんな格好してないでさ、まず着替えるとかさ…」と8種が言う。「も~、換気なんかしなくても大丈夫だよお、それよか早くごはん食べたいお腹すいた!どんなバイキングかな楽しみだなっ」「ごはんは換気をしてからです!それにメールの返事には、オッケーオッケーみたく書いてたじゃん!」8種がびしっと言ったけど、そのやりとりにまたわたしは少し笑いそうになる。でも唇を噛みしめてこらえた。「はいはいわかりましたよ、やりますよ、はい、窓開けて5分ね、はぁー、めんどい」「5分なんてすぐだよ~」と4種が笑顔で言う。どちらかというと、4種がごはんをしっかり食べた方がいい気がする。「じゃねー、朝ごはんもあんまりゆっくり食べ過ぎないでよ」「ふぁーい」

 「いや~、ほんとにわかってんのかね3種」と廊下で8種が言う。「それにしても体癖出てたね」わたしはそう言うしかなかった。「確かにね~、さて、次は5種と6種だ」

 部屋に着いてノックをすると、しゃきっとした姿と表情で5種が出てきた。「換気ね、メールみたよ。5分って書いてたけどさ、2分でよくね?てかさぁ、きっとホテル自体に換気システムあんじゃねーの?」6種はまだ寝ていた。しかもぐっすり眠っているようだった。「そんなこと知らないよ~」とわたしは言った。「きっとあるって」「だから知らんっつってるだろ、5分窓開けるだけ。そして閉めるだけ、それだってすぐだよ」わたしは早口で言った。「わかったよ。あーあ、意味ねーし!」「それとさ、6種はきっと朝ごはん食べないんだろうけど、チェックアウトの時間までには用意できるよね?!」「はいはい、それもわかったよ、10時半までにはちゃんと連れてくよ」「よかった~、助かるわ~、じゃ、あとでね」

 次は7種だ。「さっきはガーガー寝てたけど、もう起きてると思うよ」8種がドアをノックすると、7種が出てきた。少し派手目のかっこいいジャンパーを着ている。「換気でしょ?もう終わったよ。あんたたちはちゃんとやったの?それにさ、どうせなら全員の部屋の換気、あんたらがやればいいじゃん」「まあまあ、それもそうなんだけどさ…。それじゃ各自の部屋の意味がないっていうかさ……もう終わったんだ?!わあ、ありがとう!助かるよ!3種とか全然だったからさ」「あー、3種はなんかバタバタ、ぐだぐだして遅いだろね~」と7種は腕組みをしながら言った。そして爆笑した。「さっき部屋にいた時より、なんかすかっとしてる。じゃあ、あと9種のとこ行ったら終わりだから」8種がつぶやいた。

 9種の部屋に着き、ノックしてみると、すぐにドアが開き、「いま5分ぐらい経ったとこ」と言いながら窓を閉めている。「………」「………」「あれっ?!えっ……なんか違った?だめだった?もうちょっと換気した方がいい?」「いやいやいや、いいのいいの、ありがとうちゃんとやってくれて。さすが9種!」「……ほんとに?」「ほんとほんと!……あのね、3種のとこ行ったら、寒いからイヤだの言うし、5種のとこ行ったら2分でよくね?とか言われるし……って訳よ」「なるほど。体癖出てるね~」9種は滑舌良くそう言いながら、かすかに笑っていた。

 わたしと8種は廊下に出た。わたしは両手を頭のうえに広げて伸びをした。「おつかれ~。……開閉の閉の方だからってわけじゃないけど……ほんとに窓閉めてるとこに出くわすと、なんか、ちょっとびっくりしたっていうかね?!」と8種が言った。「どの体癖も、換気だから窓開けたら閉めるんだけどね」「でも、なんかちょうど閉めてた、っていうのが面白いっていうか思い出に残るよこれは」8種は興味深そうに言った。「そうだね……あたしは、今朝8種が持ってきてくれたあったかい紅茶と、それを換気しながら一緒に飲んだことが思い出に残る気がする。ほんとありがとうね」わたしは言った。「またみんなで元気に体癖合宿とかできたらいいよね~」と8種は言った。

 「そうだね、換気確かにめんどくさいけど、このご時世、習慣にするといいのかもね~」とわたしは言った。いろいろあったけど、メンバー全員、元気に合宿に参加できて良かったと思う。そしてこれからも、元気に楽しく学んでいけたらいいなと思った。

 「まだ時間あるから、さっきみたいに何か一緒に飲もうか?!今度はわたしが買ってくるよ。何にする?」「いいね~!じゃあ一緒に行く、ありがとー!」わたしたちは足早に自動販売機へと向かった。    

終。

わたし=10種 です。

 去年の11月24日にポメラで書いて保存した小説です。三題噺のキーワードは、「鏡」「紅茶」「風」です。

 

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