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キックボクシング 9章 ~中学時代に方にぶつかっただけで泣き出してしまった女の子~

「大翔くん、男子たちの誤解も解いた方が良いんじゃない? 女子は殴らないって事が分かっても男子は怖いんじゃないかな?」田中がそう言ったので、大翔は、教室の隅で固まっていた男子にこう言った。
「俺さ、高校入ったら喧嘩しないって決めてたから。あと、自分の学校の生徒を殴ったことは無いんだよね」それを聞いたクラスの男子生徒もドッと集まってきた。
「大翔くんの噂聞いてたよ! ここら辺じゃ蓮介ってやつと肩を並べられるのは大翔くんしかいないって」
「俺もどんな人か気になってて、大翔くんと蓮介くんにちょっと会ってみたかったんだよ。俺の中学じゃ二人のこと知らない人いないよ」
「俺も知ってるよ、総理大臣に銃口突き付けたんでしょ!」
 さっきから俺がやってないことまで鵜呑みにしてる奴がいるのは何なんだよ! 総理大臣に銃口突き付けたって聞いて、信じるんじゃねーよ! 俺そんなことしてねぇよ!
 キーンコーンカーンコーン 予鈴のチャイムが鳴り始業式の時間が近付いてきた。
 日葵先生に体育館(アリーナ)に向かうよう言われ、大翔たちはアリーナに向かって歩き出した。大翔は友達と前を歩いている佐藤を見つけ、声を掛けた。
「佐藤!」名前を呼ばれ、佐藤は友達に「行ってくるね」と言うと、大翔のところに来た。
「なに?」
「いや、そのさ。俺って中学校で怖がられていたんじゃないのか? 田中もだけど、普通に話しかけてくるからさ」
「あー。・・・・・・一定数は怖がっている人もいたけどね。大翔と蓮介くんがヤンキーと喧嘩しているところを目撃した人とかは怖いと思っているかも。あんた達、喧嘩しながらニヤニヤしてるでしょ。それ見た人が怖がっちゃってたんだよね。変な噂とかもあったし」
「なるほど、確かに戦っている時はアドレナリン出すぎて、結構ハイになってるんだよな」
「あんたたちが自分から喧嘩売らなかったのは知ってるけどさ、私も見たことあるけど、二人ともニヤニヤしているんだもん。傍から見たら返り血で血塗れの男二人がニヤニヤしながら人殴ってるんだよ? あたしも見たことあったけど怖くて泣きそうだったから」
「う、ごめん。返す言葉が無いよ。変な噂ってのは何?」
「警察官から銃を奪って持ち歩いているとか、暴力団の息子だとか、何人か人を殺したことがあるとか?」
「どれも全部ちげぇよ! 俺も蓮介もそんなことやってないしそんな人じゃないよ!」
「あそう。まあ、あたしはあんたからキックボクシングの雑誌貸して貰ってから、少し話して平気になったけどね。それでも中学時代の大半の生徒は大翔と蓮介くんのの中学って事で、ヤンキーから喧嘩売られても、全く手出しされなかったらしいし、平和に過ごせていたから何とも思ってなかったよ?」
「それ知らなかったんですけど⁉ 誰も話しかけて来ないし、廊下出方ぶつかった女の子に泣かれたことあったし。蓮介以外の友達は作れないもんだと思っていたんだが⁉」
「・・・・・・覚えてんのかよ」(佐藤は小声でそう言った)
「ん? ごめん、聞こえなかったんだが・・・・・・。」
「何でもないわよ。それで~えっと、誰も話しかけなかったのは、あんたが常に腹空かせてて話しかけても、「う゛~」しか言わなかったんだもん」
「そりゃあれだけ運動して体重維持しないといけなかったからな。毎日めちゃくちゃ腹減ってたんだよ。中学の成長期で部活やってるやつなら分かると思うけど、めちゃくちゃ腹が減るんだ。しかもアマチュアだと減量しちゃいけないから軽率に飯の量増やしたりできないし。それでも、運動のし過ぎで体重がちょっとでも減ったら飯食って増やさないといけないしで、毎日体重計見ながら体重調整して生活してたんだ」
「あそう、それは何となく分かってたけどね。あとさ、肩ぶつかって廊下で泣いた子はあんたと仲良くなろうと思ったのに、あんたが無視してたから泣いたんだよ。その子がわざとぶつかってもあんたが無視してどっか行こうとしたからだから。ホントにバカ。何でその子のこと無視したの?」
「それはガチで知らなかった。俺はその子のこと無視したわけじゃないけどさ、中学で蓮介以外から話しかけられることなんてないと思っていたから、自分のことじゃないと思っていたのかも。俺、蓮介以外の人から話しかけられた記憶ないんだよな」
「・・・・・・そういう事だったのか」(佐藤はまた小声でそう言った)
「はい?」
「と・に・か・く、その子にはあたしから誤解を解いてあげるから。感謝してね」
「いやいいよ。わざわざそこまでしてもらわなくても。多分もう会わないと思うし」
「あっそ」
「でも、その子のことで何か気が楽になったかも」
「なんで?」
「俺さ、肩ぶつかってその子に泣かれてからさ、同じ学校の人にここまで怖がられていたんだなって思ってさ、正直凄く動揺してたんだよね。肩ぶつかったくらいじゃ怒らないけどさ。泣くほど怖い思いさせたのかなって、ちょっと気がかりだったんだよね。怖かった訳じゃないって分かって良かったよ」
「良くないから! その子が話しかけてたのにあんた気付かなかったんでしょ? その子が泣くほど落ち込んだって思わないの? ほんとバカ」
「あー・・・・・・そうだな。じゃあ、その子の連絡先教えてよ。自分で謝るよ」
「え・・・・・・それはちょっと・・・・・・」(無理なんですけど。ってかあたしだし)
「持ってないのか?」
「あ、うん。持ってない。誤解を解いてあげるってのも友達伝いにって事だったから」
「なるほどな、分かった。ありがとな」
「うん。あと、その足どうしたのよ?」
「ああ、昨日ジム練習してたら足やっちゃってさ。折角これからプロと一緒に練習できるってのについてないよな」
「ふ~ん、まあ、顔に怪我とか無いし、喧嘩ではないんだろうとは思ったけど」
「顔の怪我で判断しちゃダメだろ。キックボクシングは練習でも顔に傷ができることだっていっぱいあるんだぞ?」
「確かに。じゃあ中学の時も毎週喧嘩してた訳じゃないんだね」
「それはそうだよ。毎週はしてない月もあるし、毎週してる月もあるし」
「毎週してる月もあんのかよ! あんたの事心配する人もいるんだからね?高校入ったら喧嘩しないって言ってたけど、ほんとにそれ守ってよ?」
「うん、そうだな」
 千夏が最近もの凄く心配してるんだよな。あんまり心配させると千夏が可愛そうだし、喧嘩だけじゃなくて、ジムで怪我することにも気を付けないといけないんだよな。佐藤の言う通りだな。
「そうだな。妹の千夏が心配するし、気を付けるよ」
「あたしが心配してたことに気付けよバカ」(佐藤はまた小声でそう言った)
 二人はアリーナの前に着くと、自分のクラスの生徒が一列に並んでいたので、その列にそっとまぎれた。アリーナの扉が開き、先生、前の生徒が入って行ったので、大翔たちも後に続いた。先生が、誘導しながら生徒たちが指定の席に向かっていく。佐藤と大翔はさっきまで喋っていたので、隣同士で座ることになった。新入生のことは在校生と保護者が拍手で迎えていた。
 大翔からしたら他のクラスの新入生が歩いて席に座るまでの間は暇だった。キックボクシングの試合数が多かったので、経験上緊張に慣れ過ぎていて、緊張感と言う概念を感情から葬り去ってしまっていた大翔は、暇つぶしにスマホで佐藤にメッセージを送った。
『なんか、緊張感が無いんだけど。入学式ってもっとド派手に歌手とか呼ぶもんじゃないの?』大翔がメッセージを送ると、意外にもすぐに佐藤から返信が帰って来た。
『あんたは脳みそ腐ってんのか?』
『この学校倍率高いのに、歌手を呼んでまでして新入生を歓迎する気はないって事だろうな』
『日本の全高校が歌手とか呼んでないから』
『そうなのか⁉ 期待外れだな』
『入学式にそんな期待してんのあんたくらいだと思うから!』
入学式が始まると、二人は携帯をしまった

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